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本当の『踊る阿呆』になれた日


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:伊東綾子(25年11月開講コース)

 

「踊る阿呆になる」

そう決めたのは高校2年生の文化祭。


『踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃ損々』
徳島県発祥 阿波踊りの有名なワンフレーズが頭に浮かんだ。その日の私は完全に見る阿呆だった。
恥ずかしさと、悔しさが胸の奥からじわじわと湧き上がってきて、「これから先のおもしろい出来事を、ただ見ているだけの阿保には決してならない」と誓った。

高校2年生の文化祭、学校に隣接する市民ホールの客席にいた。
通っていた高校の隣には市役所があり、私の記憶では150人ほどの客席が作れる小さな市民ホールでバンド演奏などを発表していた。当時はイカ天ブームで、多くの生徒がコピーバンドを組んでいた。軽音楽部はなかったし、音楽の道に進もうなどという本気な感じではなく、部活動もやり、バンドも楽しむといった空気だった。

野球部の彼もTHE BLUE HEARTSのコピーバンドのドラムを担当していて、私はその彼の雄姿を観ようと目をハートにして客席に立っていたのだ。

 

ところが、少し早く着いた私の目を奪ったのは、彼ではなかった。可愛い衣装に身を包み、ヘアメイクでバッチリNOKKOになりきって“楽しい”を身体全体で表現している女子。
正直、普段は目立つような子ではなかったのに、堂々と歌っていた。
眩しかった。
「こんな世界があったんだ……」

「私はなんでこっち側にいるのだろう」
楽しみにしていた彼の演奏は殆ど覚えていない。ただ、不思議なことにホールの後ろから私の惨めな背中を撮られたような映像だけが頭の中に残っている。


それから何十年も経った冬の朝、前日からの雪で冷え込んでいた。
5時半からの朝活を終えて、少しパソコン作業をしていたら、いつの間にかうたらウトウトしていた。
普段なら、このまま作業を続けて1日をスタートさせるのだが……。
今日は日曜日だし
雪が降っているし
予定ないし
寝よう
9時にアラームをセットして再び布団へ潜る。

すると、8時20分にメッセージが入った振動。
まだ眠い。あまり関係のない、グルーブ全体に投げかけたメッセージかなと思いつつも
なぜか気になりスマホを手にすると、尊敬するお方からのメッセージだった。

 

『お昼頃から時間ありますか?
代官山で80年代ディスコ踊りにいきます』


普通寝起きにこのメッセージを読んだら『???』となるが、実はこの日の予定に私は“ディスコ”と書きこんでいた。

共通の知人がDJをするイベント。私にとっては一方的に知る憧れの方。行きたい気持ちはあったけれど、一人で行く勇気がない。今月イベント続きで出費がなぁと、いろいろと行かない理由を作って前日にカレンダ―の予定から削除していた。


これはチャンス、0.2秒で
「行きまーす!」
と返した。

そもそも私はディスコに両手で足りるくらいしか行った事がない。
クラブは恐らく1度もない。35年ぶりのディスコ。令和のディスコのお作法が分からない。

まあ、兎に角今日は一人ではない、ダイヤが乱れるなか、1時間以上かけて代官山にたどり着いた。駅でスニーカーからパンプスに履き替えて、背筋を伸ばし、深呼吸をひとつ。

イザ!

重い扉を開くと
狭い!

想像していたディスコと違うけれど、年齢層はOK(笑)服装OK、聞き馴染みのある曲が爆音でないのも嬉しい。
良かった、ココは居やすいぞ!
今日は同世代の為の大人のディスコなのだ。

ビームライトを頼りに、誘ってくださった姫を探していると、指揮者台ほどの大きさのお立ち台に誘導されて踊っているではないか。
あんなに生き生きと踊る姿、普段見ることがない。きっと80年代を謳歌してきたのだろう。
私も音に身を任せて体を動かし、頭を空っぽにする。
初めは、人の目が気になった。けれど、周りを見るとみんな素敵な笑顔で自由に体を動かし今を楽しんでいる。フラダンスのように、ゆったりと音楽にノッている人も。
雪の中、わざわざ来たのだ。遠慮している場合ではない。

私も自らお立ち台にも立った。高さも大きさも、やっぱり指揮者台くらい。それでも、皆の方を向いて“私を見て”と踊るのだ。

姫は用事で先に帰り、私は残る選択をして、結局最後まで楽しんだ。この決断をできた私に心からの称賛を贈る。


私は知らない場所に行くと、腕を組む癖がある。深層心理で自分を守っているのだと思う。両腕を上げるなんて、なんと無防備な姿勢なのだろう。その日も初めは無意識に両手でガードしていた。ところが、次第に気分が良くなって、自然と手を上にあげて踊っていた。自分自身を解放してあげた感覚と、他者を受け入れるために心を開いた感覚が同時に押し寄せた。

 

両手を上にあげて気持ちよく踊る中で、私の頭上に何十年も鎮座している厚い殻にヒビが入った音がした。高2の秋の誓いは、生き方の柱の一つになっていたが、どうやら自分が安心できる場でのみ実行されてきたようだ。

井の中の蛙が殻を破って、とうとう井戸の縁に立った。

この日私は、自分の外の世界でも通用する本当の『踊る阿保』になれたと確信した。



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