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銭湯、それは産後うつの特効薬。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:RICA(25年・年末集中コース)

 

「はぁ、今日も寝付けない……」

 

今日で何日目だろう。

連続して4時間眠れていないのは。

 

うちのベビーは、ちょこちょこ起きてくるタイプだ。産後3ヶ月を過ぎても、よくて3〜4時間で目を覚ます。妊娠後期から夜中に何度も起きるようになっていたこともあり、4時間連続で眠れたら奇跡、という日々が、かれこれ半年以上続いていた。

 

夜になり、体はくたくたで、隣ではベビーがすやすやと眠っている。「今こそ回復に充てるべき」と頭では分かっている。分かっているのに、そういう時に限って、全然寝付けない。

あぁ、妊娠前、6時間連続で寝て「寝不足だ〜」などとぼやいていた、あの頃の自分を呪いたくなる……。

 

そうこうして、なんとか寝ついたと思ったら、うとうとしている間にベビーが起き始める。それを何度か繰り返すうちに、もう朝だ。重だるい気持ちで起き出し、また一日が始まる。体は疲れ切っているはずなのに、昼間はなぜか昼寝ができない。寝不足のまま一日を過ごし、夜になると目が冴えてしまう。そんな日々だった。

 

ベビーは世界一可愛い。

それは、私にとって不動の事実である。

 

それでも、寝不足のまま朝から晩まで続くワンオペ育児は、本当にきつい。誰か、私にスッと寝付く方法を教えてください。そんなことを、心の底から願っていた。

 

ベビーが生後4ヶ月までは、産後ケアというサービスを利用できた。専門の施設で、日中は助産師さんなどがベビーを見てくれ、その間、母親は休憩したり、ゆっくりランチを食べたりできる。初めに助産師さんからヒアリングがあり、「寝不足がつらい」「腱鞘炎がひどい」と、毎回うだうだと愚痴を聞いてもらっていた。他のママたちと話しながら食べるランチの時間にも、随分救われた。このおかげで、なんとかメンタルを保てていたのだと思う。

 

問題は、その後だった。

産後4ヶ月を過ぎると、私が利用していた産後ケア施設は使えなくなる。4ヶ月を過ぎたからといって、育児が楽になるわけでも、寝不足が解消されるわけでもないのに。

 

私は途方に暮れた。

限界が続き、夫とも何度か本気で喧嘩をした。ベビーには申し訳なかったけれど、「十分に眠れない」という事実は、いとも簡単に私のメンタルを壊した。

 

30代前半まで、好きな仕事をし、DJをして、海外にも一人で飛んで——比較的自由に生きてきた私にとって、自分のタイミングで外出できないこと、やりたいことができないこと、家に閉じこもり、自分の居場所が外にないように感じる日々は、想像以上に心を削る環境だった。「産後うつになりそう。メンタルクリニックに行った方がいいのかな」と、何度か本気で思った。

そして、産後半年が経った。

元々なんとなく決めていたことだが、半年を区切りに授乳を完ミ(ミルクのみ)に切り替えた。夜のミルクを夫に任せ、寝る前に近所の銭湯へ行くことにした。

 

番頭さんにお金を払い、バスタオルを受け取って脱衣所に入る。地元のおばあちゃん、仕事帰りのOLらしき女性、学生、母親と一緒に来ている娘。いろんな人で賑わっている。

脱衣して、ガララ、と戸を開けると、湯気がもくもくと立ちのぼっていた。体を洗い、大きな湯船に浸かると、「ほう」と、思わず安堵のため息が漏れる。血の巡りがよくなり、凝り固まっていた体が、少しずつほぐれていく。

 

自分の好きなタイミングで、シャワーを浴び、湯船に浸かり、身体を拭いて、ドライヤーをかける。そんな当たり前のことが、驚くほど贅沢な時間に感じられた。

そして、年齢も立場も違う人たちが、同じ空間で思い思いに過ごしているのを眺めながら、ふと思った。別に言葉を交わさなくても、ああ、ここに私もいていいんだな、と。

 

家に閉じこもり、気持ちが塞ぎがちになっていた日々の中で、私はまたこの世界の一員なんだと、静かに安心した。

 

それだけではない。銭湯に行くようになってから、体がほどよく疲れ、驚くほどスッと眠れるようになったのだ。4時間寝て一度起き、さらに2時間眠れた日は、ひとりで小躍りしたくなった。あれほど寝付けなかったのに。

 

「産後うつになりそう」と追い詰められていた、産後すぐの私へ。

よく頑張りました。あなたにとっての特効薬は、銭湯でした。居場所を与えてくれて、体の回復を促してくれる、素晴らしい場所です。ゆっくりお風呂に入って、しっかり眠って、これからも育児を続けていこうね。

 

そして、これを読んでくださったあなたへ。

もし行き場をなくし、追い詰められてしまったら、ぜひ「現代的に整えられたスーパー銭湯」ではなく、「昔からある地元の銭湯」に足を運んでみてください。

何かが、変わるかもしれません。

 

≪終わり≫

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