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「我慢にも限界がある」――炎の中で叫ばれた沖縄の記憶≪インフィニティ∞リーディング体験記:宝島≫


*この記事は、「ハイパフォーマンス・ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

2025/10/23公開

記事 :マダム・ジュバン(ハイパフォーマンス・ライティング)

 

 

「我慢にも限界があるんどお」
「なんくるないで済むか、なんくるならんどお」

今もグスクの叫びが耳から離れない。

 

小説から映画へ――「戦後」ではなく「占領下」の現実

今日映画『宝島』を観てきた。

前回のインフィニティ∞リーディング体験の後、原作を読み、いてもたってもいられず映画館へ足を運んだ。

と言うのも私自身が戦後沖縄の実情をほとんど知らず、その歴史的背景にショックを受けたからである。

小説『宝島』を読んだとき、私は戦後の沖縄を生きた若者たちの姿を、抵抗と希望の物語として受け止めていた。

だが、今回映画として観た『宝島』は、私の想像をはるかに超えていた。

スクリーンに映し出されたのは、「戦後」ではなく「占領下」の沖縄であり、そこで生きる人々の、声にならない叫びだった。

その映像の重さと静かな怒りが、観終わったあとも胸の奥に残り続けている。

 

ヤマコと子どもたち――壊された日常

映画『宝島』(大友啓史監督 2025年公開)は、真藤順丈の同名小説をもとに、戦後の沖縄を生きた若者たちの青春と闘いを描いた作品である。

史実を背景にしながらも、フィクションとしての力強さとドキュメンタリー的なリアリズムが融合し、観る者に「生きるとは何か」を問いかけてくる。

 

物語の中心となる若者たちは、「戦果アギヤー」と呼ばれるグループで、米軍基地から物資を盗み出して生活の糧とし、それを地域の人々に分け与えていた。これは創作ではなく、実際に戦後沖縄に存在した。

物語はリーダーのオンちゃん、グスク、レイ、ヤマコという若者を中心に展開される。

リーダーのオンちゃんはグループのカリスマ的存在。彼は嘉手納基地に潜入し米兵に追われながら忽然と姿を消す。
そしてオンちゃんの恋人、ヤマコ。

オンちゃんに憧れる少年・グスク。

グスクの弟、レイ。
彼らの運命が交錯することで、戦後の沖縄が抱えた「痛み」と「怒り」があぶり出されていく。

 

恋人のオンちゃんを見失いながらも大人になったヤマコは、「戦果」でオンちゃんたちが建てた小学校で、教師として生きる道を模索する。
貧しいながらも、子どもたちの笑顔が教室を明るくしていた。彼女は少しずつ日常を取り戻していく。
だが、その日常は突然奪われる。
米軍機が学校に墜落し、十二人の子どもたちが命を落とす。

無邪気に「先生、あれ見てみて」と窓に群がる子どもたちの姿が切ない。
この悲劇は実際に起きた事件でインフィニティ∞リーディングの講義でも聞いていたが、映像で観たときの衝撃は言葉を失うほどだった。
炎に包まれた教室、叫び声、散らばったノート。血まみれで運び出される子どもたち。
あの穏やかな風景が、一瞬で地獄に変わる。
戦争は終わってなどいなかった。
沖縄にとって“戦後”とは、形を変えた占領の始まりだったのだ。

 

女たちの闘い――沈黙に宿る強さ

映画は、戦後を生きる女性たちにも焦点を当てる。
米兵を相手に身体を売らなければ生きられなかった女たち。
その中には、犯罪の被害者でありながら加害者が無罪となる現実に晒された者もいた。
年老いたおばあが言う。

「見て見ぬふりをせんと生きられないさあ」
この言葉が深く胸に残った。
見て見ぬふり――それは諦めではなく、耐えて生き延びるための知恵だった。
沈黙の中にこそ、女たちの強さと悲しみが宿っている。
戦後の沖縄で、声を上げることすら罪とされた人々の、静かな闘いがそこにあった。

 

グスクの叫び――生き残ってしまった者の痛み

 

映画の前半で、グスクの叫びが胸を貫いた。

大人になり警察官となった彼は任務として洞窟に入り、そこに残された集団自決の痕跡を見て泣き叫ぶ。

グスクは、かつて集団自決を迫る親から逃げ生き延びた子どもだったのだ。

日本軍が住民に自決を強いたという事実もあったという。

「生きてはいけない」と命じられた者たち。

その狂気の中で、グスクとレイだけが生き残った。

だからこそ、彼の叫びには、生き延びた者の罪悪感と怒りが宿っていた。

あの洞窟の暗闇は、過去の記憶ではなく、今も続く影のように感じられた。

 

戦果”の真実――踏みにじられた命

そして後半、物語の核心が明かされる。
オンちゃんが命を懸けて守った“戦果”――それは武器や金ではなく、ひとりの赤ん坊だった。
米国軍人上層部と日本人女性との間に生まれた私生児。
母親は嘉手納基地の金網の中でその子を産み落とし、命を落とす。
オンちゃんは基地に潜入した時、偶然その赤ん坊を見つけ、人身売買や米軍の証拠隠滅から守るため、自分の命に代えてでも連れ出すことを決意する。

米軍はこの私生児のスキャンダルを隠すため、オンちゃんの行方を執拗に追う。
“戦果”とは、権力が隠したい真実であり、踏みにじられた命そのものだった。
だが、その子も成長したのち、皮肉にも米兵の銃弾を浴びる結果となる。
救おうとした命が、再び奪われる。
この連鎖にまったく救いはない。


しかし私は思う。
この“救いのなさ”こそが、戦争の真実なのだと。
そこには希望の光などない。
それでも人は、生きようとし、守ろうとする。
オンちゃんの背中には、その矜持が刻まれていたのかもしれない。

 

怒りの爆発――コザ暴動の熱

 

映画はやがて、沖縄の怒りの頂点――コザ暴動へと至る。

統治下の沖縄では、米兵による犯罪が年間千件を超えていたが、裁かれることはほとんどなかった。

積もり積もった怒りが、ある夜ついに爆発する。

街が炎に包まれ、グスクが叫ぶ。

「我慢にも限界があるんどお」

「なんくるないで済むかあ、なんくるならんどお」

その叫びは、米軍への怒りだけではない。

沖縄を置き去りにしてきた日本政府への怒りでもあったろう。

燃え上がる車、壊れたガラス、怒号。

5,000人のエキストラを動員したという暴動のシーンには異様な熱があった。

フィクションでありながら、まるで当時の映像資料を見ているような現実感。

――実際には約6時間にわたり、数千人の群衆が75台以上の米軍車両を転覆させ、焼き払った という。

そういった説明を削ぎ落とした演出が、かえって心を締めつけた。

この場面を観ながら、私は思った。

“なんくるない”という言葉の裏に、どれだけ沖縄の人々の我慢と絶望が積み重なっていたのかと。

 

沈黙と問い――今を生きる私たちへ

 

この映画は、フィクションでありながら徹底してドキュメンタリー的な手法を取っている。

説明が少ないため、一見わかりにくい。

だが、だからこそ感じ取ることができるものがある。

それは、映像だからこそ伝わる“沈黙の重み”であり、“怒りの温度”である。

コザ暴動のシーンで感じた熱量――それは、沖縄の人々の心の奥底に溜まり続けた感情そのものだった。

 

映画を観終えたあと、私は静かに考えた。

「見て見ぬふりをせんと生きられない」

この言葉は、戦後の沖縄だけの話ではない。

私たちもまた、日常の中で見て見ぬふりをして生きてはいないだろうか。

これだけの大作、誰もが知るべき現実をテーマにした映画なのにヒットすることもなく早々に上映を打ち切られている現状。

日々の暮らしの中でも理不尽や不平等を前に、声を上げることを恐れ、黙り込むことも多い。それは現代の私たちにも突きつけられている問題である。

 

痛みを見つめる勇気

 

『宝島』は、戦争を描いた物語ではない。

それは、奪われ続けた命と尊厳を取り戻そうとする人々の物語である。

オンちゃん、ヤマコ、グスク――彼らの生き様を通して、私は“生きる”という行為の重さを突きつけられた。

見て見ぬふりをせずに、痛みを見つめる勇気。

それこそが、今の時代を生きる私たちに求められていることなのかもしれない。

 

そして、この映画を観たのはインフィニティ∞リーディングの課題がきっかけだった。
もしこの学びの場がなければ、私は『宝島』という作品にも、沖縄の痛ましい歴史にも出会うことはなかっただろう。
本を通して広がる世界が、現実の出来事へとつながっていく――その体験こそが、インフィニティリーディングの醍醐味なのだと大いに実感した。

 

知ることは、生きる力につながっていく。

年齢を重ねても、ただボンヤリと流れてくる情報だけに惑わされず、知りたいこと知るべきこと全てにアンテナを張り探究心を枯らさない。

そんな生き方をこれからも静かに続けていきたい。

 

≪終わり≫

 

インフィニティ∞リーディングのリンクはこちらから
https://tenro-in.com/category/infinity_reading/

 

 

 

 

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2025-11-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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