週間READING LIFE vol.339

末っ子中毒《 週刊READING LIFE Vol.339「〇〇中毒 」》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

2026/1/15 公開

記事:パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

大ヒットした映画、信じられないくらい楽になる家電、行列のできる美味い店……、世の中には「あれはいいよ~」と噂になるものがいくつもあるが、私の人生でトップに躍り出た「いいもの」、それが『末っ子』である。

 

誤解のないようにお伝えしておきたいが、もちろん長男9才のまっすぐに私をみつめる瞳には吸い込まれそうになるほど愛おしいし、可愛くて大事な宝物であることに間違いはない。

 

次男であり末っ子の6才が、それらにプラスして持っているものが「赤ちゃん」の要素なのである。

 

いやいやいや。

いうて、もう小学生でしょ? もうだいぶん大きいじゃん。

 

と、かつての自分も思ってはいたのだ。幼児ならまだしも小学生、はたまた中学生の末っ子を指して言う「いつまでたっても赤ちゃん」みたいな話を耳にするとスンとなっていた。

 

初めての育児で右も左もわからないまま「しっ……死ぬんじゃねーぞ!!」という過剰に湧き出る緊張感から、バッキバキの目とガッチガチの腕で守り育てた第一子の子育ては、常に義務や責任感という気持ちが先立っていた。

 

長男が赤ちゃんの時、顔中に湿疹ができて小児科に駆け込んだら「お母さん、これアカだね。もっとゴシゴシ洗ってあげて」と言われ椅子から転げ落ちそうになったことがあった。

どれくらいの強さで洗えばいいのかとんと見当がつかず、カシミヤのセーターを洗うみたいに最大限の優しさを心掛けた結果、顔がアカだらけになったのだ。

 

可愛いとか、愛おしいとか、そんな気持ちよりも生かすことに必死だった。

 

ところが、どうだろう。

自分もついに第二子を産んだとき「こっ、これが、あの噂の末っ子~!?」という現象に見舞われていった。

 

長男のときに苦労しかしなかった授乳も、「ほーれほれ沢山飲みな」と寝ながらおっぱいを咥えさせ楽ちんだったし、ギャーと泣いた顔さえ微笑ましく「どうちたんでちゅか~」としばらく眺めては今しかないと動画におさめたりした。

赤ちゃんの頃の長男を育てていたときの過緊張はどこへやら、次男を育て始めると共に頭のネジがゆるんでいった。

 

「はぁ~かわいい~……」

頭のネジのゆるみと共に、次男への眼差しはハートマークでいっぱいになった。

 

1才が近づいてきてつかみ食べを始めた頃、そのロボットみたいなぎこちなさに萌えが生じた。テーブルの上にボーロをいくつか転がしておくと、一生懸命につかみにいくのだが、まだ手とモノとの距離がうまくつかめない彼はギギギギと少しずつボーロに照準を合わせて手を伸ばしていく。今度は浮いていた手をテーブルに着地させるのだが、その様子はまるでクレーンゲームのアームみたいだ。

 

やっとのことでつかめたと思ったら今度はお口にもっていくのが難しい。

お口の場所がうろ覚えなのか、いったんほっぺにボーロをパンチして、なぞりながらゴールを目指す。どれだけ見ても飽きなかった。

 

そんな様子ですぐに半日は過ぎ、私はいそいそと幼稚園に長男を迎えに行くのだった。

いったん全部を経験してどんな塩梅で赤ちゃんを見ればいいのかわかっていることが、安心感につながっていたのだろう。私のなかでどんどん母性が爆発していくのがわかった。

 

3才になっても可愛らしさはとどまることを知らず、それは匂いにも反映されていた。頭のてっぺんから足のつまさきまで程よく甘いミルクのような匂いで満たしている。私は隙あらば彼を近くに抱き寄せクンクンと鼻を寄せた。

 

とくに夜、一緒に寝るときなどは、彼は私を変態にさせた。

彼の小さいお口から漏れ出るはぁんともふぅんとも言い難い絶妙な吐息が聞こえだすと、これ幸いと体制を整え直した。彼の吐息が直接自分の顔にかかるようにするためだ。

誰も見てやしない。彼の甘い吐息は、すべて私のものだ。

こうやって眠る夜の多幸感といったらなかった。

 

私にしか接触を許さないほど、尖った感性を持ち合わせていた赤ちゃん時代の長男に比べ、「おとうさんもウェルカム!」のニコニコ次男には、夫も無事に骨抜きにされたようだった。

 

次男をみると目尻が下がりすぎていた夫がある日、言いにくそうに告白してきたことがあった。

「あの……こんなこと言ったら怒られそうなんやけど……俺、子供の頃犬飼ってたんやけどさ……その犬に〇〇(次男)が似てて……」

 

おい、ちょっと待てよ、犬に似てるってなんだよ!! と胸がザワつく自分と、あー……なんかわかるかもしれん、次男の可愛さってワンちゃんが人に懐くみたいな雰囲気がある、と葛藤してしまった結果「おっ……お~ん……」と情けない返事をする羽目になった。

 

幼稚園を卒園するときは(もう我が家から幼児がいなくなる!)と寂しさを噛みしめたものだが、そんな心配は全然いらなかったようでまた違う種類の可愛らしさが襲ってきて私を驚かせた。

 

顔や動作から少しにじみでている「赤ちゃんみ」はあるものの、一応小学生になったのだからそれなりにお兄さんのようになるのかと思っていたが一向になる気配がない。時間の概念というものがおそらくまだわかっていない次男は朝の支度がとても遅い。遅刻させてはならないと「もう少し急ごうか? もう〇〇分だよ!」と声を掛けるも彼はいつも右から左だ。それどころかいよいよ間に合わないというギリギリの時間になって「もうお母さんチャリで送っていくから早く!!」と急かしたところニコニコの次男は「ちょっとまって、今これだけやりたいから」と宙に向かって風船をポーンポーンとしだして私の口はあんぐりと開いた。

 

おいーっ!! それ今やることじゃないだろーーーーーーー!!!!!

 

ハァハァハァ……あまりのマイペースぶりにびっくりする。だが同時に、母に怒られると1ミリも思わず無邪気な顔で風船を飛ばし出す次男の可愛らしさに混乱するのだ。あんまりお母さんの胸をかき乱すんじゃないよ、本当にもう。

 

また宿題が大嫌いな次男に毎日机に向かわせるのは至難の業で、大変苦労していたのだが、またもや別次元の可愛さが出現してきて私は泣きそうになった。

 

あまりにイヤイヤなムードを出す次男にこれはいかんと、少し強めにお説教した日があった。

「わかる? これから先もやらなければならない事って必ずあるの。やるべきことをきちんとやる。そういう事から逃げる人間になってほしくない」

珍しく真剣な眼差しと低めの声にビビったのか、随分と響いたようだった。

「はいッ……はいッ……」

目に涙をためた次男はうんうんと首を縦に振りながら私の話を素直に聞いた。

再び鉛筆をノートに走らせ始めて数分後、思いがけない展開が待っていた。

 

「あの……ちょっと……だっこ……してほしい」

今にもワーンと泣き出しそうな表情でそう言ってきた時、私はリビングのテーブルの向かいに座っていた次男に駆け寄り急いで椅子から降ろした。そして床にペタンと座って次男を優しく包み込むように抱っこした。

「わーーーーーーーん!!」

 

愛しさと切なさと可愛らしさがグングン私の心のタワーに積みあがっていって、感情がこんがらがって大変なことになった。クッソ……いつまでも可愛さを更新してきやがる。可愛さの波に溺れてしまいそうだぜ

そんな事を思いながら、次男が「もういい」と言うまでしばらく二人は抱き合っていたのだった。

 

そんな次男の今最大の「kawaii」は、お口のなかにある。つい先日上の前歯が抜けたのだ。

おっと待ってくれよ、これは今までにない可愛らしさだぜ? 予期せぬボーナスタイムの到来だ。

 

「おかあさん、あのね、きょうね、がっこうでね、せきがえがあってね……」

次男が一生懸命、学校での出来事を話してくれているというのに、私は歯抜けの部分を凝視している。不完全な口元、今にも空気が漏れ出そうな歯抜けの部分、これは今しか味わえないという限定的な可愛らしさだ。

 

何の脈絡もなく「ねえちょっとお口アーンして?」とお願いすると、疑問も持たずに歯抜けの部分を見せてくれるし、なんならちょっと笑っている。はぁ~ありがてぇありがてぇ。この可愛らしさで日々の疲れも吹っ飛ぶってもんだ。

 

話に聞いていた「いつまでも赤ちゃんみたい」という可愛らしさがどこまで続くのかはわからない。きっと、子供が赤ちゃんじゃなくなっていってしまうという焦燥感が、より私を中毒にさせているのだ。

 

子供はいつか反抗期が来るし、最後には母の元から巣立っていく。

じゃあ今だけのお楽しみじゃんと割り切って、今日も私は歯抜けの部分を見つめ、吐息を嗅ぐのだ。

 

❑ライターズプロフィール

パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

鬼瓦のような顔で男児二人を育て、てんやわんやの日々を送る主婦。ライティングゼミ生時代にメディアグランプリ総合優勝3回。テーマを与えられてもなお、筆力をあげられるよう精進していきます! 押忍!!

 

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院カフェSHIBUYA

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00



2026-01-15 | Posted in 週間READING LIFE vol.339

関連記事