第12回:ある日の診察室にて《素人投資家いちねんせい実況中!》
記事:安光伸江(READING LIFE公認ライター)
「う~ん、ちょっと、よくないねぇ」
ある日の診察室で、私の主治医はそう言った。株式投資にのめり込んでいる私を心配してのことだ。
私はカルテ上「うつ病」ということになっている。このところ精神状態はずっと安定していて悲観的なところもないのだが、SSRIという種類の抗うつ剤を処方されている関係で、カルテの病名のところにしっかり「うつ病」と書いてあるのだ。現状、お薬は「念のために」飲み続けているだけなんだけど。
今の主治医は下関に帰ってきてからずっとお世話になっているので、もう十年以上診察を受けている。父が老齢で車の運転をやめるまでは車で連れてきてもらっていたが、駐車場で人の車をこするという小さな事故を起こして免許を返納してからは毎週歩いて通っている。毎週診察を受けているといっても重病人というわけではなくて、週に一度ウォーキングして先生と無駄話をしに行く、という感じだ。うつ病には笑わせるのがいい、とかなんとか言って、毎週のようにおやじギャグを飛ばしてくる愉快な先生だ。
父の生前は父のことで愚痴っていたし、乳がんが発覚した時は「さっさと切っちゃった方がいいよ」とアドバイスを受け、母の生前は介護でパニックになっていろいろ相談をしていた。母が死にそうという時から訪問看護にも入ってもらって、グリーフケアというのか、肉親の死を受け止めるためのケアはしっかりしてもらった。
そんなこんなで私にとってうちの主治医は、なんでも相談できるエラいおじさん、という位置づけになっている。先生も大手証券会社(うちとは違うところ)で株をやっているのでその話もする。ソフトバンクのIPOは公開翌日くらいに安くなった時に買って上がったらすぐ売っちゃったんだって。
以来毎週のように株を買ったとか売ったとか言っている私の話を聞いて、先生はちょっと心配になってきたみたい。どか~んと下がるとうつの引き金になるし、どか~んと上がって儲かると今度は逆にハイになりすぎて、躁転といって別の病気(双極性障害、昔でいうところの躁鬱病)を引き起こす危険があるというのだ。
私は最初にアマゾンがどかんと下がったのでパニックになりかけたけど(おかげで担当がお姉さんからにぃちゃんに替わったのだけど)、それからはだいぶ落ち着いていたし、上がったり下がったりするのもだいぶ平気になっていたし、先日ペッパーフードサービスで数万円儲けたのでるんるん♪していたし、明るく楽しく投資をしている、つもりだった。でも先生から見て「ちょっとよくない」ということは、私が醸し出している雰囲気に危ういものを感じたということかもしれない!
う~ん
マイナスが出てもどかんと落ち込まないようにはなったけど、あまり浮かれすぎてもいけないんだなぁ……
まぁ、よくない、と言われたのは、一般口座でマイナスを出そうとしたら出過ぎちゃった話をした時だから、損をしても落ち込まないようにしなさいよ、という忠告だっただけかもしれないけど、でも「躁転」という言葉が出た時には「ヤバいかも」と思った。私は長いこといわゆるうつ病、単極性障害(落ち込む方「だけ」が単極性、ハイになったり落ち込んだりアップダウンが激しいのが双極性)をやってきたけど、これが双極性になったらキツい。お薬も変わるし、日常生活で気をつけないといけないことも変わってくる。
とにかく! ハイになりすぎちゃいけない!
双極性障害は、なるべくなら避けたい!
マイナスを出し過ぎて落ち込まないだけでなく、わ~い儲かった~! といってハイになるのも用心しないといけないなんて、うつ病持ちに株式投資は向いてないのかもしれないな~とも思った。先生も株式投資にあんまり賛成はしてないみたい。先週まではあんなに楽しく株式談義をしていたのに、急に「よくないね~」と言われちゃってちょっとショック。大丈夫かな私。なんだか心配になってきちゃった。
なんでも、ギャンブルといっしょで、最初に勝ったらその成功体験が残り、負けても負けても取り返そうとする心理が働くんだって。ひぇ~。怖いよ。どかんと負けたらうつの引き金になる、というのは理解できるけど、それも怖いよ。もううつ病で苦しみたくないよ。のんびり生きたいよ。
というわけで、自分の中で決めごとを作ることにした。
投資するお金は、今使わない分(使うのを先延ばしする分)に限定する
株価アプリをのべつまくなし見るのをやめる(特に夜中)。
売り買いする値段を自分で決めて、十分な期間を持って指値で取引する。
欲しいのが買えなくても、縁がなかったと思って適当なところで諦める。
今のところこの作戦にしてみようと思う。
とりあえず3月末権利確定で欲しい株はそれなりに買えているから、今はこれでいいかな。隠れ優待(公にはされていないけどサプライズで届くらしい)があるというウワサのカルビーが欲しかったけど、これももし買えなかったら諦めようっと。あとはアメリカ株で指値で出しているのが売れたら、スターバックスの株が欲しいかな~。それもゆっくりでいいや。
あんまり欲張らない、そして落ち込まない。
普通の人でも株をやるならメンタルの安定が大事だと思うけれど、私は長年のうつ病患者という自覚があるんだから、よりいっそうメンタルに気をつけようと思った。
そんなわけで今日の教訓:心安らかに、余裕を持った投資をしよう!
といってもまだ、一攫千金の夢は捨ててないんだけどね(こらこら)。
つづく。
❏ライタープロフィール:安光 伸江(READING LIFE公認ライター)
山口県下関市出身・在住。下関西高、東京大学卒業、東京藝術大学大学院修了。
大学卒業後は東京で声楽・器楽の伴奏ピアニストや音大非常勤講師などの音楽活動をしていたが、2008年9月、リーマンショックの1週間前に病気療養のため実家に帰る。その後2016・2018年と両親を看取る。2016年乳がんの全摘手術と抗がん剤を体験した乳がんサバイバーでもある。LTE契約なしのガラケーとiPhone 2本・Android 1本(格安SIM利用)を合計月4000円ほどで使うなど大のガジェット好き。ライター、セラピストの卵、ブロガー、素人投資家。
天狼院メディアグランプリ 21st season 総合優勝。週間1位複数回。
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