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全力豆まき


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:歩楽歩楽三(2026年1月開講・渋谷/通信・4ヶ月コース)

 

 

2月は節分。

我が家では毎年家族揃って豆まきをする。

当たり前のように鬼はパパである僕の役目。

 

撒くのは、小分け包装した豆だ。

豆がもったいないこともあり、投げ終わったら拾って包装を解いて食べるのだが、息子は昔から「うらあ!」と本気になって投げつけてくるので、小分け包装の中の豆は大体粉々になっている。

 

 

今年も「でん六」さんの豆を買ったのだが、チラリと同社のサイトを見たところ、節分の由来が記されていた。

「——有力な説としては、宮廷でおこなわれていた「追儺(ついな)」という儀式が民間に伝わり、次第に広まっていったのではないかと言われています。 「追儺」では「方相氏(ほうそうし)」と呼ばれる恐ろしいお面をつけた人が、矛と盾で悪霊を追い払うものです。 それが長い年月を経て、民間に伝わっていくうちに、いつの間にか悪霊を追い払う側だった方相氏の姿が、反対に追い払われる側の鬼のイメージとして定着してしまったようなのです。」

 

へーっ、実は鬼の原型が悪霊を祓っていたのだ。

で、時代を経て善玉が悪玉にすり替えられてしまった、と。

これ、歴史の風評被害ではないですか?

今も昔もビジュアルが大事なのね……。

方相氏のことを思うと、ちょっと切ないなぁ。

 

 

考えれば、この「方相氏の悲劇」は他人事ではない。 包み紙のような響きのする名前の彼は、もともと悪霊を威嚇する守護者だったのだ。 それが「顔が怖いから」という理不尽な理由で、いつの間にか追い払われる側にすり替えられてしまった。 善意で町の警護に当たっていた強面の男性が、SNSで「顔がコワい、キモい」と写真を拡散され、逆に不審者扱いされて炎上したようなものだ。 可哀想すぎる……。

 

そして、その悲哀は、現代の「パパ」にもどこか通じるものがある。 家族のために身を粉にして働き、外敵(金銭的な不安や不審者などなど)から家族を守る防波堤であろうとしているのに、いざ家の中に一歩入れば何やら不浄な物として扱われ、家族からバイオハザード並みの警戒をされることもある。

特に年頃の女の子からは「パパ臭い!」という、方相氏もびっくりのビジュアルならぬ「嗅覚の風評被害」に晒されたりするようだ。(まあ、完全には否定できない部分もあるけれど……)

 

悪霊を追い払っていたはずの方相氏が、いつしか鬼へとすり替わったように、家族を愛しているはずのパパもまた、ふとした瞬間に「家庭内における仮想敵」へと変身させられてしまう。

 

もしかすると、僕が毎年「鬼役」を当たり前のように引き受けているのは、単なる役割分担ではないのかもしれない。

日頃から蓄積された「パパへの不満」を、節分というイベントを通じて合法的にデトックスしようという、家族の無意識な心理による結果なのではないか。

 

そう思うと、鬼の面を被る瞬間、それは単なる恒例行事ではなく、日本中のパパたちが背負わされた「理不尽な諸々」を一身に引き受ける厳かな儀式のように思えてくる——。

 

 

さて、でん六さんは、豆についても書いている。

「では、鬼を退治する道具として豆が使われるようになったのでしょうか? ひとつは、大豆が強い生命力を持っていることから、中国でまじないなどに使われていたことが日本に伝えられ、その風習にあやかって鬼退治の道具として使用されたという説。 他には、その昔、京都の鞍馬山に住む鬼が人々を苦しめていたところに、七福神の一人である毘沙門天が現れ、三石三斗(約600リットル)の豆を鬼の目をめがけて投げるように言い残したという伝説もあります。 魔物である鬼の目、つまり「魔目(まめ)」をめがけて、豆を投げれば、魔物を滅する「魔滅(まめ)」ことができる、というわけです。」

 

なるほど、豆は鬼の目を狙うための「対魔兵器」だったのか。

 

 

ここで一つ戦略的分析を試みたい。

前述した「毘沙門天が三石三斗(600リットル)もの豆を投げろと言った」という伝説だが、600リットルといえば、一般的なファミリー向け家庭用浴槽(180〜200リットル)約三杯分の量である。

それを鬼の目めがけて叩き込めというのだから、仏教の四天王でもあり、七福神きっての武闘派でもある毘沙門天(別名 多聞天)の教えは、もはや物量作戦による制圧の域に達している。

 

毘沙門天が現代に生きていれば、「豆はバラ撒くものではない。鬼の目に向かって射出するものだ!」と説いたに違いない。

そう考えると、我が家の息子の所業も、あながち間違いではない。 極めて伝統に忠実であるといえる。

彼が手にしている小分け包装の豆。 ——それはもはや可愛らしいお菓子ではなく、一袋あたりの質量を最適化された「対鬼用手裏剣兵器」なのだ。

 

それなら、小分け包装とはいえ、息子の全力投球も理にかなっている。

むしろ豆が粉々になっているくらいの方が、対鬼用としては正しいのかも。

 

 

さて、今年の豆まきだが、目隠しまでされて、遠慮会釈なしに息子から豆の袋を投げつけられた。

「逃げちゃだめだよ、鬼なんだから!」

もう息子の目は、確実に標的を仕留めにくるスナイパーのそれである。

彼が放つ一投一投には、日頃のストレスや不満といった負のエネルギーが、すべて「魔滅(まめ)」という大義名分のもとに変換され、恐ろしい推進力を伴って僕の胸元や太ももに突き刺さる。 「顔や急所はやめろよ」というパパの注意もなんのそのだ。

 

息子は汗だくになって、拾っては投げ、拾っては投げと、豆を投げ続けた。

「なんでそんなに頑張るんだろうね——」と奥様は横で見て笑っている。

ようやく息子も疲れたようで、ひと息つき始めた。

 

最後はあちらこちらに飛んで行った小分け袋を集め、家族揃ってソファーで寛ぎながら粉々になった豆を食べる。

粉々になっているものだから、年の数だけ食べるというのも気にしなくて良い(笑)

もはや豆を食べているというより、節分という儀式の残骸を摂取しているような気分だ。

 

鬼を追い払ったというより、家族で笑って豆まきした時間そのものが、厄払いになっているような気がする……。

 

——さあ、今年も無事に春が来て欲しいものだ。

《終わり》

 

 

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