家計管理に疲れてしまったあなたへ《週刊READING LIFE Vol.61 クリエイターのための「家計管理」》
記事:伊藤千里(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
もう……「家計管理」なんて疲れた!!
節約で我慢するなんてストレスがたまる!!
そう感じている人はいないだろうか??
私は「家計管理」とは、節約の手段だと思っている。
家計管理のために家計管理をする人はいないはずで、節約という目的があるからこそ、家計簿を使って収支を把握し、予算内に支出が収まったかどうかで一喜一憂するのだろう。
スマホのアプリや、続けられる家計簿のノウハウ、また、節約術など、家計管理に役立つ情報は世の中にあふれている。年金制度が破綻していて、老後に2,000万円の貯金が必要と騒がれたのはついこないだのことであるが、それでなくても日本人は昔から、あらゆる手段で「節約」という目的に取り組んできた。
家計管理のために便利なツールや情報はたくさんある。そのうちのどれかが自分にミラクルフィットして、節約に成功したという人もいるだろう。
だが、ツールや情報にふりまわされ、「家計管理」や「節約」を気にしすぎるあまり、精神的に疲れてしまったという人はいないだろうか。
かくいう私は家計管理と節約で精神的に疲弊した国民の一人である。
これからお伝えすることは、家計管理に疲れたあなたを少し元気にしてくれるかもしれない。
家計管理や節約による精神的な疲れから解放される秘訣……それは「我慢しないこと」である。
私は、就職してから28歳まで「家計管理」も「節約」も全く考えたことがなかった。なぜなら、節約を考えなくていいほど収入が多く、そして、仕事ばかりしていて稼いだお金を使う時間がほとんどなかったからである。この頃のお金の使い方は、かなり衝動的で、怠慢で、何も考えておらず思い切りがよかった。いま考えればこうやってお金を使うことで、仕事のストレスを解消しようとしていたのだと思う。
1回8,000円もするマッサージに毎週通い、ほとんど行けないジムの会費を退会するのもめんどくさいからとそのまま支払い続け、ふと目についたマネキンが着ている服を値段も見ずに全身お買い上げし、コスメ代に月2万円以上かけていて、何十万円もする美顔器を何台も衝動買いすること数回……。そして、自炊する時間ももったいないため、頻繁にレストランやカフェで食事をしており、一人暮らしの食費が月5万円以上だったこともある。
こんなにガンガンなんの考えもなく使っていても、お金はどんどん貯まっていった。それほど収入があり、また、それを使う時間がほとんどなかったからだ。
そんな私が、初めて「節約しないとヤバイかも?」と思ったのは、28歳で転職したことがきっかけだった。
当時、私は霞ヶ関で役人として働いていたのだが、霞ヶ関での勤務は公務員といえどもそれはそれはブラックな勤務で、私は朝8時に出勤し毎日終電で帰るるという仕事ばかりの日々を送っていた。
ある日、帰宅するとあるものが目にとまった。
それは、机の上にうず高く、山のように積まれた本だった。
仕事が忙しく、買ったときから一度も触ったことのない本にはうっすらとホコリが積もっていた。
「この本をゆっくり読むことは、定年するまで無理なんだろうな」
私は、本の山を前に泣いていた。
こうして私は、勤務時間通りに仕事が終わるような、自分の時間を自由に使える仕事に転職しようと決意した。数日後、たまたま霞ヶ関駅に貼ってあった「航空管制官募集」のポスターを見て、すぐに採用試験に申し込み、翌年に転職した。
航空管制官は無線機を使って声で飛行機を誘導する仕事であるが、一日に何万人もの命を預かる非常に神経を使う仕事であるため、勤務時間が厳格に管理されている。
転職によって自分が自由にできる時間は格段に増えた。しかし自由な時間が増えた分、勤務時間が減った。そして、勤務時間が減った分、当然のごとく収入は減った。
減ったどころの話ではない、激減だ。
最初に給与明細をもらったときは、あまりの落差に全身が震えた。
収入が減ったので、これまでのお金の使い方を改める必要があった。だが、転職するまで5年間、家計管理も節約も一切やったこともなく、「給料=全額こづかい」の意識で湯水のごとくお金を使って生きてきたのだ。何をどうしたらいいか全くわからないまま右往左往するうちに、私は最悪な方向に進んでしまった。
それまでに染みついた衝動的な金銭感覚があだとなり、極端な「節約思考」に振れてしまったのだ。
例えば、トマト1個買うのにもスーパーを何軒も回り一番安いところを探すようになり、帰宅途中にお腹が死ぬほどすいても買い食いはしないし、外食なんて贅沢はもってのほか、飲み会に誘われるのにも恐怖を感じるようになった。
本だってなるべく中古で買うか、図書館で借りるか、そもそも買うのも諦めるようになった。
「収入が少ないから仕方ない」、そう自分に言い聞かせ、いろいろなことを我慢した。だが、極端な「節約」を続けるうちに、私は精神的に疲れてしまった。そして、節約のストレスから、時々、高額な衝動買いをしてしまい、さらに罪悪感を感じて落ち込むという負のスパイラルに突入した。
ところで、この現象、何かと似ていないだろうか。
そう、節約はダイエットと似ている。
痩せるためには食事制限が必要になるが、食事制限とは我慢との闘いである。
痩せたい、そして、痩せた身体をキープしたいあなたは、大好きなカツ丼やケーキやビールを一生我慢できるだろうか。死ぬまで自分の好きな食べ物を我慢する人生は楽しいだろうか?
節約もダイエットも「我慢」がつきものだが、一生続けるのは辛い。そんなの疲れるに決まっている。疲れて、「もういいや!」となるから、みんなリバウンドしてしまうのだ。
節約とダイエットはすごくよく似ている。
ただ、ダイエットには我慢に対してちょっとした救済措置がある。それは「チートデイ」というものだ。 「チート」とは、英語で「だます」という意味で、何をだますのかと言うと、脳をだますのである。
減量中に食事制限などでカロリーなどが不足し、脳が「飢餓状態」と判断すると、体重を減らさないようにと省エネモードに突入し、停滞期(ダイエットしていてもなかなか体重が減らない時期)となってしまう。
そこで、チートデイと定めた日は好きなものをどれだけ食べてもいいことにする。そうしてたまに大量のカロリーを摂取し、「飢餓状態」ではなかったと脳をだまし、省エネモードを解消し、また減量していくという方法がチートデイの役割だ。
クロスフィットトレーナーのAYAさんなどもこのチートデイを実践しているということで知られている。
チートデイにはこのような効果に加えて、さらに、ダイエットで我慢しているストレスを解消するという効果もあるのだ。
これはお金の節約に関しても応用できる。家計の中に「チートな部分」を作り、我慢しなくていい部分を意図時に作っておくのである。
私はそれを「チート財布」と呼んでいる。
やり方は簡単で、毎月一定額を、いつも使っている財布とは別の小さな財布に入れておくだけだ。そして、その「チート財布」からは、なんでも好きなものを買っていいと自分に許可を出すだけだ。
自分の収支と相談の上ではあるが、私は毎月5,000円をチート財布に入れている。
私はカフェでケーキを食べるのが好きなので、カフェに行くときはその財布の中から好きなケーキを好きなだけ買うことにしている。
「この財布の中身は何に使ってもいい」と決めているので、罪悪感なくケーキを何個も食べられ、月に5,000円もあるのだから、結構高級なスイーツが食べられて満足感も高い。
私はこのチート財布を始めてから、節約疲れのストレスがほとんどなくなった。そしてストレスが減ったので、ダイエットでいうリバウンドみたいに、衝動的に高額な買い物をすることもなくなった。
節約には我慢することも必要だ。
しかし、節約のための我慢をあなたは一生続けられるだろうか?
家計管理は節約の手段であるが、節約もまた手段なのだ。
それは「楽しく生きるため」の手段である。
家計管理で疲れてしまった方、「一生節約」の人生なんてまっぴらごめんという方へ。
「チート財布」をあなたの家計管理に取り入れてみませんか?
◻︎ライタープロフィール
伊藤千里(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
1987年生まれ。同志社大学法学部卒。
両親が公務員のためか「安定、慎重、無難」がモットー。大学卒業後は警察庁に入庁するが、霞ヶ関のブラックな勤務に疲れ果て、28歳の時「世界で最もストレスフルな仕事」と呼ばれる航空管制官に転職。
所轄の刑事時代に被疑者(犯人)や被害者から事件の状況を聞き、供述調書を書いていた経験から「聞いて、書く」ことが得意。