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身体の土台となるもの


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事: 美穂 (ライティング・ゼミ名古屋会場)

 

 

梅雨の時期に入り、一日中雨の降る日や、どんより曇り空の日が増えてきた。

「なんとなく体がだるい」「朝、ベッドから起き上がるのが重く感じる」「これといって病気ではないのに、なぜかやる気が出ない……」 そんな風に感じて溜息をつく日はないだろうか。

中医学では、この「なんとなくの不調」には理由があると考えられている。

キーワードは「湿気」だ。

梅雨の時期、空気中に満ち満ちた余分な水分が、知らず知らずのうちに私たちの体の中へと侵入し、心身を重く引きずり下ろす。まるで、水をたっぷりと吸って重くなったスポンジのようになってしまうのだ。

では、このジメジメとした季節を、どうすれば不調に振り回されず、健やかに過ごすことができるのだろうか。

それは「脾(ひ)」を大切にすることである。

現代医学を学んだ人は「脾」=脾臓と思うかもしれない。しかし、中医学でいう「脾」は、それとはまったく別物だ。漢方の世界における「脾」とは、私たちが日々お世話になっている「胃腸」の働き全般を指している。

さらに中医学では、自然界のすべての営みを人間の体に重ね合わせる知恵がある。その中で胃腸は、大自然における「土(つち)」のような存在だと例えられる。

もしも畑の土が、ドロドロにぬかるんでいたり、カチカチに乾燥したりしていたらどうなるだろう。どんなに立派な種を蒔いても、植物はしっかりと根を張ることができない。当然、青々とした葉を茂らせることも、美しい花を咲かせることも、豊かな実りをもたらすこともないだろう。

人間の体もまったく同じだ。何かを育て、エネルギーを生み出すためのすべての土台は、私たちの「胃腸」という土壌にある。漢方では、「胃腸の調子さえ良ければ、あらゆる不調は自ずと解決へ向かう」と言っても過言ではないほど、この場所を重要視しているのだ。

ところが、現代に生きる私たちの「土」は、常に大きな危機にさらされている。 胃腸を健やかに保つために、避けるべきとされる二つの言葉がある。それが「肥甘濃味(ひかんのうみ)」と「生冷(しょうれい)」だ。驚くべきことに、これは今から二千年以上も前に書かれた医学書に、すでに記されていた教えである。

「肥」とは、脂っこいもの。

「甘」とは、甘すぎるもの。

「濃」とは、味の濃いもの。

そして、「生」は生の食べ物、「冷」は冷たい飲食物を指す。

二千年以上前の中国に生きた人々が「これらは胃腸を痛めつけるから、くれぐれも控えなさい」と警告し、代々語り継いできたルールなのだ。

しかし、現代の街を見渡してみるとどうだろう。私たちの周りは、この「肥甘濃味」と「生冷」で溢れかえっている。

たとえば「甘」という一文字。昔の人が言った「甘いもの」とは、果物のレベルだった。果物でさえ「食べすぎると体に悪い」と戒められていたのだ。

もし二千年前の人々が現代にタイムスリップしてきたら、ショーケースに並ぶ色鮮やかなケーキや、生クリームがたっぷりのったドーナツ、とろけるプリン、キンキンに冷えたアイスクリームを見て、腰を抜かすに違いない。当時の果物とは比較にならないほどの強烈な甘さと脂質が、現代には満ちている。

さらに、一歩外食に出かければ、現代の食がどれほど胃腸にスパルタであるかがよくわかる。 お店の席についた瞬間に、氷のたっぷり入ったお水が運ばれてくる。

漢方の視点から見れば、それは一発で「生冷」のトラップに引っかかっている状態だ。

さらにラーメン、唐揚げ、ピザにハンバーガー、などなど……外食メニューのほとんどは、油をふんだんに使い、はっきりとした味付けがされた「肥・濃」のオンパレードだ。現代に生きる私たちの「脾(胃腸)」は、毎日傷だらけになりながら、必死に働いているのである。

またある時、私は夕食の買い出しのためにスーパーを訪れた。いつも通り買い物カートを押し、何気なく売り場を眺めていたとき、ふと、ある事実に気づいて足が止まった。

「目に入るもの、ほとんどが肥甘濃味か生冷じゃないか?」

惣菜コーナーに一歩足を踏み入れれば、コロッケや天ぷら、タレがしっかりと絡んだ焼き鳥など、「肥」と「濃」の見本市だ。そのままデザートコーナーへ視線を移せば、今度は購買意欲をそそる魅力的なスイーツが「甘」の誘惑を放っている。冷凍食品コーナーには冷たいアイスがぎっしりと詰まっている。 このあふれる飽食の時代の中で、からだの土台である胃腸を100%いたわりながら生きていくことが、どれほど難しいことか実感した。

だからといって、「今日からお腹のために、すべての油と甘みと冷たいものを断ちます」と宣言するのは、あまりにも現実味がない。 毎日、薄味のお粥と温かいお茶、蒸した野菜だけを食べるような生活を続ければ、確かに胃腸は喜ぶかもしれない。しかし、それではまるで修行僧だ。現代の「食の楽しみ」をすべて奪われてしまったら、今度は人生がつまらなくなってしまう。友人との賑やかな外食も、仕事終わりの自分へのご褒美スイーツも、私たちの人生を彩る大切なピースなのだ。

大切なのは、「極端な我慢」をすることではない。体にとって何が優しくて、何が負担になるのかを、あらかじめ「知っておくこと」である。 頭の片隅に、「肥甘濃味と生冷は、ちょっとお腹が疲れちゃうんだな」という知識の引き出しを持っておく。それだけで、私たちの行動は少しずつ変わる。

「昨日は友達と焼肉をガッツリ食べて、冷たいビールも飲んじゃったから、今日の昼は温かいおうどんにして、お腹を休めてあげよう」

そんな風に、食べた後の引き算などをして気を付ける。これだけでも、立派な養生の作戦だ。

胃腸は、私たちの命を支える健気な土台だ。たまには引き算をして休ませてあげること、そして週に何度かは、胃腸にとって負担の少ない、優しく温かい食事を意識して選んでみること。 自分自身の手で、からだの中の「土」をふかふかの良い状態に耕してあげれば、そこからは必ず、しっかりと根を張った力強い植物が育っていき、綺麗な花を咲かせることができるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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