イカれた葬式をあげてほしい
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事: 伊東綾子(ライティング・ゼミ25年11月開講コース)
神戸市長田区にある多世代型介護付きシェアハウス『はっぴーの家ろっけん』をご存じでしょうか。
最近ではNHK番組『ドキュメント72時間』の舞台にもなったそうです。
「ごちゃまぜ」という言葉がぴったりの場所。介護が必要な高齢者だけではなく、放課後の小中学生、赤ちゃんを抱いたお母さん、ふらりと寄っていく近所の人が集まる施設がはっぴーの家。1階のリビングと呼ばれるホールには、年齢も事情も異なる人たちが同じ時間を過ごしている。けれど、どうやらやっていることは皆バラバラ。
私がはっぴーの家を知ったのは、自主製作ドキュメンタリー映画『30(さんまる)』がきっかけでした。3年間取材をして親子で制作した映画だそうです。
正直に言うと、タイトルの一つの意味である30代の若者に、あまり興味がなく、何度も観る機会があったのに、観ない選択をしてきました。
私は月に最低1回は映画館へ行くほど映画好きですが、ドキュメンタリー映画はつまらないという先入観が『30さんまる』を避けていた理由の一つでもありました。
ところが、観始めて早々にグイグイと映画に引き込まれていくことになります。
画面の中のはっぴーの家は、私が知る時間とルールに縛られて毎日が過ぎる介護施設とは程遠い。家族という概念をぶち壊す、他人同士の家族のような繋がりがそこにはありました。映画の中でも言われていました「遠くのシンセキより近くのタニン」というやつです。
車いすの高齢者が赤ん坊を抱き、若い外国人が食事の介助をしている。制服がないから、誰が職員で誰が利用者で誰がただ居る人なのか、境界が曖昧で、カオス。
それぞれの日常が少しずつ重なっている。映画の中ではオリンピックの五輪のマークを例えてはっぴーの家を表現されていました。
人との関わりが希薄になっている現在に、こんなにも濃く他人同士が関わり合っている場所。その施設を運営しているのが30代の若者たちだというから驚きました。はっぴーの家だけではなく、高齢者でも希望すれば施設ではなく一人暮らしが出来るように、不動産業も経営されています。なんとはっぴーの家をきっかけに若い移住者が増えてきているそうです。
印象的だったのは、がんを患い余命宣告を受けた男性が、最期の住処を病院ではなくはっぴーの家で過ごした場面です。コロナ禍で、ひとたび病院に入院すれば面会もままならない時期に、男性は最期まで大好きなお酒を飲み続け、親族だけでなく多くの人に見守られて過ごしていました。もちろん、入居以前からはっぴーの家に出入りしていたからこそ、代わる代わる世話をしに来る人がいたのだと思います。
ある若者が男性の枕元で将来の不安を吐露すると、男性は短く
「今だよ、今」
と声をかけていました。
人は「今」にしか生きられない。今の積み重ねが未来を作る。
私たちは過去を憂いて、まだ起きてもいない未来を不安に思ってしまいます。起き上がる体力はなく、あと数日の命の男性には不安に思う未来はもうなく、とても重い言葉に聞こえました。
昭和の初め頃までは、自宅で最期を迎える人が多かったと聞きます。人が老い、衰え、死んでいくプロセスを、子どもも日常の中で目にしていたと思います。今は病院や施設がその役割を担い、死を目の当たりにする機会は殆どありません。だからこそ、はっぴーの家で、他人の人生の終わりを見守れることは、大きな経験だと思いました。
彼のお葬式は、はっぴーの家で盛大に行われました。棺は寄せ書きのように文字で埋まり、赤いライトが灯るホールはまるでスナックのよう。みんなで歌い、故人が愛したお酒で乾杯する。笑いと涙がごちゃまぜの葬儀。棺に大きく書かれた「行ってらっしゃい」の文字が死は怖いもの、終わりではなく通過点の様に思わせてくれました。
映画を観た多くの人が「こんなお葬式がいい」と憧れるのでははいでしょうか。
設立者の首藤義政さんは、上映後のトークセッションでこう話していました。
「はっぴーの家が良い施設やと勘違いしている人が、めちゃくちゃ増えているのがすごく嫌。皆さん一度冷静になってください。イカれている家ですよ」
さらに、正直ここに来てくださっている皆さんに興味がなく、身近な100〜200人と関わっていきたい、と。身近な人の困りごとを、そうじゃなく、解決したい。広げるのではなく深掘る。
首藤さんの言葉がささりました。
私も「場づくり」をしている一人。
「世界中に届けたい、たくさんの人の背中を押したい」
ビジョンやミッションを大きく掲げたくなります。でも、まずは身近な100人が幸せに生きられるように、ちょっと知恵や力を出す。程よい距離間から半歩縮めるくらいのおせっかいをしていこう。
その先に、あの男性のように「イカれた葬式」を、私もあげてもらえるのだろうか。
目標は歌って踊って賑やかな最期!
《終わり》
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院カフェSHIBUYA
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00







