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15分で、無双する


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

 

 

記事: まるこめ(ライティング・ゼミ25年11月開講コース)

 

(頼むぅぅぅ、このまま……寝てくれぇ)

両手の平に、7kgの重みがズシっとのしかかった。

手のひらから滲み出てきた汗が、その重さを物語っている。

(そぉ~っとよ、そぉ~っと……

生後6ヶ月の、寝落ちした我が子をベッドに置く。たった、それだけ。

ただそれだけのことなのに、とんでもない集中力と神経を「投資」する。この一瞬を制すれば、2時間あまりの時間を手にすることができる。万が一、失敗しようものなら、また数十分、いや1時間を寝ぐずりする彼女に捧げなければならない。

まるで、ハイリスク・ハイリターンのギャンブルだ。私は毎日、真っ昼間からひとり、その結果に一喜一憂しながら過ごしている。

(よし! あと少し! ここだ、ここで手を……抜く!)

マットレスの上に着地した我が子の、下敷きになった私の両手をそっと、サッと引き抜いた。

「よし、よぉぉぉし……!」

やった、やった……!!

大声で、ガッツポーズをしたい気持ちをグッと抑えながら、抜き足、差し足、忍び足で隣の部屋へと移動した。歓喜のあまり、最後の方は忍び足、というよりはきっとスキップだったに違いない。

時刻は、午後3時。

喜びも束の間……あと30分もすれば、小学生のおてんば娘が帰宅してくる。もう、すぐやないかい。ああ、私の優雅なコーヒータイムはいずこへ……。作っておいた、パンナコッタをinゼリーのように流し込んで3時のおやつを文字通り、秒で終わらせた。ナンテコッタ。

「タイマー、タイマーっと」

食卓にiPhoneを置き、膝掛けを抱き枕のように抱えた。そして、私はなんの迷いもなく

「さぁ! 寝るぞ!」

と、机に突っ伏した。おやすみ、世界。

きっと今の私は、授業中に居眠りする学生となんら変わらないだろう。違うとすれば15分後に、ゲンコツを落とす先生はいないけれど、優しく声をかけてくれるアラームがいることくらいか。たった15分の短い時間ではあるけれど、頭を休めるのには十分な時間だ。

子どもがいる生活、というのは体力もそうだけど、頭をとても使うことが多い。

「自分の1日の生活」の中に、常に「他人の1日の生活」が予期せぬタイミングでぶっ込まれる。前もってこの時間に、これがありますよ! と予約でも入れておいてくれれば、こっちも段取りっていうものが立てられるけれど、そんなもの、ないに等しい。常に、何か起こるかもしれないという不安に神経を尖らせながら、スキマをみつけては自分の日々のタスクをこなしていく他ない。時には自分のタスクを途中で放り出して、泣く泣く、おっぱいを差し出しながら、宿題にサインをすることだってある。

だから、私にとって15分のうたた寝は、自分自身への最高のご褒美なのだ。

誰にも邪魔されず、短い時間で効率よく休むことができる。そして、目覚めたあとは、マリオのスターを取った時みたいに、無敵になって家族のために、またバリバリと働くことができる。本当は、何時間でも寝ようと思えば、寝ることはできる。だけど、寝るまでに浮かぶたわいもないことにすら、今は時間を割きたくない。15分という限られた時間を、可能な限り休むことに使いたい。全集中で、寝たい。後に控える山のようなタスクを、ばったばったと薙ぎ倒すために、私は、私は……

「ん? あぁ、15分経ったか……

ほんの一瞬、ほんと一瞬。爽やかなアラームを、ゆっくりと止めた。

寝起きでぼんやりはするけれど、頭に溜まっていた疲労感はすっかりなくなったような気がした。長女が帰ってくるまで、あと10分。幸い、次女はぐっすり寝たままだ。ゆっくり白湯を飲みながら、これからのスケジュールを再度、確認する。

きっと、17時には次女が起きるだろう。長女の宿題のペースと21時就寝までの段取りを考えると、晩御飯の下拵えは……今から、しとくかぁ。

本当は、ずっとゴロゴロしていたい。自分のペースで過ごしたいし、誰にも手を止められることなく気ままにやりたい。だけど、子供たちの成長や、笑顔、そして天使のような寝顔を見ると、そんなこと言ってられない。子供たちのためにも、母ちゃん、バリバリ頑張りたい。とはいえ、数時間後には般若のような顔で怒っているのかもしれないけれど……

だから、私にとって15分の睡眠はただの休憩じゃない。それは、きっと今日を乗り切るために自分に与えたご褒美だ。ほんの短い時間でも、頭の中で絡まっていた思考をほどくことができる。実際、疲れ切ったまま無理に動くより、一度リセットした方が、結果的にうまく回る。

15分眠って、また立ち上がる。

それだけあれば、私はなんだってできちゃう。

母ちゃんが今日を回し切るために必要なものは、気合いと根性じゃなくて……

たった、15分なのだ。

《終わり》

 

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