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食べてはいけない治療 VS 食べたい欲がおさまらない私  


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事: ムー子 (ライティング・ゼミ25年11月開講コース)

突然だが、皆さんは年越し番組として人気だった『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで』の企画シリーズである「笑ってはいけない」を見たことがあるだろうか。

レギュラー陣は、その企画の中でどんなことが起きても笑ってはいけない。

しかし、ゲストで出演する大物芸能人は意外にも全力でレギュラー陣を笑わせてくるし、コント中にも想像もつかないような珍事件が起きてしまうので「笑わない」は結局無理なミッションなのである。

「笑ってはいけない」と禁止されればされるほど、目の前で繰り広げられるおかしい出来事に笑ってしまう。

そして、大しておかしくない場所でも、レギュラー陣が耐え切れずに結局笑ってしまう場面もあった。

笑いを禁止するほど、余計笑いが増幅されるようになっている。

つまり人は禁止されればされるほど、その行動をしてしまう生き物なのだ。

そんな「~してはいけない」ミッションに、私は昨年参加しなければならなくなった。

放射線ヨード治療における食事制限「食べてはいけない」である。

私は昨年甲状腺乳頭がんの手術を行い、微細な癌細胞撲滅と再発防止のためにこの治療を受けることになった。

放射線ヨードのカプセルを飲んで癌細胞に取り込ませ、内側からその細胞を破壊させる。

その際、治療のための放射線ヨードを最大限に取り込む必要があり、普段の食事でのヨードを制限する必要があるのだ。

よって、ヨードを多く含む以下の食材は一切禁止される。

・昆布やのり、わかめといった海藻類、それらを使った出汁

・魚介類(治療程度にもよるが、私の場合禁止された)

・海藻由来の添加物が含まれている食べ物

(アイスクリーム等の乳製品やプリンといったデザート系、食材に混ぜて炒めるだけ系のたれやソースなどのレトルト調味料に含まれていることが多い)

確かに、私は毎日毎回魚介類や海藻を絶対食べているわけではなかった。

ただ、自分へのご褒美に海鮮丼を設定し、出汁の利いた味噌汁を飲んでほっこりするくらいに魚介類や海藻類は大好きである。

普段意識していないものを禁止された途端、脳内はずっと「寿司が食べたい」「鰆の西京焼きが食べたい」という思いにきっと支配されるだろう。

もはや拷問である。

ちなみに今回の場合、間違えて食べてしまいました、は許されない。

ヨード含有率の高いものを間違って食べてしまった場合、医師に報告しなければならないし、その時点で自分が治療できないというバッドエンドだ。

食事制限も勿論だが、神経すり減らし必至の「間違えてはいけない」プレッシャーも追加されたミッションである。

日常で見るものすべて、今まで使っていたものすべてに気を配らなければならなくなる。勿論外食も禁止である。

病院側が、放射線ヨード治療に使う食材の参考プリントを用意してくれていたので「食べてもよい食材欄」を見てみた。

きのこや果実、油脂系や穀類、ほぼすべての野菜、ほぼすべての豆類……「ほぼ」?……微妙に言葉が気になりながらも読み進めていると、調味料や香辛料、加工食品も多く掲載されてはいる。しかし「原材料確認!」の注意書きのオンパレードであった。

結局、そこのあいまいな部分は自分で調べてください、ということなのだろう。

このように禁止の破壊力が凄まじいミッションに挑むことになっているのにもかかわらず、最初から攻略ヒントが少ない。これは少し考える必要がある。

難しいぞ、これは。

「相手が変わらないのなら、自分を変えたほうがマシだ」というコツをよく聞くが、これは今の状況に当てはまるのだろうか。

考えた末「治療方法が変わらないのならば、自分の発想を変えたほうがマシだ」になった。

人は禁止されればされるほど、禁止の方向に意識がいってしまう。

そして、それをしたくなってしまう。

例えば「宿題より先にゲームをしてはいけない」となったときは、どうしても「ゲームをしてはいけない」ことに先に目が行ってしまう。「ゲームしたいな」と気がそぞろになるのも時間の問題だ。

しかし同時に「宿題を先にする」という、今自分が取り組むことが出来る選択肢も残されている。意識を宿題側にもっていくこともできるのだ。

これを参考にして「~してはいけない」ではなく、「○○ならしても大丈夫!」の置き換えの観点でこの2週間を過ごしてみることにした。

まず「食材はこれだったら使っても大丈夫!」という、単刀直入に書かれている情報を探した。

すると、今まで治療を受けてきた人のブログで、その当時の食事日記に行き当たった。

「これだったら食べられる!」という、ヨードが入っていない調味料や加工物の商品を写真に撮り、丁寧にまとめてくれていたのだ。

さらに、使ってもよい食材をまとめたPDFが、ある病院の公式ホームページ内で掲載されているのを発見した。

実際に店舗で売っている商品を複数掲載してくれていたので、わかりやすい。

商品を買う時はそれを参考にすることが出来た。

次に「これだったら作ることが出来るので大丈夫!」の観点だ。

残念ながら、私は料理のレパートリーが恐ろしいほど少ない。

ましてや使ってはいけない食材がある以上、メニューを思いつくのに限界があった。

おまけにこの時期体力が低下してしまっているときが大半だった。

そこは2週間だと割り切って私は同じメニューを頻繁に作った。

それだけだと栄養が偏ってしまうので、申し訳ないが母にも頼んでバランスの良い食事を用意してもらった。

そんなこんなで、食べたい欲を発想の転換でやり過ごし、とうとう放射線ヨードカプセルを飲む日がやってきた。

その後、検査の結果、無事放射線ヨードが取り込まれていることが分かり、治療は順調に上手くいったようである。その点では成功だ。

唯一失敗といえば、前より太ってしまったことだ。

「好きなものを食べることが出来ない」を「食べられるものは食べてもいい」とプラスに

考えた結果が仇になってしまった。

鶏卵、小麦粉といったシンプルな作りで出来た鈴カステラに、細かい砂糖がまぶしてあるお菓子にうっかりハマってしまったのだ。

どうやら隠れ名品らしく、いつも買い物にいくスーパーに推し商品として売られていた。

私の治療の観点からにしたら救いの女神、太るという観点からは禁忌の食べ物を偶然見つけてしまったのであった。

そんなわけで、この「食べてはいけない治療」VS「食べたい欲がおさまらない私」との勝敗は引き分け……で終わった。

学んだことは多かったが、もう二度とこの戦いはこりごりだ。

終わり≫

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