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小3息子の先生よ、ありがとう! 21回目のプロポーズ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

2026/1/30 公開

記事:加藤瞳(25年11月開講コース)

 

「お母さん、もう無理かも……」

 

一昨年の秋ごろ、小学一年生だった息子は、寝る前の布団の中で私にそう言った。

当時の彼は後ろめたいことがあると、決まって夜寝る前に話すことが多かった。同じ部屋で眠る4つ年上の姉が寝るまで待って、私と二人きりになったと思うと、話しはじめる。夜のこの時間が、彼にとって安心して本音を話せる時間だったのだろう。

 

「え? それって、もっと前からしんどかったよね?」

 

私は彼に聞いた。「うん」と気まずそうに彼は頷く。部屋が真っ暗で顔は見えないが、いつもの声と違うので、様子が明らかにおかしい。

 

「もうしんどいから、なんとかしたい」

「わかったよ。でも、あなたの思うような先生に診てもらえるのかわからないよ」

「うん……。できれば、優しい先生がいるところがいい」

 

やれやれと思いながらも、私は眠りについた。

 

翌朝、私は早速昨日聞いた息子の困りごとを解決するため、ネットで候補を探した。でも、この問題は相手に直接会ってみないとわからない。何度も相手を変えるのは面倒だ。その都度相手に事情を言わなければならないし、私は自分のスケジュールを調整して息子の送り迎えをしなければならない。

 

息子は見た目ではそう思われないことが多いのだが、めちゃくちゃビビリだ。「怖い!」「痛そう」と思ったら、キャンキャン泣いたり、「無理!」と思ったら咄嗟に噛み付いたりと、犬みたいなところがある。

 

私は息子に、「そんなに甘いものとか歯に悪そうなものばかり食べるからだよ」と言ってしまった。そう、息子は虫歯の痛みに耐えられなかったのである。

 

実は、彼の虫歯については、私は把握していた。毎日、仕上げ磨きをしていたからだ。上の歯も下の歯も黒っぽくなっているところがあった。虫歯にならないように、食べるたびに歯を磨けばいいじゃないかと言われそうだが、そんな気力はなかった。4人の子育てをしていると、そこまで気が回らない。そういえば、私自身も4人兄弟の末っ子なのだが、私の母子手帳には、3歳の記録欄にすでに「虫歯」と書いてあったな。

 

「いい先生いるかなぁ……」と呟きながら、私はネットの口コミを眺めていた。小さなこの街で、息子が通いたくなる先生に出会えるだろうか。とりあえず、私は1軒ずつ口コミをチェックしていった。

 

「あ……。なんとなくこの先生、よさそう」。

運よく、車で10分ほどの歯医者さんを見つけた。電話をしてみたところ、予約でいっぱいと言われた。しかし、息子の歯の状況を伝えたら、なんとか他の診察の合間に診てくれることになったのだ。電話の印象もかなりいい感じ。ありがたすぎる。

 

当の息子は相当歯が痛いらしく、すぐにでも治してほしいと思っていた。しかし、治療への恐怖心が大きすぎて、診察台に座っても、口を濯ぐこともできなければ、寝転ぶこともできない。「本当に治す気があるの?」私が歯医者だったら、こう突っ込みたくなるほどだ。

 

しかし、担当になった女医さんはとても優しかった。口を濯げない息子に、「そうかあ。お水の味が嫌なのかぁ」と言ってくれるし、仰向けになれないことも「今日は座れたね!頑張ったね」と言ってくれる。できるところを見てくれるし、声に出して言ってくれる。母の立場からすると、神にしか見えない。

 

1回目の診察は、ただ診察台に座って終わった。

2回目の時は、座って、水が出るボタンを自分で押し、水の勢いを確かめて終わった。

3回目の時は、確かコップを貸してもらって、それに水を入れ、少しだけ口に入れたんだったかな。

 

とにかく、進みが遅い。いつ治療できるのか、虫歯が治るのか、見当が付かない。

この状況を不安に思った私は、先生に伝えた。すると先生は、こう返事をくれた。

 

「本来はね、歯医者は虫歯を治すだけでいいんです。でも、息子さんは治そうという気持ちがある。私とのちょっとした約束を守ろうとしているし、自分で頑張ろうとしています」

 

「虫歯がいつ痛くなるのかはわかりません。もし、急に歯が痛くなっても、多分今のままでは治療ができないと思います。怖がって、機械に手をかけたりする危険があるからです。そのことをお母さんと息子さんが了解してくれるなら、治療できる状態になるまで、いくらでも待ちます」

 

私は覚悟した。根気よく待とう。どうか、急に歯が痛くなりませんように、と。

 

月に1回くらいのペースで歯医者に通った。うまく口を開けられる日があるかと思えば、診察台に乗るだけの状態に戻る日もあった。そうして月日が経ち、3回目の紅葉シーズンを終えた頃から、息子の虫歯治療が進み始めたのだ。

 

機械から出る空気を、口に直接あてるのではなく手の甲にあて、息子がイメージしやすいようにしてくれ、唾液を吸う機械を息子本人に持たせ、やり方を教えてくれた。

 

先生は、息子のことを受け入れ、いつか彼が治療してくれる日が来ることを信じ、彼に「声のラブレター」を送り続けていたのだ。

 

そうして、歯医者に通い始めて2年4ヶ月が経った1月のある日。ついにその日が来た。

 

「できたね! すごい! 次は右の下の歯に少しだけ風さんをかけてみよう」

「手が出ちゃうと、お口に機械がぶつかって危ないから、ちょっとだけ頑張ろう」

「次はお水で汚れを流すよ! 光を当てるよ。できる?」

 

できたー!!!

1本の歯を治療できたのだ!

息子は、先生からのプロポーズをやっと受け入れたのだ!

私も息子も先生も、みんなにとって本当に嬉しい瞬間となった。

 

帰りの車で、私は息子に診察カードに書かれていた日にちを数えるように言った。

 

「お母さん、7つ書いてあるよ」

「それは、上に新しい日付シールを貼っているから、実際に通った日付はそれより14回多いよ」

「じゃあ、21かぁ」

 

21回。本当によく耐えたな、私。

息子が口を濯ぐだけの15分のために、仕事のスケジュールを考えたりするのが面倒だと思うこともあったし、口を開けるのが怖くて診察台から起き上がる息子をドーンと突きたくなることもあった。

こんなに気長に待つ私は、彼の可能性を信じているのか、それとも彼のわがままに振り回されているだけなのかがわからない日もあった。

 

でも、待ってよかった。だって、その日が来たんだから。

息子よ、先生からの21回目のプロポーズをよく受け入れた!

自分と自分を信じてくれる人を信じられたね。

私はそれを目の前で見られて、嬉しかったよ!

 

22回目のプロポーズは、きっと息子から先生にするはずだ!

 

《終わり》

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