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ジョン万次郎に、今も心を掴まれている理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:RICA(25年・年末集中コース)

 

「みなさんこんにちは! 今日は私の推し歴史登場人物を紹介したい編〜!」

 

こんな出だしで始まるYouTube動画を、私はかつて公開したことがある。

今思えば、少々黒歴史感は否めない。編集も甘く、話し方もどこか力が入りすぎている。

それでも当時の私は、今思う以上に本気だった。

 

何を隠そう、私は明治維新前後の日本史が大好きだ。

二十代の誕生日には、夫から「日本史の舞台となった場所をめぐる旅行」をプレゼントしてもらい、文字どおり飛び上がって喜んだほどである。

 

明治維新の頃の登場人物には、いわゆる「推し」が何人もいる。

その中でも、どうしても語らずにはいられない人物がいる。

それが、私のいちばんの推し、「ジョン万次郎」だ。

 

名前を聞いたことがある人は多いだろう。

だが、彼が何を成し、どんな人生を歩んだのかまで知っている人は、意外と少ないのではないか。

なぜ歴史の教科書で、もっと大きく扱われていないのか。正直、今でも不思議でならない。

(もっとも、当時の私が不真面目な学生だっただけ、という可能性も大いにあるのだが。)

 

万次郎は、貧しい漁師の家庭に生まれ、自身も十代の頃から漁に出ていた。

十四歳のとき、漁の途中で嵐に遭い、漂流の末、無人島に流れ着く。

奇跡的にアメリカの捕鯨船に救助され、船長に見込まれてアメリカへ渡航。

そこで教育を受け、語学や航海術、当時の最先端の知識を身につけた。

 

当時の日本は鎖国の真っ只中だった。

一度国外に出れば、二度と戻れない可能性のほうが高い時代である。

それでも彼は、「もし日本に帰ることができたら」という前提で学び続けた。

帰国できる保証など、どこにもなかったにもかかわらず。

 

帰国後、万次郎はその知識と語学力を買われ、日本の近代化の下地を支える役割を果たしていく。

結果だけを見れば、劇的なサクセスストーリーだ。

だが私が心を掴まれるのは、その「結果」ではない。

 

結果が約束されていない状況で、準備をやめなかったこと。

先が見えなくても、「役に立つかもしれない未来」を信じて学び続けたこと。

十代の少年が、それをやってのけたという事実に、どうしても胸が熱くなる。

 

正直に言うと、あのYouTube動画を今あらためて見返す勇気は、あまりない。

それでも「消してしまおう」と思えないのは、

そこに「評価されたい自分」よりも先に、「これが好きなんだ」と叫んでいる自分が映っているからだ。

 

私が万次郎に惹かれるのは、彼が「すごい偉人」だからではない。

何度も人生のレールから外れながら、その経験が誰かの役に立つと信じて、前に進み続けたところに、強く惹かれている。

 

振り返ってみると、私自身もずっと「確証のないもの」に時間を使ってきた。

語学にのめり込み、音楽に打ち込み、

それがいつ役に立つのか、そもそも役に立つのかもわからない経験を積み重ねてきた。

周囲から見れば、遠回りだったかもしれない。

それでも私は、「今すぐ意味がなくても、いつかどこかで繋がる」と信じてきた。

 

あの黒歴史YouTube動画も、きっと同じだ。

再生回数は伸びなかったし、成功と言えるものでもない。

それでも、誰に頼まれたわけでもなく、評価される保証もない中で、

「好きだから」という理由だけで、時間と情熱を注いだ。

 

万次郎の人生と自分を重ねるのは、おこがましいかもしれない。

それでも、結果が見えない中で準備を続ける姿勢に、私はどうしても自分を重ねてしまう。

 

大人になるにつれて、私たちは「意味があるか」「得かどうか」を先に考えるようになる。

無駄にならないか、失敗しないか、笑われないか。

けれど、あの動画を撮っていた頃の私は、そんなことをほとんど考えていなかった。

ただ、「これは面白い」「伝えたい」と思っていた。

 

今、本気で取り組んでいることが、次にどう繋がるのかはわからない。

何にもならないかもしれない。

それでも、目の前の人が共感してくれたり、感謝してくれたりすると、「やっていて良かったな」と思う。

そして、できることなら、その小さな手応えが、どこかに繋がっていってほしいと思っている。

 

今になって思う。

黒歴史とは、たぶん「本気だった証拠」なのだ。

中途半端だったら、恥ずかしくもならない。

 

ジョン万次郎の人生が、今も私の心を掴んで離さないのは、

彼が結果を出したからではない。

結果がわからないままでも、本気で準備することをやめなかったからだ。

 

もしまた「推し」を全力で語るとしたら、

今度は黒歴史になってもいいから、やっぱり本気でやるだろう。

誰の役に立つかわからない。

それでも、誰かの心を少しでも熱くできたらいいなと思うから。

 

≪終わり≫

 

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