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運を掴む「覚悟」の持ち方《週刊READING LIFE Vol.78 「運」は自分でつかめ》


記事:菅恒弘(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「Facebookでメッセージしてみたら」
 
ある人との出会いは、知人のこの一言がきっかけだった。
 
3年ほど前、仕事で企業の経営者向けのセミナー開催することになり、その講師を誰にするか悩んでいた。これまでセミナーを企画したことのなかった私は、とりあえずネットで色々な経営者向けセミナーを調べてみるものの、「ぜひこの人に公演をして欲しい」と思えるような人を見つけられずにいた。
もちろん潤沢な予算があれば、テレビに出ているような著名人を呼ぶことも可能なのだが、限られた予算では無理な話だ。
 
途方に暮れていた私はある知人を訪ねた。
その知人は仕事柄、顔が広く、数多くのセミナーも開催していた。いつも面白そうなテーマで、個性的な講師を迎えたセミナーは、いつも多くの参加者を集めていた。
そして、何より「今だからこそ、こういったことを大切にしないといけない」といった感覚が非常に近いこともあり、仕事だけでなくプライベートでも困ったことがあるとよく相談する心強い存在。
今の時代だからこそ企業の経営者の方たちに聞いてもらいたい内容は何か、そんなところから意見を出し合い、ある共通のテーマにたどり着いた。それは「行き過ぎた資本主義の中で、これから企業経営で大切になるものは何だろう」ということ。
 
じゃあ、こういったテーマで講演をしてくれるのは誰か。
すると、知人から最初に出たのは、ただ売り上げだけを追求するのではなく、社員やその家族、仕入先や顧客、そして会社がある地域も大切にするような、これから社会で必要とされる会社だけに投資するという投資会社を経営している人の名前だった。
その人は著書もあり、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも出演されていた人。仕事でも講演会でも忙しく全国を飛び回っているような人だった。
 
その数ヶ月前に、たまたまその人の本を読んでいた私も、まさにぴったりの人と思ったものの、明かに予算不足。
「いやー、さすがにこの予算じゃ無理ですよね……」
と、半ば諦めた表情でそんなことを言っていると、
 
「ダメ元でいいから、Facebookでメッセージしてみたら」
そう知人は事もなげに言うのだ。
 
「いきなり連絡するのは失礼だよな」「どうせ断られるだろうからな」と、モヤモヤと考えながら数週間連絡できずにいた。年末も迫ってきて、このまま年を越すのはさすがにまずいと思い、仕事納めの12月28日の昼過ぎ、意を決してメッセージを送信した。
 
本を読んで本当に共感したこと、その考えをより多くの人に伝える場を作りたいと考えていること、予算が限られて十分な謝金が準備できないこと、年明けに上京する機会があるためぜひお会いさせていただきたいとこなど、ついつい思いがあふれて長文のメッセージに。
返信がないことも覚悟しつつも、年明けに返信があることを祈りながら待つことにした。
 
すると、その日の夕方近く、さっそく返信が!
「ちょうど今、新幹線でそちらに向かっているので、15分くらいなら会えますよ」とのこと。
 
あまりにも予想外の返信に、状況を理解するまでにちょっと時間がかかってしまった。
突然メッセージしてきたどこの誰とも分からない私のために、偶然とはいえ会ってもらえるというのだ!
 
もちろん、すぐに会っていただけるようお願いし、参加予定にしていた忘年会はキャンセル。バタバタと企画書をまとめ終わる頃には約束の時間まであとわずか。慌てて約束のホテルへ車を飛ばして向かうことに。
ホテルのロビーにすでに到着されていたその人に慌ててご挨拶した後、すぐに企画書で講演依頼について説明。ついつい思いが溢れてしまい、話すスピードも速くなる。
説明が終わったところで、その人は一言、
 
「いいですよ、引き受けましょう」と。
 
あまりにもあっさりと引き受けていただいたことに、また理解が追いつかない。
それにまだ予算のことも話してないのに、本当に大丈夫だろうかと不安になる。
 
「実はあまり予算がなくて……」と切り出すと、
「いやいや、こんな偶然ないですよね。こうやって会えたことも何かの縁。だからそちらの予算の範囲内で大丈夫ですよ」と。
 
知人の一言で始まり、奇跡的な偶然の出会いで実現したセミナーは、多くの来場者で大盛況。その後、別のプロジェクトにも参加していただいたりと、継続したお付き合いをさせていただくことに。
 
そんな経験に味を占めた私は、翌年以降のセミナーでも同じような手法で講師をお願いすることに。
 
友人が主催した講演会にたまたま参加したところ、その内容が本当に面白かった。テーマは、社員と会社が幸せになる経営。生産性の向上や働き方改革が叫ばれる中、社員と会社の幸せを目指す経営というのは新鮮で、前回のセミナーテーマ「行き過ぎた資本主義の中で、これから企業経営で大切になるものは何だろう」というテーマに通じるものがあった。
 
その講演内容に感激した私は、講演会終了後の名刺交換の際に、ぜひ講演の講師していただきたいことを伝えた。その後、上京した際には、その人がイベントに登壇されることを知ると、そのイベントに押しかけては、また講師を依頼する。そんな厚かましいことを繰り返していた。
その方も著書やテレビ出演は多数、さらに大学の授業や執筆、全国での講演活動と引っ張りだこ。スケジュールを押さえることも難しい上に、いつものように予算に限りがある。
そんな状況で、なかなか話が進まなかったところ、地元の経営者の方たちがその人をお呼びして勉強会を開催できたらとの話が持ち上がる。
そこで講演会と勉強会でのセットでお願いすると、奇跡的にスケジュールが押さえられて実現することに。
この講演会も多くの人に参加し、非常に満足してもらうことができた。
 
ぜひこの人のお話を聞きたい、多くの人に聞いてもらえるような場を作りたいと思ったことが立て続けに実現する経験をした。
予算規模も大きいわけでもなく、たった年1回のセミナーではあるものの、そこにかけた情熱とパワーはかなり大きなものだった。例年であれば、時間もパワーもかけずに、前例踏襲で講師を選定し、事務的に講師依頼をして淡々と実施する。お二人をお呼びしようとした時も、周囲からは「いやいや、予算足りないから無理だよね」「わざわざそこまで手間かけなくてもいいんじゃない」といった雰囲気。
そんな中でも、自分の中では、この人の話を多くの人に聞いてもらいたい、その価値があるという信念を持って行動していると、応援してくれる人が現れ、思いがけず実現してしまった。
 
そんな経緯を人に話すと、「運が良かったよね」と一言。実際に自分でも「運が良かった」と思うこともあるのだが、やはりそこには運の良さを引き寄せた何かがあるはずと考えてしまう。
 
例えば、仕事や事業で大きな成果を出した時。
振り返ると、タイミングや様々な条件がうまく合致して、まさに運が良かったと思えるようなことが多い。
そんな時には、この仕事に価値がある、そしてその仕事を自分がやるんだという信念を持っていたように感じる。
そんな信念を持って取り組んでいると、不思議と周りの人たちは手を貸してくれたり、アドバイスをくれたりしてくれる。そう、信念や真剣さを相手も感じ取り、それに応えようとしてくれる。
 
逆の立場の時もそう。
そんな熱い思いや信念を持っている人に出会うと、その熱がこちらにも伝わってきて、話を聞いているこちらもワクワクしてきて、心が熱くなる感覚を味わうことがある。そうすると、その人に相談されると何かできないかと真剣に考え始める。その人に役立ちそうな情報があれば知らせ、その人の助けになりそうな人がいれば紹介する。気がつけば、何かできることがないかと考えていたりする。
そうやって、熱意や信念を持って行動している人の心の熱は、周りの人にも伝わっていき、その人たちの考え方や行動にまで影響を及ぼすことがあるのだ。
 
そんな熱意や信念は、言い換えるならば「覚悟」なんだろうと思う。
自分がこの仕事をやらないといけない、この問題を解決しないといけない。そんな「覚悟」を持った人たちは、強い意志と信念を持って行動しているからこそ、その言動は心に響くものがある。
だからこそ、そんな人たちは魅力的な人たちばかり。なぜか応援したくなる。
周りにはその人のファンが集まってきて、何か事業で行き詰まったり、うまくいかないことがあると、多くに人が助けてくれる。
 
そうやって「覚悟」を持った人の周りには、人や情報、そして時にはお金も集まり、仕事や事業がうまく回り始める。そんな様子を側から見ている人たちは、ただ「運がいい」と見えるかもしれない。
ただ、それは単に運が良いのではなく、その人の「覚悟」を持った言動が運を引き寄せていて、その運をしっかり掴んでいるのだ。
 
とは言え、「覚悟」を持つというのはなかなか難しい。
そこには、その仕事や事業にかける熱意と信念が必要だから。もちろん、自分で事業をするのであれば、そこには熱意と信念があり「覚悟」が生まれる。
一方、組織で働く人間の場合、今、目の前にある仕事に「覚悟」が持てるかというと、難しいことの方が多いはず。自分自身もいつも「覚悟」を持って仕事に臨めているかというと、必ずしもそうではない。
 
では、どうすれば良いのか?
 
それは仕事を自分の興味・関心に寄せていくこと。
単にセミナーを開催するという仕事であっても、そのテーマを前例踏襲や誰かから指示されて決めるよりも、自分の興味のあるテーマに寄せていくことで、あきらかにモチベーションが変わってくる。
プロジェクトを考える時にも、ただ指示された内容を形にしていくだけでは、やっぱり面白味がない。そこに、自分の興味・関心を持っていること、気になっていることの要素を入れていくことで、与えられた仕事から、自分でやりたい仕事に寄せていくことができる。
もちろん全ての仕事でできることではないけれど、少しずつでもそういった要素を入れていくことができれば、その仕事へのモチベーションは確実にアップさせることができるはず。そして、周りの人の手助けもあり実現身を帯びてくると、そのモチベーションはやがて熱意や信念に繋がり、それは「覚悟」となっていく。
 
さらに、単なるモチベーションアップから「覚悟」にするためにポイントがある。
それは、自分がやりたいこと、やろうとしていることを「言葉にする」こと。
 
「言葉にする」ことには2つの効果がある。
 
1つは、「言葉にする」ことは自分の意思を表明することで、自分のやりたいこと、やろうとしていることがさらに明確化していき、その真剣さも増してくる。自分自身の「覚悟」をより強いものにしてくれる。
もう1つは、助けてくれる誰かが現れること。「あ、それ面白そうだね」という一言で勇気をもらえたり、「それなら○○さんが詳しいから紹介しようか」といったことも。自分の思い誰かにを伝えることで、その実現を手助けしてくれる人が現れる。
そうやって、最初はできたらいいなといったものが、現実味を帯びてきて、やがて自分の「覚悟」も固まってくる。
思っているだけでは実現しないことも、「言葉にする」ことで、実現する可能性は飛躍的に高まる。そう、言葉には言霊が宿っていて、その言葉を発した本人も、その言葉を聞いた人にも大きな影響を与えている。
 
仕事でも、仕事以外でも、熱意と信念という「覚悟」を持って取り組んでいると、その「覚悟」が周りに伝わり、手助けをしてくれる人が現れる。そうすると、自分だけでは実現できなかったことも、思いもよらない出会いや偶然で実現させることができる。
そのためには、その「覚悟」を語ることも重要だ。
側から見れば、単に「運がいい」だけということも、そこには「覚悟」があるからこそ、運を引き寄せ、その運を掴み取ることができるのだ。
 
もし、そんな「覚悟」が持てるものを見つけられたなら、すでに運を掴み始めているのかもしれない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
菅恒弘(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県北九州市出身。
地方自治体の職員とNPOや社会起業家を応援する社会人集団の代表という2足のわらじを履く。ライティングに出会い、その奥深さを実感し、3足目のわらじを目指して悪戦苦闘中。そんなわらじ好きを許してくれる妻に感謝しながら日々を送る。
趣味はマラソンとトレイルランニング。

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2020-05-04 | Posted in 記事, 週刊READING LIFE vol.78

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