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ライティング講座は、子どものころの自分を癒す時間だった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事: もとこ(25年・年末集中コース)

 

今、私は「伝わる言葉とは何か」を学び直しながら、この記憶と向き合っている。

子どものころ、

「何が言いたいのか、全くわからない」

と親から何度も言われた言葉は、私の根深いコンプレックスになっていた。

人前で話すときには、それが恐怖に近い緊張を引き起こした。

 

医学部を卒業する時、私は外科を選んだ。

「手術」という結果で評価される世界に身を置いたのは、「言葉で説明しなくても済む場所」を無意識に選んでいたからかもしれない。

 

医者になって10年ほどたち、ようやく自分の時間を少し持てるようになった頃、身体を動かすために始めた運動をきっかけに、ヨーガに出会った。

 

自分で経験して「これはいい」と感じると、それを他の人にも伝えたくなる性分は、昔から変わらない。

医療者としてヨーガを学び、実践するうちに、これを必要としている人が、もっといるのではないかと感じるようになった。

そうして、気がつけばインドまで通うようになっていた。

 

「自分が人前で話すなんて、とんでもない。絶対に嫌だ」

長年、私はそう思い込んでいた。

 

それなのに、ヨーガの効果を実感してしまい、いつのまにか、伝える立場に立っていた。伝えたい気持ちは強くなる一方で、「ちゃんと伝わっているだろうか」という不安は、いつもついて回った。

だからこそ、私はいつしか、ちゃんと伝わるような文章を書けるようになりたいと思うようになっていた。

 

言葉を話しだしたころ、私はすごくおしゃべりだったらしい。

母はそう言っていた。

両親は、バブルの時代真っただ中で、いつも仕事で忙しかった。

私が何かを話しかけても、手を止めて聴いてもらった記憶は、あまりない。

そんなことはお構いなしに、小さかった私は、自分の話したいことを、ただしゃべり続けていた。

 

今日は、お友達とこんなことがあって。

それから、ここに行って。

それでね、これがすごくおもしろくて……。

 

私の頭の中では、話したいことがクルクルと高速で駆け巡っていて、口に出そうとすると、もう次の場面に移ってしまっていた。自分でも、そのスピードに追い付いていなかったのだと思う。

だから、私が話す言葉は、頭の中に浮かんだ考えの断片を、順番もなく並べただけのものになっていた。

少し大きくなっても、そのズレは埋まらなかった。むしろ、頭の中の世界だけが、どんどん広がっていった。

 

母も父も、ある時から、私の話を聞いている途中で、我慢できない様子を見せるようになった。

そして、こう言った。

 

「話していることが、なんにも分からない。

いつ、どこで、誰が、なにを!

分かるように、ちゃんと言いなさい」

 

そう言われても、その時の私の頭の中では、すでに物語は進んでしまっていた。

 

戻れない……。

 

何から話したら、分かってもらえるのかが分からなかった。

 

そんな日々が続くうちに、私はいつの間にか喋ることを諦めていた。

「もう、いいもん……」

そう呟いて、黙った。

 

黙ることで、その場はやり過ごせた。

 

でも、「どうしたら伝わるのか」を教えてもらえないまま、大人になった。

 

2025年も残り僅かになったころ、SNSに「年末集中コース」というライティング講座の案内がポップアップしてきた。

すぐにスケジュール帳を開いてみた。

「空いてる。全部リアルタイムで参加できる……」

気づいたら、私はポチっと「参加申込」ボタンを押していた。

 

文章を書くことにコンプレックスはあったが、書くこと自体は好きだった。

 

喋る言葉は、一度口から出てしまうと戻せない。

けれど、書く言葉は、あとから「やっぱり違う」「分かりにくい」と思えば、立ち止まり、手を入れることができる。

 

私には、その調整する作業が必要だった。

そして、それができることに、大きな安心を感じていた。

 

自分では、分かるように書いたつもりでも、課題を提出すると、毎回フィードバック付きで戻ってきた。

そこには、「書き手に実際に何が起きているのかが見えないまま話が進み、読者が置いてきぼりになる」という指摘があった。

説明しすぎてもよくないが、足りなさすぎると何を言いたいのか分からなくなる、ということだった。

 

それを読んで、私ははっとした。

そこに書かれていたのは、子どものころ、私が話していたときの癖、そのものだったからだ。

 

頭の中では物語がどんどん進んでいるのに、聞いている相手には状況が伝わらない。

だから、途中で遮られ、「分からない」と言われて終わってしまった、あのころ。

 

でも、今回は違った。

このフィードバックには、

「どこで読者が立ち止まってしまうのか」

「何が足りていないのか」

について、考える手がかりが示されていた。

 

読者は何を知りたがっているのか、どこで補足が必要なのかが、少しずつ私にも見えてきた。

 

同じことを何度も指摘されていながら、私は不思議と、ほっとしていた。

 

子どものころの私は、どうしたら伝わるのか分からないまま黙るしかなかった。

でも今は、「出口はこっちだよ」と示してもらえている感覚があった。

 

8回の課題提出で、なんとか形になっていたのは、たった一つだった。

いろんなスタイルに挑戦し、書き方を変えてみたつもりでも、返ってくるフィードバックは、いつも同じところに行きついた。

 

けれど、それを私は楽しんでいた。

今までは、自分の方からしか眺めていなかった頭の中の情景を、「読む側」の位置から見直すことができるかもしれない。

そう思えたら、自分の視野が広がった気がして、楽しかった。

 

ライティング講座で知った、私にとって大切なことがある。

それは、読者は、書き手のことを知りたいと思って文章を読む、ということだ。

その言葉を聞いたとき、子どものころに投げかけられた、あの言葉がふと重なった。

 

「いつ、どこで、誰が、なにを」

 

ああ、あのとき、親は私のことをわかろうとしてくれていたのかもしれない。

あれもまた、私をもっと知りたいと思う側からの言葉だったのだと、今なら思える。

 

黙って終わった小さかったころの自分が、目を輝かせてまたおしゃべりを始めた、そんな気がした。

 

「伝わる文章が書けるようになりたい」

そう思って受講した講座だった。

でも、気づいたら、子どものころの自分を自由にするための、癒しの時間になっていた。

 

≪終わり≫

 

 

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