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家を購入することは、自分と対話することだ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事: maruha  (ライティング・ゼミ 11月開講コース)

 

 

 

 

「買ってまだ数年なのに……。もう住めないかもしれない!」

 

30代、結婚を機に購入した新築の分譲マンションの一室で、私は声を上げた。

14階建てで、1フロア2邸のみという細めの物件だ。

 

交通量の多い、大きな交差点沿いだが、名古屋の中心地にも近く、職場へのアクセスがよい点も気に入っていた。12階にある我が家からの景色は遠くまで抜けていて、名古屋駅方面の夜景が見え、「アーバンライフだ!」とはじめは調子こいていた。

 

物件を決めた当時は若さもあり、完全にイケイケモード。共働きで仕事も順調。住宅ローンも問題なく通り、「ここを拠点にバリバリ働くぞー!」と未来を疑わなかった。

 

のだが……住み始めて4年ほどで、

「住んでいられないかも……」と思い始めた出来事があった。

 

私が、かなり無理して続けていたせいか、体調を派手に崩してしまったのだ。

それが原因で職場を退職。

「思い切ってしばらくはゆっくり休養しよう」と割り切って、家での生活をメインに切り替えた。

 

そこで、思わぬ問題が浮上してきたのだった。

休むためにベッドに寝ているのに、全く落ち着かないのだ。

 

「このマンション……療養には全く向いてない!」

 

アーバンライフがアダとなり、フルタイムで外に出ていた時は気になってなかった「昼間の騒音」や「交通量の多さ」などを、ストレスに感じ始めたのだった。

 

昼間ずっと家にいると、大きな交差点の音が絶え間なく耳に入ってくる。

 

一度気になりだすともう止まらない。

「えっ、こんなにうるさかったっけ⁉」

 

同時に、自分がこんなにも騒音に弱い人間だったのだと、この年になるまで気づかずに生きてきたことに驚いた。

 

日に日に「引っ越したい……」という思いが強くなる。

でも、購入してるからカンタンに引っ越すわけにもいかない。

となると、ここに住みながらできる工夫をしていくしか道はなかった。

 

まず思い切って、数万円の大金を使う勝負に出た。

大通りに面している寝室の窓に「2重窓リフォーム」を施したのだ。

 

もともとある窓の内側にもう一つ窓を取り付けて、「断熱や防音効果」を狙うものである。

 

当時、「リノベ補助金」があったので、それを利用させてもらった。

(ちなみに今も「先進的窓リノベ事業」という支援があるらしい。もし窓の断熱や騒音で人生のQOLが瀕死になってる人がいたら、ぜひ調べてみることをおすすめします)

 

2重窓を取り付けて「寒さ、暑さが和らいだ」のはもちろんだが、なにより「外からの騒音が半分くらいになった」ことが大きかった。

 

完全に「無音」になるわけじゃないけど、静かさは格段に違う。

「本当にやってよかった……」と心から思えた。

 

さらに、思いつくことは何でもやった。

防音カーテン、防音カーペット、耳栓、スピーカーで流すホワイトノイズ……。お金も労力もかかったが、あらゆる「合わせ技」を試したことで、ようやく騒音ストレスは軽減されていった。

 

「何とかここで住んでいけるかもしれない」と思い始めた矢先、ダンナが「もう、ここを売って引っ越しするか!」と言い出す出来事が起こった。

 

その日ダンナは、自力で歩けないぐらいの「ひどいギックリ腰」をやってしまい、仕事を休んでベッドで横になっていた。そんなタイミングで起こったのが、あの東北大震災だった。

 

遠く離れた名古屋でも、今まで経験したことがないほど長く、不気味に揺れた。

私はスーパーに買い物に行ってる最中だったが、一人で留守番をしていたダンナは、細長いマンション12階の揺れを全身で体験した。

「マンション、折れるんじゃないか!」と割と本気で思ったらしい。

 

何が一番怖いって、「今、自分は腰が終わっていてベッドから起き上がることもできない」ということだ。当然エレベーターは止まってる。避難が必要となれば階段しかない。動けない体で高層階にいることが、絶望的な気分だったそうだ。

 

もともとこのマンションはエレベーターの点検や不具合も多く、そのたびに12階まで階段を上らされることに、運動嫌いのダンナは不満を募らせていた。そこへ追い打ちをかけるように地震が起き、「もう、地面に近いところで生きたい……」という思いが決定的になった。

 

そんなそれぞれのキッカケが重なり、私たちは「引っ越しを考えよう」という結論に至った。

しかし賃貸と違って、持ち家の引っ越しは何倍もハードルが高い。

 

人生の好調期に勢いで買った物件が、数年後のコンディション変化で困ることもある。そのリスクを、もっと想像しておくべきだったと今は思う。

 

でも、この「失敗」を嘆いてばかりもいられない。おかげで気がついたこともある。

それは、「家の購入とは、究極の自分との対話」なんじゃないか? ということ。

 

購入する前、私は自分のことを1ミリもわかっていなかった。

「都会的で便利な暮らし」に憧れ、それが自分に合っていると思い込んでいた。けれど、実際に住んでみて、困ったことが起きて初めて、自分の深いところにある「本音」が顔を出した。

 

「私は、見栄や便利さよりも、とにかく『静かさ』を求めているんだ」

「何かあった時の安心感を、どれだけ大事にしたいか?」

 

これらは、実際に住んでみないことには、なかなか気づけないことだった。

 

この教訓を活かし、今はマンションを手放し、戸建てを選んで住んでいる。

戸建てには戸建ての、マンションにはマンションのメリット・デメリットがある。住んでみてから「あぁ、あっちの方が良かったな」と思う点だって、もちろんある。

 

けれど、今の私には迷いがない。

「自分にとって、何が一番大事か」を、身をもって知っているからだ。

 

もし今、住まいに違和感を抱えている人がいるなら、それはわがままでも贅沢でもない。

きっとそれは、自分の本音が小さくノックしている音なのだと思う。

 

今は失敗に思えても、振り返ったとき、それが自分の奥底に眠っていた本音に気づくための「自己理解のチャンス」だったと気づく日が来るのではないだろうか。

 

 

 

 

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