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空飛ぶ家計管理《週刊READING LIFE Vol.61 クリエイターのための「家計管理」》


記事:井村ゆうこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「家計簿? そんなの面倒くさいし、つけてる時間なんてない!」
 
これは、かれこれ13年前に、私が吐いたセリフである。
結婚を目前に控えた私に、「あんたはだらしない性格なんだから、結婚したらちゃんと家計簿くらいつけなさいよ」と、母から説教が飛んできたのだ。几帳面な性格の母は、レシートの細かい項目まで、ひとつひとつ丁寧に書き込んだ家計簿をつけていた。辞書みたいに細かい文字と数字が並んだ、母の家計簿をまねするくらいなら、逆立ちして走る方がよっぽど楽だと、当時の私は思っていた。
家計管理の「か」の字も知らなかった私の嫁入り道具に、家計簿が仲間入りすることはなかった。
 
それから13年。現在の私はというと、家計簿をつけている。
転機は約10年前に訪れた。
 
「あんた、家計簿つけてるの?」
滅多に自分から電話をかけてこない母が、珍しく電話をよこし、質問してきた。
「つけようとは思っているんだけど……仕事が忙しくて……今度のお正月くらいからやろうかと……」
叱られているわけでもないのに、弁解口調になってしまう私の返事をさえぎるように、母が続けた。
「いいもの見つけたよ。ずぼらなあんたでも続けられそうな家計簿」
「なんていうやつ?」
正直あまり興味はなかったが、宝物を探し当てたかのように、はしゃいで話す母をがっかりさせまいと、私は知りたがってみせた。
「がまぐち君!」
 
新しもの好きの母が見つけたのは、「がまぐち君」という名の家計簿ソフトだ。
設計は至ってシンプルで、収入と支出の管理を目的として作られている。データの入力は、あらかじめ登録されている項目をクリックするだけいい。もちろん、自分で項目をカスタマイズすることも可能だ。毎月の収支が蓄積されることで、月間集計や年間集計がひと目で確認できるのもうれしい。
 
「これなら、面倒くさがりの私でも、続けられるかもしれない」と思い、使い始めた家計簿は、今までのところ途切れることなく、10年以上続いている。がまぐち君を導入することで、我が家の「いくら稼いで、いくら使って、いくら残ったのか」という、家計管理の基礎の基礎である「収入と支出の把握」が可能になった。すると、今まで隠されていた秘密が暴露される結果に……。
 
「赤字の月が多すぎる」
 
まだ子どももおらず、夫婦ふたり共働きの時代である。本来なら将来に向けて貯蓄に励むべき時期なのに、この体たらくだ。家計簿をつけ始めて半年もすると、このままではまずいと、夫も私も危機感を抱くようになった。
そこで、結婚以来初の家族会議を開くことになった。主題はもちろん、これだ。
「家計管理抜本改革」

 

 

 

「家計管理抜本改革」の話し合いの結果、私たち夫婦は、大きな方針を以下のように決めた。
 
・自分たちの意思力に頼った節約方法はとらないこと
・時間を味方につける投資を開始すること
・クレジットカードをフル活用すること
 
この3つの方針には、それぞれ理由と実行方法があるので、ご紹介したい。
 
まず、「自分の意思力に頼った節約方法はとらないこと」についてだ。
家計簿をつけ始めて発覚したように、私たち夫婦はどちらも自分に甘い。だから「頑張って節約しよう」と、ゆるい目標を掲げても達成されないことは明白だ。そこで、私たちは信用のおけない自分たちの意思力には頼らず、「やらざるを得ない」環境を設定して、節約することを決めた。
 
具体的には、いわゆる「先取り貯蓄」だ。
先取り貯蓄とは、収入からあらかじめ一定の額を貯蓄に回した上で、残った予算内で生活していくという方法である。節約が苦でなかったり、意思力の強い人であれば、節約して余らせた分を貯蓄という、「収入-支出=貯蓄」でもやっていけるだろう。しかし、私たち夫婦のように意思力の弱い人間には、「収入-貯蓄=支出可能額」という考え方が、絶対に必要だ。
 
一般的に、先取り貯蓄にまわす金額の割合は、月の収入の10パーセントから30パーセントと言われている。しかし、これはあくまでも目安であって、ひとそれぞれ違って当然だ。特にまだ年齢の若い人ならば、5パーセントから始めたって全く問題ないだろう。大切なのは、決して無理をしないことだ。先取り貯蓄をしたばっかりに、生活が極端にギスギスしてストレスが増大しては、本末転倒である。
 
我が家はとりあえず、10パーセントから開始という方針が決まった。そして、次に考えなくてはいけないのが、貯蓄方法だ。定期預金にするのか、株式投資にするのか、はたまた年金保険にするのか……。貯蓄方法も人によってさまざまな選択肢があるだろう。私たち夫婦が選んだのは「時間を味方につける投資」だ。
 
投資とは、将来それ以上の利益になって返ってくるのを期待して、金銭を投入する行為のことを言う。当然のことながら、投資対象の値は、上がったり下がったりする。自分が買った時より値が下がってしまったら、損をすることになるが、誰だって、なるべく損はしたくない。そんな時必要なのが「時間を味方につける投資」という考え方だ。短期間の値動きに一喜一憂することなく、長い目で将来を見据えた投資を継続して行うことによって、最終的な利益を確保するやり方だ。
 
我が家が「時間を味方につける投資」を開始したとき、大切にしたのは「分散投資」だ。
夫婦共に気が小さいので、大きな勝負にでる勇気はない。しかもズボラな性格なので、マメに運用成績をチェックする緻密さも持ち合わせていない。そんな私たちには、放っておいても、お金自身が勝手に働いて、増えていってくれるのが理想的なわけだ。そこで選択したのが、株式と債権を組み合わせたバランス型の投資信託だ。もちろん、リスクはゼロではないので、どの商品を選ぶのかは慎重に検討した。リスクを分散させるために、円建て・外貨建ての違いも含めて、3本の投資信託を採用した。
 
今から「時間を味方につける投資」を始めるなら、「つみたてNISA」という手もある。2018年に始まったこの制度は、年間40万円まで投資することができ、投資開始から最長20年までは運用益が非課税扱いとなる。定期的かつ継続的な方法での投資となるので、その都度難しい投資判断をしなくてもよい。投資対象も金融庁が定めた基準を満たす投資信託とETF(上場投資信託)に限られるため、比較的リスクも低い。口座開設も無料でできるので、投資初心者や忙しいひとには、特におすすめだ。
 
我が家も「つみたてNISA」の子どもバージョンである「ジュニアNISA」の口座を6歳の娘名義で開設し、投資を開始した。時間を味方につけるとは、始めるのは早ければ早いほどよい、とも言い換えることができるのだ。「時間を味方につける投資」を家計管理に取り入れるなら、なるべく早く行動することに越したことはない。
 
「家計管理抜本改革」の仕上げは、クレジットカードをフル活用することだ。
これは、前述した「意思力に頼らない節約方法」と「時間を味方につける投資」とも密接に関係している。
 
私たち夫婦は、クレジットカード会社が、航空会社と提携して発行しているクレジット機能付きマイレージカードを、メインで使用している。これは、クレジッカードを使えば使うほど、航空会社のマイルが貯まる仕組みだ。現在、光熱費や電話料金、新聞代など、月々の固定費は全てこのカードで支払っている。つまり、毎月必ず発生する支出を銀行口座からの引き落としではなく、カード払いにすることで、「マイル」という利益を受け取っているのだ。これは、一度設定してしまえば毎月確実に実行してくれる、節約方法であり、生きている限り続く、長い投資方法のひとつだと言える。
 
マイルを貯める生活をはじめてから現在までの間、夫婦ふたりでマイルを使い、ヨーロッパへ1回、アジアへ1回、ハワイへ1回、国内を2回旅行した。ホテルはネットで格安ホテルを予約し(もちろん、決済はクレジットカードで)、現地で地元の人に教えてもらったリーズナブルなお店を利用し……いずれも超低予算で旅行することができた。
 
自分たちの保有する投資信託の基準価格は、年に数回しかチェックしない夫と私だが、自分たちの保有するマイル数はこまめにチェックしている。あと何マイル貯まったら、今度はあそこへ、その次はあそこへ行こうと考えるのが、旅好き夫婦のたのしみなのだ。
 
「家計管理」とは、自分がパイロットとなり、人生の目的地へ向かって、飛行機を操縦することではないだろうか。
 
最初離陸したとき、その飛行機に乗っているのは自分ひとりだけだ。収入という燃料を使って、どのくらい時間をかけて、どこへ寄り道して、どの目的地へ向かうのかは自由だ。補充された燃料をすぐに使い切ってしまい、不時着するも、大切に使いながら遠くまで飛ぶのも、パイロット次第だ。
 
そして、飛行機に搭乗者が増えたときが、パイロットの腕の見せ所だ。
搭乗者は、恋に落ちて共に飛ぶことを誓い合ったパートナーであるかもしれないし、ふたりの間に生まれた子どもかもしれない。はたまた現役を引退した先輩パイロットである、自分の親かもしれない。
 
搭乗者が増えた分だけ、協力して燃料を増やし、効率よく飛行しなければいけなくなる。
これが「家計管理」だ。入ってきた燃料をただ使うのではなく、それぞれのやり方で工夫して増やしたり、温存することによって、飛べる距離は長くなり、突然の進路変更も可能になる。
 
燃料不足を心配しながら、この広い世界を旅するより、いざという時のために第2、第3の燃料タンクを用意して、旅をする方が断然安心安全で、たのしいのではないだろうか。私はそのために、「意思力に頼らない節約」と「時間を味方につける投資」をしているのだと、今回改めて感じた。
 
ものを創造し、世の中に自分の持てる価値を提供するクリエイターならなおさらのこと、「自由な飛行」を求めるであろうし、また求められるはずだ。
 
さあ、もう飛行機は離陸している。
この先どんな航路を描きたいのか、マッハで考えてみてはいかがだろうか。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
井村ゆう子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

転勤族の夫と共に、全国を渡り歩くこと、13年目。現在2回目の大阪生活満喫中。
育児と両立できる仕事を模索する中で、天狼院書店のライティングゼミを受講。
「書くこと」で人生を変えたいと、ライターズ俱楽部に挑戦中。
天狼院メディアグランプリ30th season総合優勝。
趣味は、未練たっぷりの短歌を詠むことと、甘さたっぷりのお菓子を作ること。


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