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宇宙一わかりやすい科学の教科書

近代科学が作った「世界創世神話」《宇宙一わかりやすい科学の教科書》


記事:増田 明(READING LIFE公認ライター)
 
 
「はじめにカオスがあった。カオスからガイア(大地)、タルタロス(冥界)、エロス(愛)が生まれた」
ギリシャ神話では、世界はこのように始まったと伝えられています。
 
「はじめに天と地が創造された。神は “光あれ” と言われた。すると光があった。神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた」
こちらも有名な、旧約聖書の天地創造についての一文です。
 
昔から人類は様々な神話の中で、世界がどのように始まったのか語ってきました。紹介した二つの神話だけではありません。世界中のあらゆる民族が神話を持っていて、その神話の中で、世界の始まりが語られています。
 
逆に、神話以外では、世界の始まりについて語ることができなかった、とも言えます。この世界はいつからあって、どのように作られたのか。この大地はどこから現れたのか。その問いはあまりに途方もなく、現実的にわかるはずがありませんでした。
 
ところが、20世紀中頃から、宇宙についての研究が急速に進んでいきました。それによって、宇宙の始まりについてかなりの部分がわかるようになってきました。今日は科学によって明らかになった、科学的世界創世神話を紹介していきます。
 
 

はじめにエネルギーがあった


宇宙は、138億年前に起こった「ビッグバン」と呼ばれる、超高温の大爆発から始まりました。その温度は、少なくとも1000兆度以上あったと言われています。なんらかの原因で、ある一点にとてつもない高エネルギーが現れたのです。宇宙はその一点から、ものすごい勢いで膨張をはじめました。
 
ちょっと待ってよ! その高エネルギーはいったいどこからきたの?
 
そんな疑問が浮かぶでしょう。宇宙を開始させた、その高エネルギーはどこからきたのか? なぜそんな高エネルギーが突然現れたのか?
この謎は、実はまだよくわかっていません。いろいろな学説はあるのですが、決定的なものはまだありません。理論的には筋が通った学説はあります。しかし実証はほぼ不可能と言われています。宇宙が始まった本当の瞬間のことは、今の宇宙をどれだけ観測しても、よくわからないのです。
 
残念ですが、宇宙が始まった瞬間の話は置いておいて、宇宙が始まってからどのように進化していったかについて、話を続けましょう。
 
高エネルギーが突然現れたのはしかたないとして、じゃあそこからどうやって、宇宙に散らばるたくさんの星々ができていったのでしょうか? その星々の材料となる物質はどうやって生まれたのでしょうか?
 
まさか物質も突然現れたなんて言わないよね? エネルギーが突然現れたのは許すけど、物質も突然現れた、なんて許されないからね?
 
安心してください。そこは大丈夫です。エネルギーが現れたことさえ認めれば、その先はすべて科学的にきちんと明らかになっています。
 
宇宙が始まってすぐ、エネルギーから物質が生まれました。詳しく言うと、全ての物質の元になる「素粒子」が生まれました。エネルギーから「素粒子」が生まれる、と聞いてもピンとこないかもしれません。
現代の科学では、エネルギーと物質は、実は互いに変換可能なものだ、ということがわかっています。エネルギーが物質になったり、逆に物質がエネルギーになったりします。それが実際に実験で確認されています。
 
もう少し詳しく説明していきましょう。
現代の科学では、物質の元になる素粒子は、実は「波」のようなものである、ということがわかっています。
高いエネルギーによって、空間に波が引き起こされます。その波が素粒子であると言われています。
 

 
高いエネルギーで波が起こるという現象。イメージしやすい例をあげると、鉄などの金属を熱すると赤く光りだす、という現象があります。鉄は普段は光っていませんが、熱すると赤く光ります。これは熱のエネルギーによって、光という波が生み出されているわけです。
この例と似たような現象が、宇宙が始まったときに起きました。鉄を熱して光を出す現象とは、比べ物にならないほどの高いエネルギーが与えられ、空間に局所的な激しい波が起きて、それが素粒子になったのです。
 
 

素粒子と物質の関係


ここで少し、「物質」と「素粒子」の関係について説明しておきましょう。世界創世にとって、物質と素粒子の関係は、とても重要です。
 
この宇宙にある物質は全て、「原子」という小さな粒からできています。その原子は、内部に図のような構造があります。
 

 
中心に原子核という塊があって、その周りを電子が回っています。その原子核は、陽子と中性子という小さな粒からできています。
原子にはたくさんの種類があります。上の図はヘリウム原子で、陽子2個、中性子2個、電子2個からできています。この陽子、中性子、電子の数が変わると、別の原子になります。現在この宇宙には、103種類の原子があると言われています。それらは全て、陽子と中性子と電子からできていて、それぞれの数が違うだけです。この数の違いで、様々な原子ができ、物質ができているのです。
 
その原子核を作っている陽子と中性子は、さらに小さな「クォーク」という素粒子からできています。クォークには「アップクォーク」と「ダウンクォーク」の二種類があります。中性子は「ダウンクォーク」2つ、「アップクォーク」1つからできています。陽子は「アップクォーク」2つ、「ダウンクォーク」1つからできています。
 
今の説明では
 
原子 → 原子核 → 陽子+中性子 → クォーク
 
とスケールの大きなものから、だんだん小さなものへと分解していきました。宇宙の始まりでは、この逆方向の流れ、
 
クォーク → 陽子+中性子 → 原子核 → 原子
 
という、小さなものから大きなものへの融合が起きていったのです。
 
 

素粒子から原子ができるまで


 

 
宇宙が始まってから、100億分の1秒後、エネルギーからクォークが生まれました。このとき宇宙の温度は1000兆度ほどです。
先ほど説明したように、クォーク同士がくっつくと、陽子や中性子ができるのですが、あまりにも温度が高いため、クォーク同士がくっつくことができません。高速でバラバラに飛び回っている状態です。
一般的に、温度が高ければ高いほど、その中にあるものは高速で動き回ります。例えば、熱いお湯の中の水分子は、ぬるいお湯の水分子に比べて、高速で動いています。それと同じように、超高温の宇宙ではクォークが超高速で動き回っています。
 
宇宙が始まってから、10万分の1秒後、宇宙が膨張したため、エネルギーが薄まって、温度が1兆度くらいまで下がります。するとようやく、バラバラに飛び回っていたクォーク同士がくっつき始め、陽子、中性子が生まれます。
 
宇宙が始まってから1秒後、宇宙はさらに膨張し、温度は100億度以下まで下がります。すると陽子や中性子同士が互いにくっつき始めます。「原子核」の誕生です。ここまで宇宙が始まってからわずか1秒! 人間の時間間隔では一瞬ですが、この1秒間で科学的には実に様々な変化が起きているのです。
 
ここから一気に時間のスケールが変わってきます。
次の大きな変化が起きるのは、宇宙が始まって約1万年後のこと。それまでの宇宙では、原子核と電子がバラバラに飛び回っている状態でした。温度が高く、電子の飛び回るスピードが速いため、原子核が電子を捕まえようとしても、捕まえることができなかったからです。
 
1万年経つと、宇宙はだいぶ大きく膨らんで、温度も1万度以下に下がってきました。それでも人間の感覚ではだいぶ高温ですけどね。
温度が下がったことで、電子の飛び回るスピードが遅くなり、原子核が電子を捕まえ始めます。ここでようやく、今の宇宙の銀河や星を作っている、物質の材料になる「原子」が誕生したことになります。
 
宇宙が始まって28万年ほど経った頃、宇宙を飛び回っていた電子のほとんどが原子核に捕まえられ、ひとまずビッグバンによる原子の生成に、一区切りがつきます。現在の宇宙に存在する原子のほとんどは、このときまでに作られたものです。これ以降しばらくは、新しく原子が生まれることはありません。
 
これで太陽や、私達の住む地球を作る材料となる物質がそろい、後はそれらが星になるのを待つだけ……と思いきや、実はそうはいかないのです。
このときまでに作られた原子は、水素やヘリウム、リチウムなどのごく僅かな種類の原子だけです。これらの原子は、太陽や木星、土星などのような、ガスでできた星の材料にはなります。しかし、地球や火星、金星などのような、金属や岩石でできた硬い星の材料には、全然なりません。
このままでは地球が生まれることはできません。地球の材料となる金属や岩石の原子は、どのように生まれたのでしょうか?
 
地球の材料が生まれるまでには、まだまだ気の遠くなるような長い長い時間が必要だったのです。
 
 

地球の材料ができるまで


宇宙が始まってから、長い長い時間が過ぎました。数千万年ほど過ぎた頃、ついに宇宙で最初の星が誕生します。ビッグバンによって作られ、宇宙空間にばらまかれていた水素やヘリウムなどが、自分たちの重力によって、互いに少しづつ引き寄せられ、集まっていき、大きな塊をつくっていきました。
その大きな塊があるとき、明るく光り始めたのです。なぜ光り出したのでしょうか?
 
大量の原子が一箇所に集まったため、その塊の中心部は、強い重力によってギュウギュウに押しつぶされていました。その押しつぶすエネルギーで熱が発生し、塊の中心部は高温の炉のような状態になっていました。この炉の中で、原子核同士が、重力と熱のエネルギーによって、無理やりくっつけられていきました。これが「核融合」と呼ばれる現象です。
 
原子核同士が融合するのは、かなり異常な現象です。普通はそんなことは起こりません。なぜなら、原子核はプラスの電気を持っているため、近づけると互いに反発しあって決してくっつかないのです。「核融合」を起こすには、かなりの高温、高圧力で、電気の反発力に逆らって、原子核同士を押し付け、ぶつけ合わせる必要があります。星の中心ではそれが起こるのです。
長い宇宙の歴史の中でも、核融合は巨大な星の中心か、ビッグバン直後の超高温状態でしか起きません。核融合が起きると、とても大きなエネルギーが生まれます。それが光となって放出され、星が明るく光り出したのです。
 
核融合が起こると、エネルギーが生み出されるだけでなく、新しい種類の原子核が作られていきます。
 

 
ビッグバンで打ち止めになった原子の生成が、数千万年が過ぎてから、ようやく星の内部で再開されたのです。
星は数百万年~数十億年の間輝き続け、最後には寿命を終え大爆発を起こします。これが「超新星爆発」です。超新星爆発によって、星の中心で作られた新しい種類の原子が宇宙空間にばらまかれます。その中には地球を作る材料となる金属や岩石の元になる材料、また生物の体を作る元になる炭素などが含まれています。
 
宇宙で無数の星が生まれ、新しい物質を生み出し、一生を終えて爆発し、宇宙にばらまかれます。気の遠くなるような長い時間をかけて、それが繰り返されていきました。
そして今から46億年前、宇宙に漂うそれらたくさんの物質が集まり、太陽系ができ、地球が誕生しました。
 
 

近代科学が作った「世界創世神話」


今までの話を神話風にまとめてみると、
 
はじめにエネルギーがあった。エネルギーから素粒子が生まれた。素粒子から原子が生まれた。原子が集まり星が生まれ、新しい原子が生み出された。星が一生を終え、新しい原子が宇宙に散らばっていき、それが再び集まり地球が生まれ、大地が生まれた。
 
これが近代科学が長年の研究の末に作り上げた、世界創世神話と言えるかもしれません。
 
宇宙に浮かぶ星が、新しい星の元となる材料を生む。一生を終えた星が、宇宙を漂う星屑となり、長い時間をかけて、その星屑から我々の住む地球が作られていく。
 
このような近代科学の最先端にふれると、とても神秘的な雰囲気を感じることがあります。神話の創世記のような、神秘的で根源的な世界を感じることがあります。
 
人類にとって近代科学は、新しい神話のようなものなのかもしれません。
 
 
 

【参考文献】
「宇宙に終わりはあるのか」 吉田伸夫 講談社
「宇宙創成はじめの三分間」 S・ワインバーグ ダイヤモンド社
「宇宙の物質の起源」  佐賀大学工学系研究科物理学専攻

❏ライタープロフィール:増田 明
神奈川県横浜市出身。上智大学理工学部物理学科卒業。同大学院物理学専攻修士課程修了。同大学院電気電子工学専攻修士課程修了。
大手オフィス機器メーカでプリンタやプロジェクタの研究開発に従事。

父は数学者、母は理科教師という理系一家に生まれる。子供の頃から科学好きで、絵本代わりに図鑑を読んで育つ。
学生時代の塾講師アルバイトや、大学院時代の学生指導の経験から、難しい話をわかりやすく説明するスキルを身につける。そのスキルと豊富な科学知識を活かし、難しい科学ネタを誰にでもわかりやすく紹介する記事を得意とする。

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