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家庭内サブスクのススメ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:秋田梨沙(2026年1月開講・渋谷/通信・4ヶ月コース)

 

服を選ぶのは苦手だ。

苦手というより、もはや興味がないのだと思う。買い物に行っても、お店をぐるっと一周回って、速攻で出てきてしまう。君は一体何を見てきたの? と驚かれるほどの速さで出てくる。当然ながら、ファッション雑誌は3分で読み終わってしまう。これが本屋さんであれば、2時間でも3時間でも居座れるのだから、やはり洋服に興味がないのだろう。

 

そんなダメダメな私のクローゼットには、見かねた夫が買ってくれた服が並んでいる。特に頼まずとも、季節ごとに服が自動で追加されていくその仕組みを、私は「家庭内サブスク」と呼んでいる。

 

そもそもの始まりは、会社の制服が廃止になってしまったことだった。
どこぞの民族かというほど原色好きだった私は、眩しいオレンジ色のスカートやらバナナ顔負けの黄色いコートをよく着ていたのだけれど、プライベートはともかく、それでオフィスに行くわけにもいかない。

「この度、会社の制服がなくなるのですが……」

と夫に相談したところ、一緒に買い物に行ってくれることになった。


なんとありがたい!

 

けれど、思い出して欲しい。私の買い物偏差値を。

ウキウキしていたのは最初の5分まで、下調べをした夫があれこれ勧めてくれるものにも関わらずイマイチ気が乗らない。試着なんて死ぬほど面倒くさい。

 

「これ、いいんじゃない?」

「うーん……」

「じゃあこっちは?」

「それ好きじゃない……」

 

ワガママを言っているうちに、結局ほとんど買えずに帰ってきてしまった。そこで夫は悟ったらしい。このまま一緒に選んでいたら埒が明かない、と。

 

以来、私は完全に見放され、夫が勝手に服を供給してくれるようになった。文句ばかり言う妻を見捨て、彼は自分のセンスを信じる道を選んだのである。

 

正直、夫の選んできた服は全く私の好みではなかった。なんというか、地味だ。面白くない。しかし、そんな妻の反応は想定内だとでも言わんばかりに、

「騙されたと思って着てみなさい」

と言われ、しぶしぶ袖を通してみる。

 

……おいおい。

めっちゃ似合うじゃないか。

 

この瞬間、私はきちんと理解した。これは抵抗しても意味がないのだと。
自分で選ぶより、はるかに“出来のいい”私に仕上がるのだから、私の意思など無い方がよい。

 

以来、服における全権を私は放棄した。

「家庭内サブスク」誕生の瞬間である。

 

体型も行動パターンも知り尽くした上で選んでもらう服は、ほぼ外れがない。お肉の分量に繊細な服を選ぶ場合を除き、私は同行する必要もない。

最初のうちは「おのれの意思はないのか!」と心配していた夫も、もはやサブスクを完全に受け入れてしまっている。黙っていても日々の会話から要望を察知し、季節ごとに服を自動的に仕入れてくれる。なんと優秀なことか。AIでもこんなわがままには対応出来まい。

 

3月には長男の卒業式が控えている。

女の子たちは袴を着たりするので、着々と準備が進んでいるようだ。それに合わせてお母さんたちも着物をきようかな、なんて話す流れで、不意に質問された。

 

「秋田家はどうするの? 袴はく?」

「いや、分からん。スーツじゃないかな?」

自分担当じゃなさすぎて、すっかりもう2月であることを忘れていた。

「パパ担当だから全て丸投げしてある!」

 

たぶん、私の分も……。

ふと我に帰った瞬間に、大人としてこれでいいのかと反省はしてみたのだけれど、今更この快適な生活は手放せない。夫は夫で、楽しく洋服選びができているようだし、私は私で苦手な買い物に時間を使わなくていい。得意なことは得意な人に任せるのが良いに決まっている。下手なプライドなどない方がマシなのだ。こだわらないことが、こんなに心地いいとは思わなかった。

 

ただし、地に落ちたファッション偏差値により、息子たちの信用も失っているので、私と服の買い物には行ってくれなくなってしまった。

 

でもまぁ、それでいい。

 

彼らはサブスク師匠のもと、ファッションを大いに楽しんでもらっている。

 

ところで、最近、気になっていることがある。
ここまで恥ずかしげもなく「家庭内サブスクです!」と宣言しながら、私は夫に何を支払っているというのだろう……。

 

あら? 料金を踏み倒してる?

 

卒業式前に、サービス停止になっては敵わないので、帰りにデパートで、ちょっと奮発したチョコレートを、買って帰ることにしよう。そうしよう。

 

《終わり》

 

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