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リラックスしようと思って、海へ行ったのに。 


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:村井ゆきこ (ライティング・ゼミ25年11月開講コース)

※この記事はフィクションです。

リラックスしようと思って、海へ行ったのに。
記事:村井ゆきこ(ライティング・ゼミ 11月開講コース)

 

「今日はリラックスしに海へ行こう!」
そう思って、自転車を漕いで海へ向かった。

波の音。潮の匂い。太陽の光で海面がキラキラ光っている。
こりゃ、最高の天気だ!
条件だけ見れば、どう考えても“整う日”だった。

それなのに私は、砂浜に座った瞬間、リラックスどころか、むしろ興奮状態で目がギラギラしていた。
「やっぱ今日は天気がいいから、キラキラしてるなぁ」
 「あ、なんかいいこと思いついた!」

……私って、いつもそうなのだ。
感性や感覚のまま楽しめるのは一瞬で、すぐに頭の中が忙しくなる。

波の音を聞いているはずなのに、気づいたら、考えごとのほうが大きくなっていった。
「何も考えないで、ぼーっとしよう」
そう思って来ているのに、その“何も考えない”を、なぜか全力でやろうとしてしまう。

リラックスするにも、理由や意味や、何か持ち帰るものを探してしまう。
そんな「リラックスが下手くそだ」と思い込んでいた時期が、私にはとても長くあった。
今もゼロではない。

今思えば、厄介な性格だなと思うのだが、その頃の私はけっこう真剣だった。 言葉にしていたわけじゃないけれど、 「意味のないことはしない」「やるからには、何か得るはず」
——たぶん、そんな前提で動いていた。

私が海に来てもリラックスできなかったのは、もちろん海が悪かったわけじゃない。 「リラックスしよう」と思った時点で、私はもう、“がんばるモード”に入っていたのだ。

そもそも、海がどういう場所かなんて、最初から決まってはいない。
海の近くに住んで8年、いつも“見る専”の私にとって、海は少し離れた場所から眺めて「いやー、ほんとここ最高だな」と浸る場所だ。
一方で、サーフィンを楽しんでいる夫にとっての海は、生活の一部であり、友人たちと集う遊び場であり、身体を動かしてリフレッシュする場所。
同じ海を見て、二人で「あー最高!」と口に出していても、実は内側で起きていることは全く違う。

私にとっては、静かに感情が満ちていく場所。 夫にとっては、身体が動き出すエネルギーの場所。 どちらも嘘じゃないし、どちらも、その人にとっての“最高”なのだ。

つまり、海がどうこうじゃなくて、その日、どんな状態でそこに立っているか。それだけで、海はまったく違う顔を見せる。
心が静かな日は、ただ波を眺めていられる場所になるし、頭がフル回転している日は、なぜかひらめきが次々に浮かぶ場所になる。
目がギラギラする日があってもいい。今日は何も感じられない日があってもいい。 その時の「私」を、そのまま海に映しておけばいいだけなのだ。

……と、ここまで書いて気づいた。
そもそも私は、どうしてあんなに「必死に」リラックスしようとしていたんだろう。 自分でも笑っちゃうのだけど、「リラックスしよう」と意気込むことは、ダイエットと似ている。

「今日から絶対にお菓子は食べない!」 そう決めた瞬間に、なぜか頭の中が「あのお店のキャロットケーキ」や「以前母に送ってもらったバウムクーヘン」のことで埋め尽くされてしまう、あの忌々しい現象だ。
「食べちゃダメだ」と禁止すればするほど、脳は逆にお菓子のことしか考えられなくなる。

私の“海でリラックスできない”ことも、たぶんこれと同じだった。 「何も考えちゃいけない」「休まなければ」と自分に命令を出したせいで、私の脳は「いや、何か考えろ!」と猛反発していただけなのかもしれない。
休もうとして、逆に疲れる。 力を抜こうとして、余計に力が入る。
なんて不器用で、面倒くさい性格なんだろう。

リラックスって、狙い澄まして手に入れにいく「獲物」じゃない。 がんばることに飽きて、ふと諦めたときに、いつの間にか隣に座っている。そんな、つかみどころのないものなんだと思う。

そもそも、子どものころは「リラックスしよう」なんて考えたことはなかった。
何かする時に、意味も理由も、つけていなかった。 ただ友達と話したり、走り回ったり、笑ったり、本を読んだりしているだけで、自然とほっとする瞬間があった。 今思えば、あれがリラックスだったのか、ただ夢中だっただけなのかわからない。でも、その時間が心地よかったことは確かだ。

海を見て、目がギラギラしたまま帰る日は今もあるし、何も考えずに海へ行って、ただただ景色に感動してしまう日もある。

どちらでもいいのだ。

≪おわり≫

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