86歳の夢
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事: 伊東綾子(ライティング・ゼミ25年11月開講コース)
半分楽しみで、半分気が重いライブ。
どうしようか迷った挙句に、昼休みにオンラインチケットを購入した。ひとりでライブに行くことにした。関西を中心に活動しているグループが東京でライブをする。今日、どうしても行っておきたいライブだった。
気が重かったのは、ひとりだから。映画も、立ち食い蕎麦もひとりで入れる。けれど、音楽ライブで声を出したり、リズムにのったりする時は、隣に知り合いがいて欲しい。
数人に声をかけたが、年末の忙しい時期にプラスして、私の誘いが遅すぎた。
「自由席です」と通された50人ほどで満席になる小さなホールは、すでにほとんどの席が埋まっていた。客席を見渡すと、真ん中より少し後ろに、ぽつんと空いた席がひとつだけ見える。両端には誰かの荷物が置いてあり、真ん中だけが空いていた。
そこに座って、ライブの開始を待った。
ステージの機材、マイクスタンド、譜面台がいよいよ始まるぞと気持ちを高めてくれる。一方で客席のざわめきが私に“ひとり”を意識させた。
「まもなく開始します」
アナウンスが入ると、数人がホールに入ってきた。その中に、見覚えのある顔があった。
右隣に座ったのはマスミさんだった。
1年前に私がプロジェクトマネージャーを務めた音楽イベントにゲスト出演していただいた、当時85歳のジャズシンガー マスミ・オーマンディさん。
恐らく私のことは覚えていないだろうと思ったが、隣に座れた偶然に興奮して、勇気を出して声をかけた。
「昨年はありがとうございました。昨年12月にご一緒させていただきました」
「あ、あの日のライブね」
と再会を喜び合い、演奏が始まるまでの短い会話を楽しんだ。いただいたイベントの感想に、『マスミさんの歌に感動しました』という声が多かったことを伝えると、とても喜んでくださった。
実際、85歳の細く小さな身体から出る声とは思えない、パワフルで軽快で色気のある歌声に魅了された。
今夜のライブはイケメン(イケオジ)4人組イタリアンテイストの音楽を奏でる
DAMERINO(ダメリーノ)。イタリア語で伊達男だそうだ。
彼らは、昨年夏に原宿で開催されたマスミさんのライブにゲスト出演したと、MCで話していた。点と点が繋がっていった。マスミさんの半分くらいの年齢で、活動を始めたばかりのグループと共演する。世代も経験も立場も超えてひとつになる、なんて素敵なのだろう。
関西出身者4人組ダメリーノのライブはトークも面白く、大変盛り上がり、私も隣にマスミさんがいらしたので、遠慮なくリズムに乗ってライブを楽しむことができた。
終演後も私たちはしばらくの間二人でお喋りを楽しんだ。人が引いていく中で、マスミさんはバッグから何枚も紙を取り出した。
「今年は沢山新聞に載ったのよ」
と、新聞の切り抜きを見せてくれた。
その中の一枚には、『77歳でCDデビュー、昨年5枚目のアルバムを発表』と書いてあった。
私はマスミさんの経歴をほとんど知らなかった。勝手にずっと前から音楽活動しているベテラン中のベテランのジャズシンガーだと思っていた。
たった7年前にCDデビューをして、それからも最新を更新し続けている。
1月からはアメリカへ。各地でライブに呼ばれているという。
驚いている私をよそに、さらにこう続けた。
「ジャズフェスティバルにも呼ばれているから、勉強しなくちゃね。私は歌が上手ではないから」
うわぁ、まだ学ぶのか。今よりもっと上手になりたいと願うのか。
心の中で、自分の未熟さを反省する。と同時に、私はまだマスミさんがCDデビューした年にはなっていない。まだまだ何者にもなれる可能性があるぞとワクワクしてきた。
「私には夢があるの」
そう言って見せてくださったのは、日本の唱歌『故郷』の歌詞が書かれたプリントだった。英訳された歌詞に日本語の歌詞が添えられている。
「『故郷』を第二の国歌にしたいの」
世界中で歌うために英訳してもらったのだと目をキラキラさせて話してくれた。
現役であり続けるマスミさんならではの夢。
きっと、戦争を体験した世代として、また海外で歌う時間が長いからこそ、故郷に何か深い思い入れがあるのだろう。まだまだお話を聞いていたかったが、ホールを出る時間になってしまった。
86才の夢。
何歳になっても未来に夢を描いていい。そんな当たり前のことを、目の前で夢を語るマスミさんから教わった。
私の夢はなんだろう、そして86歳になった時に夢はあるだろうか?もしあるのならどんな夢も描いているのだろう?私もいつまでも現役でいたい。
いつかまた同じ舞台に立って、一緒に『故郷』を歌わせてほしい。
《終わり》
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