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感性が貧相で本当によかった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:仁(2026年1月開講ライティング・ゼミ)

 

自慢ではないが、私は感性が貧相だ。だが、そのおかげで本当によかったと思っている。

 

なぜなら、感性が貧相であれば「お金の心配」をせずに済むからだ。衣・食・住の切り口から、まずは「食」について説明したい。

 

私は食へのこだわりが皆無だ。地方を訪れても、迷わず夕食にマクドナルドを選べる。そんな私が、何を血迷ったか一度だけ、1人7万円の回らない寿司屋へ行ったことがある。

 

そこはメニューも値札もない「おまかせコース」のみ。さらに、料理ごとに最適なお酒が提供される「ペアリング(マリアージュ)」のスタイルだった。

 

序盤こそ堪能していたものの、終盤には泥酔。味どころか、目の前の料理が何なのかすら分からなくなっていた。結局、酔っ払って楽しくこそあったが、そこに7万円の価値は見出せなかった。

 

感性豊かな人なら、私にこう苦言を呈するだろう。「料理とはただ食べるものではない。食材のルーツや旬の意味、供されるまでの創意工夫。一皿に込められたストーリーを理解してこそ、味わうと言えるのだ」

 

残念ながら、私はそのストーリーに1ミリも興味が持てない。理由は不明だが、とにかく響かないのだ。

 

これが、私の「食の感性が貧相」たる所以である。しかしそのおかげで、私は高い金を払わずとも、日々の食事を最高に楽しめている。

 

次に「住」について。先ほど挙げた1人7万円の寿司屋だが、実は当時住んでいたマンションの1階にあった。

 

本来は半年から1年先まで予約が埋まっている名店だが、「住人専用枠」で予約が取れたため、物は試しと足を運んだのだった。

 

そのマンションへ入居する際、どうせならとデンマークの高級家具メーカーにトータルコーディネートを依頼してみた。相場がわからなかった私は「好きに見積もりを作っていい」と大口を叩いたのだが、提示された金額は、地方なら家が一軒建つレベル。文字通り、目が点になった。

 

意を決して揃えた高級家具だったが、いざ生活してみると、見た目こそ豪華なものの重くて動かしにくいうえ、メンテナンスにも気を遣う。とにかく使い勝手が悪かった。

 

高い家賃を払い、高い家具に囲まれても、拭いきれない居心地の悪さを感じ、私は早々にその部屋を退去した。

 

今の相棒は、アイリスオーヤマの組み立て家具だ。多少のガタつきは「まあ、そんなものだろう」と気にならない。何より軽く、いざとなれば即座に処分できる。今の私には、これで何の文句もない。

 

最後は「衣」だ。一時期、専属のスタイリストにワードローブをすべて任せていたことがある。季節ごとに選んでもらった服を受け取り、それを着るだけの生活だ。

 

だが、洋服も家具と同じだった。高級になればなるほど、扱いが面倒になる。自宅で洗えないのは当たり前。近所のクリーニング店では断られ、わざわざ専門業者へ持ち込まなければならないことすらある。

 

おまけに、なぜか「おしゃれな服」に限って着心地が悪い。着れば確かに背筋は伸びるが、毎日シャンとしていたいわけではない。一日中スウェットでだらだら過ごしたい日だってある。いや、むしろ楽に過ごしたい日の方が圧倒的に多いのだ。

 

スタイリストは言った。「生地のルーツや職人のこだわり、洋服もストーリーごと纏うものですよ」と。食の時と同じだ。残念ながら、私にはそのストーリーが1ミリも響かなかった。

 

結局、今はユニクロとワークマンに落ち着いている。なんて機能的で動きやすいんだろう。これほど質の高い服がこの価格で手に入るなんて、最高以外の言葉が見つからない。

 

あと、お金がかかるものと言えば「車」だ。以前は外車にも乗ったが、やはり維持費がかかる。結論、私には軽自動車で十分だった。

 

保険も安ければ高速代も安い。おまけにGoogleマップが時折指示してくる「お前、正気か?」と疑いたくなるような細い道も、スイスイと難なく走り抜けられる。

 

正直に告白すると、私はかつて、自分の感性の貧相さをコンプレックスに感じていた。なぜ自分は芸術を理解できないのか。

 

世間で「逸品」と称されるものを目の前にしても、なぜ心が動かないのか。ずっと内面で葛藤していた。

 

それは自分が未熟で、センスがないからだ。そう自分を貶め、恥ずかしいことだとさえ思っていた。だからこそ、よく分かりもしない高級寿司屋へ行き、身の丈に合わない家賃を払い、良さがさっぱり分からない服を無理して着ていたのだ。

 

そうして迷走した末に行き着いた結論は、「わからないものは、要らない」という極めてシンプルなものだった。

 

皆が良い、凄いと絶賛するものであっても、自分が理解できないのなら、私にとっては価値がないのだ。

 

「当たり前のことではないか」と思われるかもしれない。そう、ごく当たり前のことだ。

 

だが、私たちは「世間で人気があるから」という理由だけで、欲しくもないものを欲しいと思い込まされていることが多い。

 

流行りものなどは、その最たる例だろう。ブームが過ぎた後で「なぜあんなに欲しかったんだっけ?」と首を傾げるのは、それが自分の心から求めたものではなかった証拠だ。

 

今では、私は感性が貧相で本当によかったと思っている。感性が貧相であれば、そもそもお金の使いようがない。わけのわからないものに大金を投じるリスクがゼロなのだ。

 

自分の「貧相さ」を受け入れた今、私はようやく、自分が本当に理解できるもの、心から欲しいと思えるものだけを選べるようになった。それは、何にも代えがたいほど、穏やかで幸せな日々である。

 

≪終わり≫

 

 

 

 

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