生成AIが答えを知る時代に、人間はなにをするのか
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
木藤奈音(ライティング・ゼミ25年11月開講コース)
――水の色は透明なのに、どうして海のような淡い青色を「水色」というのだろう。
そんなこと、考えたことはありませんか。
答えを知っていても、日常生活には影響しない、ささやかな問い。
生成AIならこう答えるでしょう。
――水が青く見えるのは、主に水分子が赤色の光を吸収し、青色の光を散乱させるためです。
この答えは、科学的にも根拠がある、正しいものです。
でも、問いが生まれた背景や、質問者との人間関係を思えば、もっとふさわしい言葉があるのではないでしょうか。
たとえば、子供が『水色』のクレヨンを画用紙に走らせていたかと思ったら、その手がとまったとき。付き合い始めの二人が、宝石がこぼれたように輝く水平線に見とれて一言発したとき。市民プールで休憩中のスイマーが、銀色にゆらめく水面をぼんやりと眺めるとき。
「どんなきっかけで、不思議に思ったんだろう?」
「もっと疑問を掘り下げるためには、どんな返しをすればよいだろう?」
「自分が考えていることをそのまま伝えるためには、どうやって伝えようか?」
そんな思いが、頭を駆け巡りませんか。
誰もが生成AIをつかいこなし、誰でも正解がわかる時代。正しい答えではなく、「今の局面で、この人に、どんな言葉が届くだろうか」という、文脈への理解が求められているように思えます。
だから、同じ質問でも、人間が紡ぐ言葉は、ひとりひとり違うはずなのです。
「海が空をまねしているから、『水色』なんだよ」
「水にはいろんな色があるけど、『水色』が一番ピュアで水のイメージぽいよね」
「プールの底が『水色』に塗装されているからかな」
こんなふうに。
ある人が文脈を理解するとき、意識するしないにかかわらず、その人がこれまで見聞きしたことや経験したことが強く影響します。
つまり、文脈とは、その人の歴史そのものだと思います。文脈を共有することは、自分の歴史を他人と共有すること。身体をもつ人間だから可能なことです。
海の色ひとつとっても、土地によってイメージはがらりと違います。
私は、家族の単身赴任がきっかけで、日本海沿岸のある町に縁ができました。当地の雪が多いことや、日照時間が少ないことは知識として知っていました。ところが、この場所で過ごすにつれ、これまで太平洋側で過ごした私は、裏日本の天候を骨身で理解したのです。
たとえば、朝。ぼんやりと沈む灰色の雲と紺青色の海。太平洋沿岸であれば、空が桜色に染まる美しい時間帯のはずですが。晴れていても天気予報のチェックは欠かせません。せっせと洗濯物をバルコニーに干します。
午前10時ころ、やっと山から太陽がのぞき、あたりがキラキラと輝き始めます。建物の影も短くなり、外に出かけたくなります。ここから数時間、暖かくなる時間帯です。
昼下がり、さっきまで澄んだ青空が広がっていたのに、再び乳白色の空に戻ってしまいました。窓を開けると、雨のにおいもします。あわてて雨雲レーダーアプリを立ち上げます。雨雲到来まであと30分。生乾きの洗濯物を取り込み、あとは室内干しでしのぎます。
こんな生活をなん日か体験すると、単なる情報が、不安定な気候と共存する粘り強さや、常に備える慎重さといった肌感覚を伴って自分の肚に落ちる気がします。
自分自身が直接見る、聞く、感じる。先入観にとらわれず、ものごとの本質をつかむ力は、自分の身体で感じることから始まると思うのです。そうやってつかんだ本質は、自分だけのオリジナルになります。
そんな経験を重ねて、私はこう思うようになりました。
「どうして水色なんだろう」と尋ねられたら、生成AIに聞くよりも、動画を見るよりも、「この人に、自分がどう伝えたいか」を、自分の身体に聞いてみよう。
もちろん、すべてのことを直接自分の身体で経験することはできません。
そこで、古くから、物語を通じた疑似体験が行われてきました。すぐれたストーリーは、まるで自分がその場に立っているかのような感覚を与えてくれます。そういった疑似体験も、AIの時代における『文脈』をかたちづくるのだと思います。
そんな思いを込めて、絵本をつくりました。
タイトルは『どうして みずいろ なのだろう(きとう なおと名義)』です。
主人公は、小さい男の子。水の色は透明なのに、どうして『水色』という名前なのか不思議に思います。そんな主人公を、お父さんは海に連れていく。そして、主人公は『水色』だけじゃない彩り豊かな海を見る――。
「生成AIが答えを知る時代に、人間は身体を使って、自分だけの答えを探す」経験を描いた作品です。
ここで、一つ白状しなければならないことがあります。実は、この絵本の作画には、画像生成AIを利用しています。
「身体感覚が人間のオリジナリティと言っておきながら、結局AIに頼っているじゃないか」というお叱りが聞こえてきそうです。私自身も、この自己撞着に気づいた当初は戸惑いました。それでも、制作過程を振り返り、一つの結論に至りました。
生成AIが絵を描くとしても、『何を、どんな風に描かせるか』という意志は、私の身体から出てくるものです。先入観がない子供の目に見えた海を、なんども言葉にし、プロンプトとしてAIに渡しました。
この絵本は、技術を用いて、AIに私の身体感覚を再現してもらう。そんな、AI時代の新しい創作のありかたを模索した一冊でもあります。
そんな身体感覚をAIで翻訳した、新しい試みの絵本『どうして みずいろ なのだろう(きとう なおと作)』は、2026年5月まで全国の天狼院書店4店舗「天狼院カフェSHIBUYA」「名古屋天狼院」「京都天狼院」「福岡天狼院」の店頭で展示・販売中です。ぜひお近くの店舗まで足をお運びのうえ、お手に取ってご覧ください。
≪終わり≫
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