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夢のマイホームは「ハチとハトと私」による戦場だった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

2026/1/30 公開

記事:maruha(2025年11月開講コース)

 

「あーーまたハチの巣できとる」

 

ダンナが玄関を出た瞬間に声を上げた。

私も続いて外に出る。玄関ポーチの天井を見上げると、そこにはまだ作りかけの小さなハチの巣があり、その上に見張り役のようなハチが一匹、ぴたりと張り付いていた。

 

不意に、私とハチの目が合った……気がした。

その瞬間、空気がピリッと張り詰める。

お互いに一歩も引かない、無言のにらみ合いだ。

 

戸建て住宅を購入して9年になるのだが、毎年、冬が終わり気温が上がる頃になると、さまざまな生き物たちが我が家を「終の棲家」と勝手に決めて動き出す。

ハチ、ハト、アリ。

彼らは驚くべき情熱で巣作りを試みる。

 

さらには蚊、クモ、ムカデ、ダンゴムシ、G、そして名前も知らない虫たち。彼らはとにかく家に入りたがる。

 

マンション暮らしの頃は、こうした問題はすべて「管理会社」という心強い味方がいた。しかし、戸建てに住むということは、いくら虫が嫌いでも頼れるものは他にない。

 

侵入者(虫)に対し、「防ぐ」か「コロス」か。

対策も、かかる費用も、実行も、すべて自分らでやるしかない。

 

ハチには蜂専用スプレー、アリには巣ごとやっつけるという設置型殺虫剤、G対策にはG用の駆除剤と、家周りに結界を張るように予防スプレーをする。

 

そうしておくとダンゴムシや、いろんな虫がそこでわんさと息絶える。

 

「薬剤の効き目はすごいな~」と感心するのだが、同時に罪悪感も発動してしまう。

私には、妙に共感性が高いという「面倒くさい性質」があったのだ。

 

自分で駆除しておきながら、その死骸を見ると頭の中で勝手に物語が始まる。

 

ハチたちは「巣を作るぞー」「卵を守るぞー」と健気に働いている。

そこにスプレーを吹きかける私……。

 

アリたちは「いいもん見つけたぞ~」と黄色い粒(毒剤)をせっせと運び、結果、巣ごと全滅する。必要な行為だとわかっているし、そうせざるを得ないんだけど、そんな擬人化されたファンタジーが、自らを複雑な気分にさせる。

 

昨年はハトまでウチに住もうとしてきた。

ある日、やけに近くで鳴き声がすると思ったら、外壁の通気口の真下、電気メーターの上にキジバトが巣を作ろうとしていた。その場所は平らではないため、せっせと運んだであろう小枝は、地面にバラバラと落ちている。

 

詳しく調べてみると、キジバトはつがいで繁殖・子育てし、一度その場所を気に入ると何度でも戻ってくるそうだ。巣の中に卵やヒナがいた場合、それを撤去すると「鳥獣保護法違反」になる。産まれる前に対策しないと、巣立つまでガマンするか、自治体や専門業者を呼ばなければいけない。

 

「本当に悪いけど、作ってからじゃ遅いのよ……。こんなすべりやすい所に産んだら卵も落ちちゃうし、やめておいた方がいいよ」

 

とかブツブツ言いながら、メーターの上を塞いで、ハトが入りこめないようにした。

 

これで一安心……と思った翌朝、カーテンを開けると、隣家との境界フェンスにとまる二羽のキジバトと目が合った。一羽は、小枝をくわえたままこちらを「じとっ」と見ていた。目が合ったまま長い時が流れたように感じた。

 

思わず共感脳が全力稼働し、ハトのきもちを想像してしまう。

 

ハト嫁:「わたしの巣は?」

ハト夫:「そこ塞いだのお前か?」

 

ありもしないセリフが頭を駆け巡り、

「いや、だって!」「しょうがないじゃないか!」とか言い訳じみた独り言を発しながら、ただアワアワするのだった。

 

しばらく見つめ合ったあと、二羽は飛び去り戻ってこなかった。

 

「共存できないものには断固とした態度を取るべきだ」

そんな冷静な自分の声も、確かに心の中にいる。

しかし、防いだり殺したりするのもなんだかと罪悪感が残り、いい大人なのに割り切れない。

 

しばらくそんな葛藤にモヤモヤしていたが、ある日ダンナに話すと、

「簡単なことだよ!」と、ドヤ顔で言った。

 

「野生のくせに、すぐ駆除されるような場所に巣を作る。そいつらの危機管理能力が足りないんだよ!」

 

ちなみにダンナは私と違って、共感性がほとんどない思考優位の人間だ。

「それが自然なんだよ!」

 

「……そりゃそうか」

以外にも、その言葉を聞いたとき、妙に納得してしまった。

 

私が彼らを排除しようとする意志も、彼らが必死に生きようとする本能も、そしてこの衝突自体も、すべては大きな「自然の流れ」の一部なのだ。私が家と生活を守るために彼らの侵入を防ぐことは、決して悪事ではなく、この厳しい生態系における私の「役割」に過ぎないのだと。

 

私はそれ以来、少し変わった。

まず、共感してしまう自分を否定するのをやめた。

 

私は、残酷な人間になったのではない。

ただ、自分の大切な領域を守る「責任ある番人」になったのだ。

 

毎年、ドラッグストアの害虫駆除コーナーに行けば、そこには多くの「戦友」たちがいることを知っている。誰もが、自分の暮らしを守るために武装して戦っている。

 

今の我が家は、あらゆる対策を講じた「難攻不落の要塞」へと進化しつつある。ハチが来れば迅速に対処し、アリが来れば毅然と追い出す。そこには、以前のようなジメジメとした罪悪感はない。代わりに、自分の居場所を自分の手で守り抜くという、強い意志が芽生えている。

 

私は今日も家の周りを見回し、ここでの暮らしを守るための小さな判断を積み重ねている。

静かな冬のあいだに「彼らがうごめきだす春」を迎え撃つ心構えは、今年ももうできている。

 

<終わり>

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