新江ノ島水族館、水槽の向こう側

【新江ノ島水族館、水槽の向こう側:第3回】フンボルトペンギン〜命を見守り、つないでいく・前編《天狼院書店 湘南ローカル企画》


2021年/09/13/公開
記事:東ゆか(あずま ゆか)(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
ガラス板を隔てたすぐ向こう側で、ペンギンがスイスイと泳いでいる。水から上がると短い足でヨチヨチと歩き始める。少し首を傾げたり、翼を広げたり、可愛らしい一挙手一投足に目が離せない。水から上がったペンギンが、隣にいたペンギンと羽繕いを始める。
 
みんな仲良しかと思いきや、彼らには縄張りや決まったパートナーがいて、展示室の中では複雑な人間関係ならぬ「ペンギン関係」が築かれているのだという。
 
今回は新江ノ島水族館で10年間ペンギンの飼育を担当している城戸暖菜(きどはるな)さんにお話を伺った。
 

〈城戸暖菜さん〉
 
 

1対1の餌やりで、毎日ペンギンの体調をチェック


ペンギンたちは天窓から差し込む朝日で目覚めます。ちょっと水浴びをしたら二度寝。8時なって私たちトリーターが入ってきて部屋の掃除を始めると、ペンギンたちは本格的に起き出します。
 
私たちの毎日の最初の仕事は展示室の掃除です。ペンギンたちは夜も展示室で寝て排泄をするので、朝一番に岩場や巣箱、プールの底、窓ガラスを掃除します。
 
展示室内は密閉された空間なので、衛生面には特に気を使っています。私たちも展示室の内と外で長靴を履き替えて、入室時には必ず消毒をしています。今流行している鳥インフルエンザに、野生のケープペンギンが罹患したという報告があったので、外部からペンギンたちの健康を脅かす菌を持ち込まないように努めています。
 

 
私たちがせっせと掃除をしている間に、ペンギンたちは水浴びをしながらご飯を待っています。
 
餌やりは32羽、1羽づつ食べさせます。ペンギン1羽ごとに適量が決まっていて、適正体重を維持するために、腹8分目が目安。決まった量を食べなかったらお腹いっぱいなのか、体調不良の可能性もあります。食事に対する意欲もみています。こちらに来ないと思ったら、怪我をしていたこともあるんです。一対一の給餌でペンギンたちの体調を毎日チェックしています。
 

〈給餌の場所には体重計があり、週2回測定し記録している〉
 
ペンギンの給餌方法は施設によってさまざまです。集まってきたペンギンたちに順番にあげたり、量を決めずに投餌していたりするところもあります。新江ノ島水族館では、ペンギンの体調を見るために1羽ごと与えるスタイルを取っているんです。
 

〈今か今かと給餌の順番を待つペンギン。食欲も元気のバロメーター〉
 
前半に餌をもらいにやってくるペンギンは比較的若いペンギン。年配のペンギンたちは順番争いに参加せずに少し離れた場所で待っています。
 

〈給餌の隣では、体重と餌の量を記録している〉
 
給餌には順番があり、まずはメスから。オスは適量の腹八分目では食べ足らず、何度も餌をもらいにやって来ることがあったり、メスを攻撃して先に食べようとしたりするので、適量を守ってメスがきちんと食べられるように優先してます。オスたちも後回しにされるのは分かっているので、ある程度の時間は待っています。
 

〈魚は1匹10グラムほど。1日に400〜600グラムを食べる〉
 
こうして一対一で餌をあげていると、体調管理の他にもトレーニングがしやすくなるメリットがあるんです。飼育員に慣れてもらうように抱き上げたり、触ったりするトレーニングを行うんですが、他のペンギンが周りにいるとつつかれてしまうことがあるんです。そうすると嫌な気持ちが残ってしまってトレーニングが進まない。私たちと1対1になることで、トレーニングに集中してもらうことができます。今年のクラウドファンディングのトリーター体験では、お客さんたちにちょっとだけペンギンに触れてもらいました。トレーニングを重ねることで、そういったことができるようになる子もいるんですよ。
 

〈「名前を覚えている子は呼びかけると反応してくれます。意味は通じていなくても、声をかけながら接しています」(城戸さん)〉
 
 

「痛いけど、ありがとう」ペンギンたちのコミュニケーション


彼らを野生の生き物として扱っていますが、中にはペンギン同士のスキンシップを私たちとしてくれる子もいます。
 
ペアやつがいのペンギン同士は「相互羽繕い」といって、お互いの頭をクロスさせてくちばしで羽繕いをします。これは仲を深め合うための行動。私たちもそれになぞらえて、まだ相手のいない若いペンギンの胸のあたりをこちょこちょとくすぐります。すると、それに応じて私たちの腕の周りや顔をカリカリとつついてくれるんです。
 
これが意外と痛いんです。軽くくちばしでつままれる感じ。「痛いけどありがとう」と思いながら応えています。
 
それぐらい私たちに慣れている子は、近寄ってきて頭を下げるペンギン同士の挨拶をしてくれることもあります。
 

〈展示室の一番の特長はガラス板のすぐ向こう側にペンギンがいること。来場者が手を振るとそれに反応して遊ぶことも〉
 
今後、ペアやつがいを持った場合、私たちとも継続してスキンシップをしてくれるのか楽しみです。一切しなくなる場合もありますし、パートナーが見ていないところでは、反応してくれる可能性もあります。もしかしたら「ペンギンはペンギン、人間は人間」ということで、羽繕いを続けてくれるかもしれませんね。
 
 
〈「同性愛? 浮気? 展示室の不思議な「ペンギン関係」とは? 後編へ続く〉
 
 
 
 
(文:東ゆか、写真:山中菜摘)

□ライターズプロフィール
東ゆか(あずま ゆか)(READING LIFE編集部公認ライター)

神奈川県藤沢市生まれ、長野県育ち。幼少期は藤沢出身の母の帰省時に、必ず旧江の島水族館へ遊びに行っていた。海なし県で育ったため、年に数回訪れる湘南の海に対して人一倍の憧れと愛着がある。

□カメラマンプロフィール
山中菜摘(やまなか なつみ)

神奈川県横浜市生まれ。
天狼院書店 「湘南天狼院」店長。雑誌『READING LIFE』カメラマン。天狼院フォト部マネージャーとして様々なカメラマンに師事。天狼院書店スタッフとして働く傍ら、カメラマンとしても活動中。

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