これ一冊でCEOになれる?! ~Yahoo!とGoogleでのキャリアが教えてくれた会議が楽しくなる裏ワザ集~《週刊READING LIFE Vol.24「ビジネス書FANATIC!」》
記事:江島 ぴりか(READING編集部公認ライター)
ひとはなぜ会議に出るのか?
「会議でスマートに見せる100の方法」(早川書房)の著者サラ・クーパー氏は、冒頭の質問にこう答える。
「欠席するうまい言い訳がとっさに思いつかなかったために」
労働時間の実に75%が会議に費やされているらしいが、彼女の独自の分析(?)によると、その会議のうち3分の1以上は次の会議の計画に使われている。そして会議の時間の6分の1はいま言われたことを聞き返すために使われ、さらに6分の3は本来メールで済ませるべきだったことに使われる。
……つまるところ、会議はほとんど無用だということになってしまうが、あなたが努力せずにえらくなって権力を持ちたいのなら、会議は絶好のチャンスだと著者は述べている。
会議は、あなたが社交的で、リーダーの素質があり、クリエイティブな思考能力に優れていることをアピールするためにあるという。たとえ、実際にはそれらを持ち合わせていなくても。というか、えらくなるのにそんな能力は必要ないらしい。
いやいや、そんなバカな。
たぶん、あなたはいま、そう思っただろう。
でも、著者はYahoo!に勤務していたときにこれらの裏ワザを編み出し、Googleのマネージャーになった人物だ。そう言われたら、なんだか説得力があるような気がしないだろうか?
ふり返って、自分はどうして会議に出ているのだろう?
上司と2人きりの打ち合わせにしろ、県内の関係者が各地から集まるシンポジウムみたいなものにしろ、仕事上、もちろん必要だから会議に出ている。
……と言いたいところだが、数合わせのために出席を依頼され、運悪く予定が空いていたとか、クライアントが提示した年間スケジュールに「企画会議3回」と書かれていて、とりあえずやったという実績づくりのためだったりとか、あるいはリーダーの要点がわかりにくくオチもないおしゃべりを聞くだけだったりとかいうことも少なくない。そして正直、「それって、メールでいいんじゃね?」ということも多々ある。往復2時間運転して出向いてまで、明らかにつまらなそうなメンバーの顔を眺める重要性が本当にあるんだろうか?
そんな、出るだけ苦痛な会議で難儀なことのひとつは、たとえ無意味に感じていても会議の内容に真剣に耳を傾けていますよ、という姿勢を見せなければいけないことだ。私の場合、頭が議題を拒絶しているときに思い浮かべているのは、たいてい、今晩のおかずはどうしようか? ということか、恋人からLINEの返事がきているだろうか? の2つだが、もちろんそんなことを悟られてはいけない。
そんなときは、裏ワザNo.4「終始うなずいて、メモをとるふりをする」ことで乗り切れる。メモ帳に書かれたのが、ブリ大根、カレー、あるいは近所のラーメン屋の名前でも、実際にそのメモをチェックする人はまずいない。何かを考えているのは確かだから、この裏ワザは特に難しくない。さらに私のアイデアを付け加えるとするなら、司会者あるいはそのときの発言者の頭頂部あたりに、たまに目線を向けることができればパーフェクトだろう。誰も私が週末のデートを妄想しているなんて思わないはずだ。
ボンヤリしているときに、発言を求められるのは厄介だ。
とはいえ、ここで質問を聞き返したり、ましてやこれまでの話をもう一度要約してとは言えない。
そんなときは裏ワザNo.70「フレームワークやプラットフォーム、モデルが正しいか問う」のが有効かもしれない。ちなみにこれらのカタカナ語の意味をググる必要はないし、そのとき何についてみんなが話しているのか理解していなくてもいいとのこと。要は、どんな話題にでも使えそうで、かつ物事を広く客観的に、ときには深くとらえていそうな、カッコいい言葉をいくつか覚えておけばいいのだ。「江島さん、どう思いますか?」とふられて、「それにはまず、フレームワークの再構築が重要なんじゃないでしょうか?」と返せば、確かにすごいことを言っているような気がする。それにきっと誰も発言の真意を確認しようとはしないだろう。そんな言葉も知らないのか、と思われたくないからだ。実は私もよくわからないんだけど。
こうして、とりあえず何だかすごそうなことを会議で述べていた、というイメージを残すことができるのだ。
せっかくだから、さらに使えそうな、おそらくは多くの日本人にとって非常にあいまいな、カタカナ語を多用したフレーズを考えてみた。
「サスティナビリティを意識したグランドデザインが必要なんじゃないでしょうか」
「プライオリティを重視しながらも、フレキシブルなプランがいいと思います」
「今日のアジェンダについて、ステークホルダーのコンセンサスは得られていますか?」
繰り返すが、これらをよく理解して使う必要はない。理解して発言しているフリでいいのだ。
だって私もよくわからないんだから。
会議で自分がプレゼンをしなければならない場合は、さらに面倒だ。
出席者のほとんどが興味ないかもしれないことを、熱意をもって、それなりに相手を引き付けながら進行する必要があるからだ。こんなときは裏ワザNo.54「パワーポイントの操作をだれかにやってもらう」やNo.60「プレゼンの要点を聴衆に発表させる」が特に効果的だと思う。プレゼンは発表者が緊張を強いられるものだが、この2つの裏ワザは適度な緊張感を聴衆に分散することができ、かつ時間稼ぎにもなる。聴衆の眠気覚ましになるだけではなく、インタラクティブなやり取りをしたことで、なんとなく面白いプレゼンだったという印象を与えることもできるはずだ。そしてプレゼンの準備に多大な労力を要したように見せるためにはNo.56「スライドを何枚か飛ばす」というテクニックが紹介されている。実際に使うスライドの間に、わざと過去のプレゼンや同僚のプレゼンのスライドを挟み込んでおくのだという。「時間があったら、後で戻ります」と言いながら、使うことはない。そういえば私の会社のボスが、ある講演のために70枚以上のスライドを用意していたことがあったが、この裏ワザだったのか。そのときは、なんて時間配分の下手な人なんだ、とあきれたけれど。
このワザは聴衆が発表内容にツッコむ隙を与えない、という点でも優れている。せわしなくスライドを変えていけば、終始発表側のペースで進めることができる。おそらくは、発表後に質問されることもないだろう。「質疑応答の時間がなくなったので、何かあればいつでもこちらのアドレスに」と付け加えても、実際にメールが来ることはほとんどないのだ。
ここまできて、いよいよ「まじめに読み始めたのに、なんだ、ふざけた内容だな!」とお怒りかもしれない。
しかし、様々な会議に出席するというのはステータスのひとつだ。
著者の言うように、会議に呼ばれれば呼ばれるほど、ステータスは上がっていく。
そして、呼ばれるためには、会議で積極的な姿勢を見せ、自分がスマートであることを印象付けることはとても重要である。このことに異論がある方はいないだろう。
そのために、多くの人が飽き飽きしている日常の会議をいかに楽しめるか、ということを著者なりにまじめに考えているのだ(たぶん)。少なくともこの本は、仕事にもっとユーモアが欲しいと思っているあなたの役に立つはずだ。
最後にもう一度繰り返すが、著者は世界的大企業のYahoo!とGoogleに勤めていた人物だ。
ただし、本書の裏ワザを実践したために、無期限の休養中であるらしいことも付け加えておく(2016年発行初版より)。
※サラ・クーパーの愉快な裏ワザブログはこちら。
Office Humor, Technology, Culture – The Cooper Review
❏ライタープロフィール
江島 ぴりか Etou Pirika (READING LIFE公認ライター)
北海道生まれ、北海道育ち、ロシア帰り。
大学は理系だったが、某局で放送されていた『海の向こうで暮らしてみれば』に憧れ、日本語教師を目指して上京。その後、主にロシアと東京を行ったり来たりの10年間を過ごす。現在は、国際交流・日本語教育に関する仕事に従事している。
2018年9月から天狼院書店READING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。
趣味はミニシアターと美術館めぐり。特技はタロット占い。ゾンビと妖怪とオカルト好き。中途半端なベジタリアン。夢は海外を移住し続けながら生きることと、バチカンにあるエクソシスト(悪魔祓い)養成講座への潜入取材。
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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