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お疲れギバーのところにちゃっかりゲッターがやってきた日


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:白水 裕(ライティング・ゼミ 2026年1月開講4ヶ月コース)

 

※この文章はフィクションです

 

あるところにギバーが住んでいた。

表札に「ギバー」と書いてあるが、その文字はかすれ、風雨にさらされて白茶けていた。

 

ギバーは、子供の頃から偉人の伝記を読むのが好きだった。ナイチンゲール、野口英世、キュリー夫人、リンカーン、ヘレン・ケラー、宮沢賢治(親のセレクトがちょっと偏っていたのかもしれない)。人に何かを与えられる人は、なんて素晴らしいんだろう。自分も「与えられる人」になりたい。そのためにはまず、自分ができることを増やさなければ。そう思って、いろいろなことに取り組んだ。

 

習い事は書道、絵画、ピアノ、英会話。部活動は水泳部、体操部、音楽部、ソフトボール部を掛け持ち。掃除当番ではみんなが嫌がる掃除場所を進んで引き受け、先生に当てられて困っている子がいたらこっそり答えを教える。学芸会や運動会でも裏方を買って出た。「いいかっこし」と陰口を言われた時には傷ついたが、だからといって人を困らせる側には回りたくなかった。

 

中学、高校、大学と進んだギバーは、恋愛相談や友達のケンカの相談を受けるようになっていった。恋愛なんかしたことがないのに、のろけとも愚痴ともつかぬ電話に延々と相槌を打った。友達のケンカの相談をしにきた子は、仲直りしたらギバーには見向きもせずに元の友達と遊んでいる。ギバーはちょっと焦りを感じた。これじゃ、まるで空気じゃないか。

 

やがてギバーは就職して、一人暮らしを始めた。帰りは毎日遅かった。なぜかギバーだけに仕事がたくさん降ってくる。健康には自信があったが、さすがに疲労がたまってきた。ふと見渡すと、同僚や上司はのんびりランチに出かけたり、推し活や家族の話をしたりして楽しそうだ。ギバーはコンビニのサンドイッチ片手に仕事をこなしながら、なんだかやるせない気持ちになった。

 

ある日、ギバーが帰宅すると、見たこともない生き物が「お帰り」と出迎えた。猫のようにも見えるがサイズは手のひらにのるほど小さく、立ち上がって人間の言葉をしゃべる。「だ、誰なんだ……!」腰を抜かしたギバーが叫ぶと、「ちゃっかりゲッターと呼んでいいよ」と言う。

 

「ちゃっかりゲッターか。何も君にあげるものはないよ。そして何しろ疲れ切っているんだ」

「わかってるって。だから来てあげたんだ。ねえ、ボクを飼いなよ」

 

ったく、「呼んでいいよ」「来てあげた」「飼いなよ」って、どこまで押しつけがましいんだ。でも、なんだか憎めない。それに、こいつを追い払うわけにはいかない。なぜなら自分はギバーだから。そして、これだけ小さければ食べる量も少ないし、鳴き声がうるさくて困ることもないだろう。いてもいなくても同じことだ。

 

思惑に反して、ギバーの毎日はその日以来、少しずつ変わっていった。

 

朝食を食べずに出かけようとすると、ゲッターは言う。

「なんで朝ごはん食べないの? 1日の栄養しっかりゲット!」

 

バッグや上着のポケットにいつの間にか入っていて、通勤途中でギバーがスマホで会社のメールをチェックしていると、

「まだ勤務時間じゃないでしょ? 自分の時間しっかりゲット!」

 

夕方、急ぎの仕事を押し付けられて残業しようとすると、

「別に今日やる必要ないんじゃない? それになぜいつも君なの? 理由と納期をしっかりゲット!」

 

ゲッターだけに「ゲット」が口癖のようだ。うるさいな、と思いながらも言う通りにしてみると、それまでぎゅうぎゅうだった毎日に、エアポケットのような「余白」が生まれ始めた。時間の余白、頭の余白、体力の余白、そして心の余白。

 

残業が減った分、早起きできるようになったので、少し回り道して出社してみることにした。すると、会社から少し離れた路地においしそうな定食屋を発見した。気になったので、コンビニでサンドイッチを買うのをやめ、定食屋に食べに行ってみた。

 

店内は混みあっていたが、1つだけ席が空いていた。ラッキー、と座ると、隣の女性が「ギバーさん?」と驚いたように声をかけた。見ると、同じ部署のMさんだった。確か2つぐらい先輩のはずだ。顔と名前はわかるが、話したことは一度もない。「ギバーさんもこういう店に来るのね。よかったー。いつも仕事しながらデスクで食べているところしか見たことなかったから」。定食が来るのを待つ間、二人はとりとめのない話をした。学生時代の部活の話とか、会社の自動販売機が故障した話とか。

 

定食はおいしかった。アジフライの揚げ加減は絶妙で、具だくさんの味噌汁がはらわたに沁みた。先に食べ終えたMさんが、コートを羽織りながら言った。

「ギバーさんて、なんというか、『顔が欠けてるのに人に食べさせ続けるアンパンマン』みたいだと思っていたのよね。でも、今日は顔が丸くなっててよかった。今度、会社で若手が仕切るイベントがあるんだけど、楽器ができる人を探していて。声をかけてもいい?」

「もちろんです。いつでも声をかけてください」

 

少し遅れて定食屋を後にしたギバーの頭の中では、Mさんの言葉がリフレインしていた。

顔が欠けてるのに食べさせ続けるアンパンマンか。それは周りも声をかけづらいよな。

まず自分を満たさないと、人に与えることはできない、とういことか。

 

「ようやく気付いたね。まずは自分の幸せをゲット!」

 

いつの間にか、上着の胸ポケットからゲッターがこちらを見上げていた。

 

「与えることは素晴らしい。でも、自分にもギブしなきゃ、どんどん空っぽになっちゃう。そうすると、与えているつもりでも空回りしたり、いつの間にか負のエネルギーがたまって『なんで自分ばっかり!』と爆発したりすることもあるんだ。これって与えてるって言えるのかな? 実は『自分に与えないで人に与える』ことは『自分から奪っている』、つまりテイカーになっているんだ。わかるかな? アンパンマンはジャムおじさんとバタコさんに顔を元通りにしてもらえるから与え続けられる。でも、アンパンマンじゃないギバーは、自分でそれをやらなくちゃならない」

 

自分がテイカー。それは衝撃的な言葉だった。これまでは、周囲の人たちが自分から何もかも奪おうとしているように見えていたが、それは自分が空っぽなのに与え続けようとしていたからかもしれない。

 

「ゲッター、もうちょっと、一緒にいてくれるかな?」

 

「いいよ。でも、まずは新しい表札をゲットしない? ちょっとくたびれすぎてるから」

 

その日、部屋に戻ったギバーは、さっそく表札を入れ替えた。

そこには「ギバー&ちゃっかりゲッター」と書いてあった。

 

 

 

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