今座っている椅子は、あなたの願いを叶えてくれますか?
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事: 加藤瞳(ライティング・ゼミ25年11月開講コース)
先日、LINEである方からメッセージが届いた。
「いつもありがとうございます! 相談したいことがあります。メッセージで伝えるより直接お話した方がいいと思い、ご連絡いたしました。私からメッセージがあるということは、お察しかもしれませんが……」
メッセージの主は、高校1年の息子が通う学校のPTA会長。1月のこのシーズンにわざわざ会って話をしたいとおっしゃる。それはつまり、私に「役員をやってもらえないか」ということだろう。
会長とは、昨年春に私がPTA活動への参加が決まった時にLINEでやり取りして以降は、はじめて参加した春の委員会と9月の文化祭で、PTAオリジナルTシャツを受け取った時に挨拶したくらいだ。それなのに、どうして私が役員候補に上がったのだろう?
車を走らせて15分。待ち合わせ場所の喫茶店に到着した。会長は店内に入ってすぐ右の席に座っている。笑顔で「急にごめんなさいね」と迎え入れてくれた。
「あー! 思い出した。加藤さん、双子のお母さんだったね。えぇ?! お子さん4人もいるの? お願いしてよかったかなぁ……」
会長は私の家族構成や家庭の状況を聞いた上で、役員の話をしてくれた。
「もし、この話を引き受けてくれたとしたら、会則でね、今回の場合だと加藤さんは来年は副会長、再来年は会長ということになるの」
えぇっ? 会長?! まさか、そんな重大なポジションのオファーだったとは。うっかり会いにきた私は、アホだなと思った。
「文化祭の時に、とても活躍してくれていたと文化祭担当のリーダーから聞きました。加藤さん、素敵な方だしお話を聞いていると責任感があるのがとてもよくわかります」
責任の重い話ではあったが、とてもありがたいとも思った。私は小学校、中学校時代に児童会や生徒会に参加し、学校をよくするとか責任のある仕事にやりがいを感じていたのだ。その時に、会長に憧れを抱いていた記憶がある。ただ、当時は自分から会長に立候補しようとは思わなかった。誰かから推薦されたらやろうかな、という少し他力本願的な気持ちだったのだ。
当時の憧れの姿に自分がなれるかもしれない。
学校の先生と仲良くできるなんて、他のママよりすごいんじゃないか、私。
他の役員とも仲良くなれるチャンス。人脈が広がれば、仕事に繋がっていくかも!
会長自身は好きで役職についた訳ではなかった。たまたま参加した会議で発言したばかりに、やらざるを得なくなったそうだ。
「実際、学校内外の会議やイベントへの参加があるから大変なところもあるよ。でも、たくさんの人が助けてくれます。一人じゃなかったから、会長としてここまでやってこれたの。振り返ると、引き受けてよかったと思う」
彼女は続けた。
「決して楽とは言えないけれど、大人の生徒会のような感じでやりがいを感じてもらえると思います。やってみませんか?」
今までの私だったら、会長の思いに応えようと思って「はい」とすぐに返事をしていたと思う。けれど、何かが引っ掛かる。息子はいい顔をするだろうか。仕事を休まないとならない日も出てくるだろう。会長になれば卒業式で挨拶をすることになる。そうなると、双子のもう片方の卒業式には出られないことが確定。今それを決めてしまっていいのだろうか。
「少しお時間いただけますか? できるだけ早めに返事をします」
そう答えて、帰宅した。
帰宅後、喫茶店での出来事を家族に話した。夫は「まぁ、よく考えたら」、娘は「へー、大変だね」、別の高校に通う双子の一人は「俺の高校だったら、絶対にやらないで」と、どちらかというとあまり良い反応じゃなかった。
しかし、会長職のオファーが来ている学校に通う息子は、「卒業式で母さんがみんなの前で話すのは、ちょっと恥ずかしいかな……。でも、お母さんがやりたいなら、別にいいんじゃない」と前向きな返事をしたのだ。えーっ、やっぱりやるべきなのか。
息子からまぁまぁいい返事をもらったのに、まだ決めきれない。家にあったオラクルカードを毎日引いても明確な答えが出ない。どうしよう。
そんな時、ちょうどいいタイミングで、仕事でもプライベートでもお世話になっている方二人と話す機会を得た。彼らは、私の憧れる生き方をしている。一言で言うと、「好きなことで生きる」を貫いているのだ。私は、彼らに悩みを打ち明けた。
そうしたら、一人の方はこういった。
「それはさ、本当にやりたいことなの? やりたいことだったら、こんなに悩む?」
「人生そんなに長くないよ。『いい人』ってどういう人かわかる? 『相手にとって都合のいい人』なんだよ。瞳ちゃん、『いい人』捨てなさい。新しい生き方をして行こう」と。
もう一人の人は、こういった。
「どっちを選んでもいいと思うよ。でも、その役は瞳ちゃんじゃないとできないお仕事なのかな? そう言われたら、どう答える?」
うおーーーー! 確かに!
二人からの言葉が、めちゃくちゃ心に刺さった。愛のある言葉は頭ではなく、心にズキュンとくる。うわべじゃない、心からのメッセージを私の心に届けてくれた。
「断る勇気を持ちなさい」
うーーーー。「都合のいい人」歴の長い私には、とても苦しい行動を起こさないといけない。
でも、数年経ったら私は50歳になる。いつまで相手の都合に合わせて、自分のやりたいことを後回しにするのだ。それでは、いけない!!!
これ以上、自分の本音を大切にしなければ、後悔する人生を送ることになってしまう。
「断ろう」
決めたら早かった。すぐに会長にメッセージを送り、できるだけ早く会いたい旨を伝えた。
メッセージを送った日の夜、数日前に行った喫茶店で会長と話した。
少しだけ、たわいもない話をしたのち、私はすぐに切り出した。
「めちゃくちゃ悩んだんですが、お断りします。ごめんなさい」
会長は、私が会長を引き受けると思っていたようで、とても驚いていた。私は続けた。
「色々いうと言い訳になるのでやめておきます。ただ、自分のやりたいこと、大切にしたいものに時間を割きたいです。即決できなかったということは、つまり、やりたいことではなかったという意味。お返事を先延ばしにしてごめんなさい。他をあたってください」
会長は複雑な顔をしていたが、私の話を一生懸命聞いてくれた。そして、
「わかりました! 他をあたってみます。見つかるといいなぁ」
といってくれた。
肩の荷がごっそり取れたのがわかった。お腹のぐるぐるもない。脳みそはスッキリしている。
あぁ、こんなにも自分の体に負荷をかけていたのか。ごめん、私。でも、よくやった!
「会長になるべき人が訪れますように」
そう願っていたら、驚くことが起きた。
なんと、たったの2日で次期会長候補が決定したとLINEが来たのだ! 快く引き受けてくれたらしい。
あぁ、やっぱり、私の選択は間違っていなかった。
私は自分が座るべき椅子に無理して座ろうとしていた。
そうしてしまうと、本当にその椅子に座るべき人が座れない。
もし、これからも迷うことがあったら、
「この席は、私が本当に座るべき席なのか」を自分に聞きたいと思う。
もし、その席があなたの座るべき席だったら、あなたの願いはそう遠くない将来、叶うはずだ。
《終わり》
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