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初対面デートで、会話がうまくいかないとき──質問できない男性と、早口になる女性


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:村井ゆきこ (ライティング・ゼミ25年11月開講コース)

※この記事はフィクションです。

リラックスしようと思って、海へ行ったのに。
記事:村井ゆきこ(ライティング・ゼミ 11月開講コース)

 

楽しみだったはずの「初対面」が、なぜか苦行のような時間に変わってしまう。
その境界線は、会話のテクニックではなく、お互いの「呼吸」のズレにあるのかもしれない。

「お仕事を最近変えられたということですけど、もう慣れましたか?」

カフェで隣の席から、そんな声が聞こえてきた。二人の姿をちらりと確認した。
声のトーンや話し方、笑い方、そして会話の内容から、「あ、初対面だな」と直感した。

私は優雅に一人で、大好きなアールグレイの紅茶を飲みながら、つい隣の会話に聞き耳を立ててしまった。声を聞く限り、女性は20代後半から30代前半か。男性はそれより少し年上だろうか。

会話のほとんどは、女性からの質問で成り立っている。共通の話題は、ゲームとアニメのようだ。おそらく、プロフィールにある「男性がゲーム好き」という項目を見て話題を振ったのだろう。だが、実は女性の方が知識が豊富らしく、男性が少したじろいでいるようにも感じた。

私は以前、婚活プラットフォームで仲人的な役割の仕事をしていたことがある。オンラインや対面でのデート、会話のアドバイスもしてきた。今はその仕事からは離れているが、パートナーシップについての発信は続けている。だからこそ、こうしたシチュエーションに出会うと、どうしても気になってしまうのだ。

当時、「はじめまして」の場面でも、「二度目まして」の場面でも、会話のちぐはぐさや、男性側のコミュニケーションの噛み合わなさに驚くことが少なくなかった。とくに印象的だったのは、「質問ができない人」が、思っている以上に多いということだ。

質問が途切れた時点で、女性は「私に興味がないんだな」と脳内で判断する。「そんなことはない! それは決めつけだ!」と言う人もいるかもしれない。けれど、質問がなく、話への反応も薄い。その状態で、女性側が「自分に興味がない」と感じるのは、ごく自然なことだろう。

一方で、コミュニケーション能力の高い女性が、和やかな雰囲気で次々と質問を投げかけると、男性側はつい、「自分に興味を持ってくれているんだな」と安心し、一生懸命に自分の話を展開し始める。そんな場面も、私は何度も見てきた。

しかし、それは必ずしも女性が男性に対して「その人に強い興味がある」からとは限らない。ただその場の空気をよくするため。会話を滞らせないため。あるいは、単に盛り上げるため。

だからこそ、その質問に対して男性が「真面目に答えなければ」「正確に、自分をよく見せなければ」と身構えてしまった瞬間、それは失敗のはじまりかもしれないので要注意だ。

相手から次々と質問がくることで、「自分は質問しなくても、答えていればいい」と思い込んでしまう男性もいる。たまに質問をしても、その先で会話を膨らませることができない。そもそも「会話を膨らませる」という感覚がわからず、戸惑っている。

相手に興味がない……というより、どう興味を向けていいかわからない。隣の男性の姿はうっすらとしか見ていないが、特有の緊張と焦りが伝わってきた。とにかく落ち着かない様子だ。

ついにデートの終盤、女性から「そろそろ帰る時間ですけど、何か質問はありますか?」と促され、彼はついに頭を抱えてしまった。そして、沈黙の末に絞り出したのが、この言葉だった。

「……好きな音楽は、なんですか?」

いやそれ、もっと最初に盛り上がる話題だ。 思わず、心の中で突っ込んでしまった。
けれど、彼にとってはそれが、混乱する頭をフル回転させてようやく辿り着いた、精一杯の「興味の示し方」だったのだろう。

では、もしこのデートがうまくいかなかったとしたら、原因は男性だけにあるのだろうか。もちろん、そうではない。
「どちらが悪いか」の話でもない。

「頼む。もうちょっと会話に“余白”を……」 私は心の中で、何度もつぶやいた。

この女性は、きっと話すことが好きだ。本来なら、場を和ませる力でもある。声のトーンもとても明るい。

ただ、とにかく息継ぎが少ない。そしてスピードが速い。男性の立場になってみると、まるで大縄跳びに入るタイミングをずっと探っているのに、縄が速すぎて一歩も踏み出せないような状態だ。入ろうとするほど、緊張が増していく。

幼少期から早口の私が言うのもなんだが、「早口になってしまう心理」には、いくつかの要因があるという。
共通しているのは、「緊張・焦り・熱意」だ。好きな話題を話すとき、頭の回転が速くなりすぎて、口が追いつかなくなる。

ここに男女の傾向の違いも現れる。 あくまでも傾向なので、すべての人に当てはまるわけではない。

女性の場合は、感情や親密さの表れであることが多い。好意があると感情が高まって早口になったり、安心感がある相手に対して、溢れ出る言葉を止められなくなったりする。

対して男性の場合は、目的や自己アピールの表れであることが多い。論理的に、効率よく自分の考えを伝えたいという心理。あるいは、余裕のなさやストレスからくる焦り。

違いはあれど、どちらも根底にあるのは「緊張」や「興奮」だ。

いずれにせよ、「会話がうまくいく・いかない」は、どちらか一方の能力だけの問題ではない。それは、どれだけ相手と関係を結ぼうとしているかという、姿勢の問題なのだ。


相手に興味を向けること。 相手が入ってくる余白を残すこと。
会話は、テクニックもあるが、大事なのは「呼吸」なのだと思う。

私はぬるくなったアールグレイを飲み干し、カフェを出た。
さあ、帰ったら夫とたくさん対話をしよう。

≪おわり≫

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