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一冊の漫画が少女の世界の窓を開けた ~『ベルサイユのばら』が教えてくれたこと~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:清水 明子(2026年1月開講・福岡・2週間集中講座)

 

 

私が初めて『ベルサがイユの私ばら』を手に取ったのは、小学か三年生のころだった。
ごく普通、いや貧乏だった家庭で育った私は、外国の情報に触れることなどなかった。日本の歴史でさえ、唯一知っていたのは、私を寝つかせるために父が語ってくれた赤穂浪士の話だけだった。

1970年代、私だけではなく、日本の国民のほとんどは、まだ海外が身近な存在ではなかった。
外国へ行くということは、今でいえば宇宙へ行くことに近いほど、現実感のない出来事だった。

そんな時代に出会ったのが、『ベルサイユのばら』だった。
『ベルサイユのばら』通称「ベルばら」は、1972年から1973年にかけて週刊マーガレットという少女漫画雑誌に連載された、池田理代子氏の作品だ。
フランス革命前からフランス革命前期のヴェルサイユを舞台に、男装の麗人オスカルとマリー・アントワネットらの人生を描く、フィクション作品である。

ページをめくった瞬間、私はまったく知らなかった世界に引き込まれた。
そこには、豪華絢爛な宮殿、気高く生きる人々、そして、時代のうねりの中で懸命に生きる人間の姿が描かれていた。

マリー・アントワネット
オスカル
アンドレ

彼らの生き様に、幼い私は強く心を揺さぶられた。

なぜかはわからない。
けれど、胸の奥が熱くなり、涙が出るほど感動した。

そして、こう思った。「パリに行きたい!」
なぜかヴェルサイユ=パリと思ってしまっているところに、お子ちゃま度があらわれているのだが。

それは、単なる憧れではなく、心の奥底から湧き上がる、強い願いだった。

それから十数年後。
二十歳になった私は、初めての海外旅行で、パリを訪れた。

ウィーン、ドイツのロマンティック街道を経て、夢に見続けていたパリへ。
フランクフルトから夜行列車でフランスに入り、パリ到着。駅の空気、聞こえてくるフランス語の響き。夢が叶ったのだ。

そして、念願のヴェルサイユ宮殿!
あの鏡の間、あの庭園、あの神殿!

幼い頃、本の中で見た世界が、現実として目の前に存在していた。
その瞬間、胸がいっぱいになった。

本当に、ここに来たのだ!

あのとき感じた感動は、今でも鮮明に覚えている。
それは、単なる観光ではなかった。幼い頃の自分の心と、今の自分が、静かにつながった瞬間だった。

それ以来、私はフランス語を学び始めた。成果は、「トイレどこですか?」「いくらですか?」とフランス語で尋ねることができるようになった。
そして、1年~2年に一度はパリを訪れるようになった。

街を歩き、空気を感じ、人々の暮らしに触れるたびに、「ベルばら」の世界が、単なる物語ではなく、歴史の中に生きていた現実だったことを知った。

フランス革命とは何だったのか。
人はなぜ、生き方を貫こうとするのか。
時代の中で生きるとは、どういうことなのか。

一冊の漫画は、私に歴史への興味を与え、世界への扉を開いてくれた。

思えば、不思議なことである。
国内のことすらよく知らなかった一人の少女が、一つの物語に出会ったことで、遠い異国の歴史を知り、その地を実際に訪れ、何度も足を運ぶようになった。

そして2022年。『ベルサイユのばら』出版50周年を記念した展覧会が、六本木で開催された。私は迷うことなく、その会場へ向かった。
展示室には、原画や資料、そして作品に込められた想いが丁寧に並べられていた。
一つひとつを見ながら、私は、自分の人生の原点を辿っているような気持ちになっていた。
そのとき、ある言葉が目に入った。作者・池田理代子さんの言葉だった。
「当時は『ベルサイユって何?』という感じでしたから子供たちに興味をもってもらうためにも、とにかく美しく、華やかにと心がけました」

その一文を読んだ瞬間、胸の奥にしまっていた記憶が、一気に溢れ出した。

遠い異国に憧れた、あの小さな自分
初めてパリの地に立ったときの、あの震えるような感動
何度も訪れるようになった、あの街

影響を受けた少女が、ここにいます!

心の中で、叫んでいた。

もし、あのとき『ベルサイユのばら』に出会っていなかったら、私の人生は、まったく違うものになっていただろう。

漫画には、人の人生を変える力がある。
それは、知識を与えるだけではない。心を動かし、想像力を広げ、まだ見ぬ世界の存在を教えてくれる。

そして時に、人をその世界へと導く。

1972年、海外は、私にとって宇宙のような存在だった。
けれど、一冊の漫画が、その宇宙へと続く扉を開いてくれた。

物語は、単なる空想ではない。物語は、人を動かす力であり、人生を変える力を持っている。

『ベルサイユのばら』は、私に世界が広がっていることを教えてくれた。
そして、世界へ向かう勇気を、与えてくれたのである。

 

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