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6歳の娘が「ニワトリ錬成」に失敗した反動で「警察官」を召喚してしまった話。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事: 回復呪文は使えない(25年・年末集中コース)

 

「そんなことってある?」 人生には、まさかという坂があると言うが、私の目の前に現れたのは坂道どころか断崖絶壁だった。

 

ある日突然、妻の実家のお寺を継がなければならなくなった私。 しかし、僧侶の世界は甘くない。炎天下、広大な墓地を一人で掃除しなければならない。

 

「お父さん、骨がいっぱいあったよ!」

 

お寺の境内で、6歳の娘がうれしそうな顔で私に話しかけてきた。 彼女の手には、泥だらけの「骨」が握られていた。

 

「多分、ニワトリさんの骨だよ。フライドチキンの骨」

 

「ふーん」

 

ことの発端は、お盆の大掃除だ。 お寺の裏手には、かつて生ゴミを堆肥にしていた土壌がある。そこを掘り返して掃除していた私の横で、娘は何やら「発掘作業」に没頭していた。 そして、大量に出土したある物体を見つけたのだ。 昭和か平成初期のものと思われる、年代物の「フライドチキンの骨」を。

 

彼女は地面に骨を並べ始めた。何が始まるんだ?

 

「この骨から、ニワトリを作る」

 

ほう。これは、「人体錬成」ならぬ「ニワトリ錬成」。錬金術なのか? そんな技をどこで覚えてきたのだろう?

 

妹まで呼び出してきて、骨を並べる手にも力が入る。私はごみを燃やしながら、見るともなしにその光景を眺めていた。

 

「うーん、うまくいかないなぁ。ここじゃダメだ。あっちでやってくる」

 

呪文のようなものを唱え、ときどき「えいっ」と言っていた娘だったが、ニワトリ錬成がうまくいかないことに腹を立て、骨を鷲掴みにして墓地の奥へと消えていった。 私は「まあ、飽きたら捨てるだろう」と放置して、掃除を終えて帰宅した。

 

これが、私の人生最大のミスだった。

 

翌日。

 

私のスマホに見慣れぬ番号から着信があった。

 

 「はい、もしもし」

 

 「あ、突然すみません。私、警察の者ですが」

 

心臓が跳ねた。警察?

 

 「お宅のお寺で、通報がありましてね」

 

 「通報……、ですか?」

 

 「ええ。お墓の『水受け』が何者かに動かされている、と」

 

墓荒らしか? 背筋が凍る。 しかし、警察官の次の言葉で、私の体温は一気に沸騰した。

 

「それでですね、被害に遭ったお墓の横に空きスペースがあるんですが……」

 

「そこに『謎の骨』が散乱していまして」

 

 「はい? ……、ほ、骨ですか?」

 

心拍数が自分にもはっきり伝わるレベルで上がっていく。

 

 「人の骨ではないと思うんですがね。被害者の方が気味悪がっちゃって。『まさかお墓の中から骨を出して並べたのでは?』 とか『何か謎の儀式の跡では?』なんて。 それでご相談なんですが、映像解析をしたいので、防犯カメラとかありませんか?」

 

犯人は……。

 

私の脳内で、点と線が完全に繋がる。 水受け石(重さ数キロ)を6歳児が動かせるとは思えないが、その横に散乱している骨は、間違いなくニワトリ錬成の跡だ。

 

お父さん……、君たちがこんなに早く警察のご厄介になるとは思わなかったよ……。

 

「お巡りさん、まだ帰らないでください! 近くにいるので5分で行きます!」

 

私は電話を切ると、車をぶっ飛ばした。 現場である墓地に到着すると、制服姿の警察官が二人、物々しい雰囲気で「骨」を検分していた。

 

「お待たせしました!」

 

気ばかり焦り、自然と声が大きくなった。

 

「ああ、お待ちしてました。これなんですがね……。人ではないと思うのですが……。何か小動物か鳥の骨のような」

 

私の推理が確かならば、正解。さすが警察だ。

 

警察官が指差した先には、確かに昨日発掘されたフライドチキンの骨が、何やら意味ありげなに並べられていた。 事情を知らない人が見れば、確かにこれは「闇の儀式」に見えなくもない。自白するか。

 

「……、ひょっとしたら、ですが……」

 

声がかすれる。なぜか緊張して喉が詰まる。言葉がなかなか出てこない。こんな自白でこれほど緊張するんだから、犯罪者が自白するときはどれだけ声がかすれるだろう。

 

「は、犯人は……、うちの……、うちの6歳の娘かもしれません……」

 

 「えっ?」

 

 「水受けを動かしたのは別の誰かだとは思いますが……、その骨は娘です。昨日あっちで見つけた骨をここに持ってきて、骨で遊んでいました」

 

「骨で、遊ぶ?」

 

「……、見つけた骨で、『ニワトリを錬成する』って張り切ってました……」

 

一瞬の沈黙。恥ずかしさで熱くなる私の顔。そして警察官たちの顔から緊張が抜け、苦笑いが広がった。

 

「ああ……、なるほど。ニワトリ、ですか」

 

 「はい……。フライドチキンです」

 

警察官がニコリともしなかったら、恥ずかしさで死んでいたかもしれない。ウケたのがまだしもの救いだ。

 

結局、被害者の方には警察から「住職代行の娘さんの遊び跡でした」と伝えてもらうことで、事件は無事に(?)解決した。 水受けが動かされていた原因は謎のままだが、少なくとも「謎の儀式」という恐怖だけは取り除くことができた。

 

錬金術には「等価交換」という大原則がある。 人は何かを得るためには、同等の対価を支払わなければならない。

 

娘よ、覚えておくがいい。 お前は「ニワトリ錬成」に失敗した反動で「警察」を召喚してしまったのだ。 そして、その対価として、父の寿命は3年ほど縮んだ気がする。

 

さて。 現代社会は、コスパ、タイパがすべてだ。 私も普段は経営者として、いかに効率よく利益を出すかに血道を上げている。

 

しかし、お寺に流れる時間は違う。 ここには、30年前のフライドチキンの骨や、例えば、錆びついた手動のバリカン、昭和初期の火鉢といった、経済的価値ゼロの「遺物」が、ゆったりと、そして我が物顔で眠っている。 そして、それら一つ一つに、誰かの「生きた証」や「物語」が詰まっている。

 

今回のこの大騒動も、タイパ関係なしの娘と、打ち捨てられた骨を媒介にして、お寺のゆっくりした時間が錬成してくれたかけがえのないエピソードだ。 効率だけを求めていたら、こんなバカバカしくて愛おしい事件には出会えなかっただろう。

 

もしあなたが、日々のスピードに疲れたら、ふらっとお近くのお寺を訪れてみてほしい。 そこには、タイパなんて言葉が入り込めない、贅沢な「無駄」が転がっているかもしれないから。

 

 

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