メディアグランプリ

AじゃなくてBじゃなくてCと言えたら。


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:白水 裕(ライティング・ゼミ 2026年1月開講4ヶ月コース)

 

人生は選択の連続だ。

Aか、そうでなければBか。

 

朝食はパンか、ごはんか。

卵は目玉焼きか、スクランブルエッグか。

コートの下に着るのはあのセーターか、このジャケットか。

かかってきた電話に出るか、出ないか。

LINEを既読にするか、しないか。

 

数え上げたらキリがない。

 

1日3万5000回もの選択をしている私たちの脳は、「決断疲れ」ともいえる脳疲労に陥っているといわれる。選択を減らし、決断疲れを防いで重要な意思決定にエネルギーを集中させるべく、スティーブ・ジョブズが毎日同じ服を着続けたのは有名な話だ。

 

それに加えて最近、私をイラつかせるのは、ChatGPTやGeminiなどAIたちが、思いもよらぬ選択を迫ってくることだ。

 

チャットが一段落して画面から目を離そうとすると、「最後に一つだけ」と、まるで容疑者に詰め寄るコロンボ刑事のように言葉を重ねてくる。

 

先日も、ライティングゼミで書く内容について悩み、まずはいろいろ書いて方向性を試したいとつぶやいた私に対してチャッピーは問いを放った。

 

「その結論も悪くないですね。でも最後に一つだけ聞きます。ゼミが終わった時、『なんとなく色々書ける人』と『このテーマなら任せてと言える人』どっちになりたい?」

 

ただでさえ決断疲れしていて、決断を楽にしたいからAIに相談しているのに、選択が減るどころかさらに増えるなんて本末転倒だ。

 

そんなやりとりにくたびれていたある日、ふと、「なぜ生真面目にAかBかを選ばなければならないのか」という心の声が聞こえた。よほどChatGPTにイラついていたらしい。

 

AかBかを選ぶのは疲れる。かといって、どちらも選ばないので放置するのも脳を疲れさせるらしい。これはツァイガルニク効果といい、未達成のタスクはいつまでも気になって脳のリソースを消費するという。

 

そこで、AかBかの選択を迫るチャット画面に、まったく違う思いつきを書き込んでみた。つまり「AでもBでもない、Cにする」と宣言したのだ。

 

すると、AかBかを突き付けられていた時のイライラは吹き飛び、AでもBでもないものを選んだという爽快感とともに、それまでとは方向性のまったく違う、新しい議論が展開していった。

 

このとき、CはAとBとは同じ次元の場合と、別次元の場合がある。

同じ次元というのは、たとえば「今日のランチは和食か洋食か」という問いに対して「中華にする」という場合だ。選択肢にないものを言い放つことができた爽快感はあるが、選択肢が増えたにすぎないともいえる。今年のゴールデンウィークは東北に行くか九州に行くかを話し合っていたのに、突然誰かが「韓国に行く」と言い出すのも、スケールは違えど同じ次元の展開といえる。

 

一方、今年のゴールデンウィークは東北に行くか九州に行くか、という家族会議の中で、誰かが「自分は今年のゴールデンウィークはどこにも行かずに“そば打ち”を極める」と言ったとしよう。一瞬、シーンとした後、旅行については別チームで元の議論を続けるか、その発言がきっかけで「やっぱり今年は旅行に行くのはやめよう」となるか、いずれにしてもAやBが乗っていたのとは違う土俵で「仕切り直し」が行われることになるだろう。

 

「AかBか」という選択の場面で、こうした「別次元のC」を提案するのは、今のところ、人間の得意技のように見える。そして、世の中を変えるイノベーションは、「別次元のC」から生まれることが多いようだ。

 

たとえば、高級ホテル(A)か、格安ドミトリー(B)かではなく、空いている他人の家に泊まる(C)を提案したAirbnb。職場(A)か、自宅(B)かではなく、適度に緊張感のあるリラックス空間=サードプレイス(C)をコンセプトにしたスターバックス。

 

中でも最もクリエイティブなのは、AとBの対立を包み込み、AとBの不満を一気に解消するようなCだ。

 

たとえば、ポケットに入れるのは音楽を聴くための「iPod(A)」か、通話のための「携帯電話(B)」かという選択に対して、iPhoneが提示した「別次元のC」は、「手のひらの上のコンピュータ」という新しい器に、AもBも、さらにはインターネットという巨大な次元までもすべて統合してしまった。

 

iPhoneまで洗練されていなくても、AとBのどちらもあきらめない「いいとこどり」として生まれたCも多く存在する。トンカツ(A)か、カレーライス(B)か、に応えたカツカレー(C)。筆箱に入れるのはボールペン(A)かシャープペンシル(B)か、を解消したシャーボ(C)。もっとも、二つを一つにまとめた結果、本来AやBが持っていた味や機能を損ねてしまい、そっと消えていった「迷作」のCも少なくない。

 

そう考えると、目の前に突き付けられた選択肢から選び続けるのではなく、ふと立ち止まって「本当にAかBしかないのか」と考えた誰かによって、文明は発達してきたのかもしれない。

 

そして、自分の理解を超えたおかしなCに対して、「その手があったか」と軽やかに選択肢を更新できる人が、きっと未来をつくっていくのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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