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私って「重い女」ですか《週刊READING LIFE Vol.65 「あなたのために」》


記事:射手座右聴き(天狼院公認ライター)
※事実をベースにしたフィクションです
 
 
「私って、重い女ですか」
今日の相談者もこんな風に問いかけてきました。
このセリフ、月に2,3回は聞きます。まったく見知らぬ女性からの恋愛相談です。
なんで、こんなおっさんに恋愛相談をするのか。というと、答えは簡単で、私が、おっさんレンタルというwebサイトに登録しているからです。1時間1000円で、様々な依頼をこなす、おっさんレンタルでも、恋愛相談は、定番の仕事です。
 
「そうですね。正直、そう感じるかもしれませんね」
なぜか、その日は、いきなり断定してしまいました。相談ではいきなり断定しないようにしているのに、聞き役に徹しようとしているのに、心の何かが穏やかでいられなかったのです。
 
「やはりそうですかね。私、土日、全部スケジュール入れないで、彼のために
待ってるんですよ」
「土日、予定入れないんですか」
まるで、刑事か報道記者のような彼女です。
「彼、会社経営してるので、いつ休みになるか、わからなくて」
「なるほど。ギリギリに連絡がくるんですか」
「そうです。忙しい彼のために、家も引越しました。超狭いけど、恵比寿のワンルームに引っ越したんです。ここなら、呼ばれてもすぐに行けるかなって」
現場に急行できる消防士のようです。
「恵比寿のワンルームすごいですね。アクセスよくて羨ましいです」
「めちゃ狭いし、家賃結構しますし、かつかつですよ」
「たしかに、高い地域ですよね」
「あと、平日もメイクを落とすのは2時過ぎなんです」
「どういうことですか」
「彼が夜中に連絡してくることもあるので、油断できません。
2時過ぎまで連絡がなかったら、メイクを落として寝ます」
「えええ。でも、お仕事、朝早いんじゃないですか」
「8時出勤なので、6時に起きればなんとかなりますし、4時間は寝られますし」
「タフですね」
「彼のため、と思えば、辛くないです」
私は、ため息をついてしまいました。
「すごい。徹底している。それなのに」
彼女も、ため息をつきました。
「それなのに、最近、彼からの連絡が途絶えてるんですよ」
「いままで、こんなことなかったんですよね」
「そうです。いつも返信くれてたのに」
私は聞いてみました。
「彼にはどのくらいのペースでメッセージしてたんですか」
「朝と夜、ですかね」
「1日2回ですか?」
「そうです。朝起こすのときと、夜に、翌朝何時に起こしたらいいかの2回です」
「毎日、起こしてあげるんですか」
「そうです。彼は、朝少し遅いので」
「それが連絡なくなったんですね」
「はい。私が重かったのかな」
彼女は少し涙ぐんでいました。
「たしかに、朝、起こしてくれるのは助かるけど、毎日だと、監視されてるみたいですね」
「そんなことないです。これは、彼のためになるんと思うんです」
彼女は少し、むきになったようです。
私は、聞いてみました。
「佳恵さん(仮名)は、彼のために、いろいろしてあげてますよね。時間も極力合わせようとしているし、近くに引っ越したし、朝起こしてもあげている。でも、彼からは、連絡が来なくなった、ということですよね」
「はい」
「彼は、佳恵さんに、起こしてくれ、と言ったんですか」
「電話してたときに、8時半に起きなきゃいけないけど起きれるかなって言ったので、
じゃあ、起こしてあげるって言いました」
「佳恵さんから言ったんですね」
「そうですね」
「家はどうですか。引っ越してほしい、って言われたんですか」
「彼が遠いから、深い時間は会えない、って言うから引っ越しました」
「佳恵さんから言ったんですね」
「そうですけど、彼も会いたいかなって思ったんですよ」
また、彼女は少しムキになります。
「そうですよね。彼も会いたかったと思います。佳恵さんは、忙しい彼の気持ちを察して、土日を開け、近くに住み、朝起こし、ということをしてたんですよね」
「そのつもりです」
「ところが、彼は、そうしてくれ、とは言っていないわけです。たぶん、近くに引っ越してくれたことも、時間を開けていてくれることも、最初は嬉しかったはずなんです。それがだんだん、当たり前になったんじゃないでしょうか」
「当たり前に?」
「そう、当たり前になったのかなあと思います。当たり前だから、ありがとう、も言わなくなった。そんな感じじゃないでしょうか。逆に、佳恵さんは、不安になっていきますよね」
「はい。不安でした」
「不安だと、もっとこうした方が、彼のためになるんじゃないかって、いろいろやりますよね」
「はい。忙しいなら、合鍵作って、掃除しようかって、言いました」
「そしたら?」
「自分でやるって」
「そう言われると、また、新しいこと考えますよね」
「はい。最近は、彼のために、何をしてあげようかなって考えてばっかりです」
私は一呼吸置いて言いました。
「本当に申し訳ないことを言うのですが、それが、重いんだと思います。すみません」
あー、はっきり言っちゃった。相談では、肯定しながら話を進めるべきなのに、言ってしまった。
「重いですか。じゃあ、どうしたら、いいんですかね。彼のためを思っているのに」
彼女は若干涙を見せた。
「軽くしてあげてください」
「軽くって?」
「連絡を少なくしてみてください」
「少なくしたら、もっと返信来なくなるんじゃないですか」
「でも、このまま連絡したら、もっと重くなります。少しでも連絡を減らして。できれば連絡をやめた方がいいです。最低でも二週間くらい」
「そんな。彼が離れちゃうかもしれません」
「土日待っててくれて、近所に引っ越してくれるような女性から、2週間で離れるような男とは、これから先も幸せになれないでしょう」
「まあ、言われてみれば」
「少し離れたら、佳恵さんのありがたみを思い出すはずです。そういう男の人なら、これから先つきあっていけるだろうし、恋愛の重さも調整できるんじゃないでしょうか」
「理屈ではわかるんですけど、連絡しないなんて、怖いです」
彼女は言います。
「怖いけれど、このままの重さで連絡を続けたら、彼も怖いと思いますよ。
いままでの佳恵さんの行動で、気持ちはしっかり伝わっているはずです。そこまでしてくれる女性はなかなかいない、というのも実感してるはずです。ただ、ちょっと今、重いだけなんじゃないでしょうか。彼の中で恋愛よりも仕事の比率が高いのかもしれませんし。まずは2週間、我慢してみませんか。これも、彼のため、ということで」
 
「彼のため、ですか。できるかな。でも、どうしてそんなに、想像できるんですか」
あ、もしかして、重い女の人と付き合った経験あるんですか」
彼女が言った。
あー、痛いところを突かれた。
「いや、つい思い出して、熱弁してしまいました。すみません、おっさんのくせに
恋愛を熱く語ってしまって」
「ほんとですよ、おっさんのくせに」
彼女が初めて笑ってくれました。
 
「それじゃ、おっさんじゃない人の意見も紹介しましょう」
「誰ですか」
「会いたくて震えてたカリスマ女性歌手の方が、こんなこと言ってました。今の私なら、不安にさせる男は選ばない、って」
彼女は、また、違う笑い方をしました。

 
 
 
 

◽︎射手座右聴き (天狼院公認ライター)
東京生まれ静岡育ち。新婚。会社経営。40代半ばで、フリーの広告クリエイティブディレクターに。 大手クライアントのTVCM企画制作、コピーライティングから商品パッケージのデザインまで幅広く仕事をする。広告代理店を退職する時のキャリア相談をきっかけに、中高年男性の人生転換期に大きな関心を持つ。本業の合間に、1時間1000円で自分を貸し出す「おっさんレンタル」に登録。5年で300人ほどの相談や依頼を受ける。同じ時期に、某有名WEBライターのイベントでのDJをきっかけにWEBライティングに興味を持つ。天狼院書店ライティングゼミの門を叩く。「普通のおっさんが、世間から疎まれずに生きていくにはどうするか」 をメインテーマに楽しく元気の出るライティングを志す。
天狼院公認ライター。
メディア出演:スマステーション(2015年),スーパーJチャンネル, BBCラジオ(2016年)におっさんレンタルメンバーとして出演

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