おっさんが、旅先でおっさんを借りてみた その6 —ルモルトン博多— 《レンタル人間図鑑》
記事:射手座右聴き (天狼院公認ライター)
旅先で、ご当地おっさんを借りてみる。
旅先で、レンタカーやレンタサイクルを借りてみると、自由な旅を楽しむことができますね。そんな感覚で、おっさんを借りることができる世の中になりました。え? ちょっと意味わからない感じですか? 1時間1000円でおっさんを借りられるwebサービス「おっさんレンタル」のメンバーは都内近郊だけではありません。茨城、群馬、埼玉、静岡、名古屋、京都、大阪、そして、福岡まで広がっているのです。
そんな中、福岡に行く機会ができました。これは、ご当地おっさんを借りるチャンスではないだろうか。福岡のおっさんは、1人。その名もルモルトン博多さん。ルモルトンて何? プロフィールを読むと、こうあります。ルモルトンとは素晴らしいカルヴァドスのブランド名。だそうです。香りは甘いが、舐めると辛い! って感じです。ともあります。お酒が好きなのかな。味の表現も独特で、これは期待できそうです。さて、どんな味わいのレンタルになるのでしょうか。
電話は突然かかってきた
まずはサイトから申し込みをしてみました。
「はじめまして。4月の8日から10日の間に福岡に行きます。つきましては、屋台などの美味しいところを案内していただきたいのです。ご都合いかがでしょうか」
こんな文面をつけてみました。
ところがです。なかなか連絡がきません。福岡に行く日は1週間後。どうしよう。
もう一度、申し込んでみようか。そう思ったところに、見たこともない電話番号から電話が。
恐る恐る出てみると、少ししゃがれた渋い声が聞こえてきました。
「もしもし。おっさんレンタルのルモルトン博多です」
「あ、どうも」いきなりの電話に驚く私。
「レンタルを申し込まれた方ですよね?」
「そうです」
「4月の8日から10日の間に福岡にいらっしゃるんですよね」
「はい」
「9日だったら空くかもしれません」
「では、9日を考えておきます。あの」どうしようか悩んだ挙句、私は正体を明かすことにしました。
「はいなんでしょうか」
「おっさんレンタルをしているんですが」
「え? あー、そうなんですね。お名前は」
「射手座右聴き、でやっています」
「あー。射手座さんですね。聞いてますよ。聞いています。そうでしたか。どうですか?
東京の方は」
「聞いてるって、何を聞いているんですか。気になります」
「常連さんたちがよく来るんですよ。福岡に。なので、東京のおっさんの話はよく聞きます」
「そうだったんですね。うわ、どんな情報が入っているんだろう」
まさかの事態に動揺する私。
「最近のレンタルについても聞かせてください。ちらほら、ドタキャンなんかもあって」
少し声が曇る、ルモルトンさん。
「ドタキャンはありますね。残念ですが、まあ、気にしないようにしています」
そう。おっさんレンタルには、ドタキャンなどもあるのです。
たとえば当日、でかけようとした瞬間に、キャンセルのメールが入ることなんかも時々あります。
最初のうちは、ガクッときましたが、最近はもう気にならなくなりました。偶然空いた予定に感謝するようにしています。なにしろ、1時間1000円ですから。依頼される側も切り替えやすいのです。
あたりまえですが、同じレンタル仲間として共通の話題が多く、初めての気がしないほど、会話が
はずみました。
「で、射手座さんは、福岡はきたことあるんですか」
「はい。でも、あまり回っていないので、どこかオススメの場所に連れて行っていただきたいです。
屋台とか」
「あー、屋台。でも、まずはオススメのお店があるので、そこ行きましょう」
「はい。それで、あとひとつお願いがあって。今おっさんレンタルの記事を書いていまして、インタビューもさせてもらえばと思うのですが」
「ああ。いいですよ。まずは、ゆっくり飯でも食べましょう。近くなったら、メッセージします」
ルモルトンさんとの会話はこんな感じでおわりました。取材、OKなのだろうか。どうだろうか。
正直私も迷いました。普通にインタビューするのがよいのか。それとも、せっかくならば、
ご当地のおっさんと楽しく遊ぶ、という方がいいのではないか。でたとこ勝負にワクワクしてきました。
夜の博多に、黒いワゴン現る
それから1週間後、いよいよ4月の9日を迎えました。待ち合わせ場所は、18時に、
福岡駅のロータリー。向かっているとSMSがきました。
「黒のワゴンで、ナンバーは、○○○○です」
行ってみると、デザインのよい黒いワゴンが止まっています。
なるほど。この車か。経営者の方がよく使われる車種です。テンションがあがります。
「めちゃかっこいいですね」思わず、素で言ってしまいました。
「いやいや。そんなことはないですよ。最近、どうですか?」
ルモルトンさんは、気になっているようです。
「そうですね。新しい人が増えて、頑張ってるみたいです」
「射手座さんは、どのくらい依頼がくるんですか」
「私は、だいたい週1回から2回ですね」
「そうですか。どんな方が多いですか」
「主に相談ですかね」
あれ? 気づいたらインタビューされています。逆やん。どうしよう。ここは、素直に答えておこう。
それが礼儀というものかしれない。
「射手座さんのことは、何人かのユーザーさんから聞きましたよ」
「えー。びっくりです。福岡に来る方も多いのですね」
「そうなんですよ。東京でレンタルしたことのある方が、こちらに遊びにきた時に借りてくださって」
「なるほど。みなさん、どんなレンタルをされるんですか」
やった。質問する側になれた。こっそりインタビュー始めるぞ。
「そうですね。お茶したり、どこか案内したり。観光のアテンドですね」
「たしかに、知らない土地に来たときに、土地勘のあるおっさんが、案内してくれたらいいですね。
しかも、1時間1000円ですし」
「そうですね。僕、お酒が飲めないので車で移動できるので」
「まさか、この車でドライブですか。テンションあがりますね」
「そうですか」
「なるほど、そう言う時に他のおっさんの話もでるんですね」
「はい」
「そうでしたか。聞いていいですか。どんなおっさんの話を聞きましたか」
「Aさんとか。Bさんとか」
「すごい。私がオススメしている方々の名前がでてきて、嬉しいです」
と言いつつ、自分の話は怖くて聞けませんでした。
口コミは、速いんですね。東京でのレンタルの感想が福岡まで届くのですから。
なんとか、攻守交代
よし、このへんで、質問モードを強めてみよう。私は思いました。
「ルモルトンさん、レンタルをやってみて、いかがですか」
「やってよかったです」
「どんなところですか?」
「とにかくいろんな人に会えますし」
「何始めたんだ、とか言う人もいます。東京と違って、新しいものを受け入れにくい人もいるので。
でもね」
「でも?」
「面白いです。仕事にも活用できました」
「仕事に、ってどういうことですか」
「レンタルのサイトに載っているのを見て、飛び込みで営業に来た人がいまして」
「飛び込みで営業?」
「テレビを見て、おっさんレンタルやりたいです、って飛び込みで来た人がいるんですよ。私は、本名や会社名もおっさんレンタルのサイトに載せているのでで、それを見てきたそうです。
一緒に何かやりたい、って来てくれて、仕事が広がったんです」
そういえば、ルモルトンさんは、会社を2つ経営されています。
「そんなこともあるんですね」
「こちらのテレビに出るとすごい反響があります。なにしろ、九州のおっさんレンタルは、私1人ですから」
「観光案内のほかは、どんな依頼があるのですか」
「そうですね。恋愛相談は多いですね。人に言えないようなものが」
「親しい人に言ったら、頭ごなしに否定されるようなものですか」
「そうです。そういう相談は多いです。あ、着きました。この駐車場に入ります」
ルモルトンさんに連れてきてもらったのは、なんと、カウンターのお寿司やさん。
「ここは、もう何年も行きつけなんです。お任せでいいですか」
明らかにおまかせすべきなタイプのお店です。
お茶とビールで乾杯し、お話を再開します。
1000円で、そこまで教えてくれるのか!
「ここは、検索ではでてこなそうなお店ですね。ありがとうございます。話戻っちゃいますけど、
恋愛以外は、どんなレンタルがあるのですか」
「起業の相談は多いです」
「実は今、私も会社にしようか考えていて、いろいろお話を聞きたいと思っています」
「そうですか。どんな会社ですか」
「会社といっても、今フリーでやっている広告の仕事を会社化するだけなんです」
「そうでしたね。広告系でしたね。実は私も最初はデザインとかマスコミ志望だったんです」
「そうなんですか」
「某テレビ局の最終面接まで残っていたんですが」
「なかなか残れないですよね」
「東京で数週間就活しているうちに、遊びが楽しくてつい、面接を受け損ねました」
「えー。それは何といっていいやら」
「そのあと、建築デザイナーになりました」
「デザインの勉強をされたんですか」
「というよりも、建築会社で数年働きまして、そこで一流の建築デザイナーさんたちとご一緒してるうちに興味を持って」
「それで弟子入り、みたいな感じですか」
「いや、たまたま、お店をやることになって、それで、デザインを始めました」
「いきなり、デビューですか」
「そうですね、デザインを志した、というより、お店を持ったので、デザインを始めたと言う感じです」
「なかなか常識破りですね。でも、そこからどうやって広がったんですか」
「お店に来たお客さんが、『この内装、いいね、誰がやったの』と聞いてくれたら、『はい、私がやりました』と」
「お客さんも驚きますよね」
「そうですね。で、『今度、店を出すので、うちも頼めますか』と言われることも多くなったんです」
「実戦で、仕事を増やしていったというか、自分のお店がデザインのショールームになっていたというか、内装のセンスと、ビジネスのセンスと両方あるというか」
「そのあと、北九州にバーをだしました。単価8000円のバーです」
「なかなかの高級店ですね」
「周りからは、呆れられましたけど。数百万かけて世界中から、美味しいワインを取り寄せました」
「あ、あの、それって、さらに呆れられませんか」
「でも、どこからか聞きつけて、お客さんがいらしてくれるんですよ」
「どういうことですか」
「小倉に競馬場があるの、ご存知ですか」
「はい。知っています」
「競馬のシーズンになると、全国からいろんな方が来ます。で、面白い店がある、ということになって、いらしてくれるんです」
「なるほど」
「東京で単価8000円のバーは、探せばあります。でも、地方だったら目立ちます。品揃えも印象に残ります。思わぬ人とも出会えるんですよ」
「地の利を活かしながら、なかなか会えない人とも知り合えるってことですね。いらっしゃってる方の名前を出せないのが残念ですが、そこはプライベートでもありますし、深くは聞かずにおきますね」
「はい。その後に、一度東京に出店もしてみましたが、やはり競争は激しいですし、東京にいる時間が増えて、福岡にコミットできる時間が減ってしまいまして、また、福岡に拠点を戻して、今に至ります」
「いろんな経験をされてるんですね。福岡ではどんな状況ですか」
「今は、内装だけでなく、外装、そして、不動産の取引時点からワンストップでできるようにしています」
「それはビジネスの視点が大きく変わりますね」
「はい。一気に広がりました」
「きっかけはなんですか」
「数年前に全然違う仕事をしていた人と知り合いまして。たまたま新しい仕事を探すと言うので、うちに入ってもらったんです。そしたら、店舗デザインだけでなく、その前の不動産から関わったらいいんじゃないかと提案してくれて、会社が大きく変わりました」
「新しい視点だったんですね」
「はい。それ以外にも仕事の仕方が変わりました」
「どんなことですか?」
「社長はあまりデザインしないでください、と言われました」
「と言いますと?」
「私の仕事は年間数本、あとはスタッフに任せる案件とわけるようになりました」
「それも仕事が広がりそうですね」
「はい。その2つで大きく広がりました」
「事業やる上で、大切にしていることとか、教えてもらっていいいですか」
「新しいことをやるとき、誰かが、いいねって言うことはだいたいうまくいきません。みんなが、やめろ、無理だ、といったことは、成功します。私の経験上ですけど」
「すごいですね。でも、起業する人へのアドバイスとしては、なかなかハードルが高いですね」
「そうですね。起業相談としては、こちらから聞くことはひとつです」
「どんなことですか」
「どのくらいのリスクをとれて、どのくらい利益を出そうと思っているか、それがはっきりしているかということです」
「なんだか、レンタルの話というより、ビジネススクールのような話が聞けました。いいんですか。
こんなに貴重なお話を聞かせてもらって」
「いえいえ。なんでもどうぞ」
話に夢中になり、お寿司の写真は、ウニしかとっていません。
屋台にいってる場合じゃなかった
「次の店、本当に屋台でいいんですか?」
「博多といえば、屋台かなあと思うのですが」
「地元の人は、ほとんど行きません。今は外国の方が多いです」
行ってみると、たしかに、外国語が飛び交っていました。
「なるほどです。もしよかったら、ルモルトンさんのお店、見せていただいて良いですか?」
「いいですよ」
階段を上がると、そこは木目調の一枚板を敷いたオーセンティックなバー。正面には障子があり、
その奥にお酒のボトルのシルエットが見えます。そう。障子を開けると、お酒が並んだ棚がでてくるのです。間接照明にも、小窓にも、和と洋が織り混ざった空間。ルモルトンさん自らデザインしたバーだそうです。また、おしゃれすぎて、つい取材を忘れてしまいそうです。
「最後にお聞きしたいのですが、ルモルトンさんにとってレンタルってなんですか?」
「仕事では会えない、いろいろな人に会えるよい機会ですね。仕事以外のことでどれだけ人の役に立てるか、試してみたかった、というのがありました」
「今日、ほんとに1時間1000円でいいんですか? これだけいろいろ話してもらって。とてもために
なりました。1時間10000円払ってもいいかなと思うくらいです。これ、記事にしたいので、写真撮らせてもらっていいですか」
「あー、写真ですか? ネットにある写真使ってください。結構写真がでていますので」
えええええ。意気投合できたと思っていたのですが、最後にまさかの展開。
もしや、事前のリサーチ不足を指摘されたのか。少し焦る私。
つかみどころのない方でした。
あなたもいつか、見知らぬ土地でおっさんを借りてみよう、と言う日がくるかも
しれません。いや、来ないかもしれません。
❏レンタル人間データ No.6
ルモルトン博多
本業は建築デザイナーです。
デザイン建築、不動産、オーセンティックバー複数。
2つの会社を経営しておりますが更に会社を増やそうと浅ましさの万華鏡。
マイホームからお店のコーディネート、飲食店や美容室などのプロデュース業務は得意分野です。
拠点は博多ですが、九州全域から全国行きます。
ゴルフと車、ファッションを愛し、高校野球を愛し、料理をつくり、酒がやたら詳しいおっさん。でも飲めません。でも酒場での過ごし方やマナーは心得ています。
12歳と10歳の子供がいます。
毎日、バンコクへ移住することばかり考えております。
楽しいことばかりではないけど楽しくする方法は知ってます。
幸せってなんだろう。そんな迷える子羊、および狼までお気軽にどうぞどうぞ。
❏ライタープロフィール
射手座右聴き (天狼院公認ライター)
東京生まれ静岡育ち。バツイチ独身。
大学卒業後、広告会社でCM制作に携わる。40代半ばで、フリーのクリエイティブディレクターに。退職時のキャリア相談をきっかけに、中高年男性の人生転換期に大きな関心を持つ。本業の合間に、1時間1000円で自分を貸し出す「おっさんレンタル」に登録。4年で300人ほどの相談や依頼を受ける。同じ時期に、某有名WEBライターのイベントでのDJをきっかけにWEBライティングに興味を持ち、天狼院書店ライティングゼミの門を叩く。「人生100年時代の折り返し地点をどう生きるか」 「普通のおっさんが、世間から疎まれずに生きていくにはどうするか」 をメインテーマに楽しく元気の出るライティングを志す。天狼院公認ライター。
メディア出演:スマステーション(2015年),スーパーJチャンネル, BBCラジオ(2016年)におっさんレンタルメンバー
として出演
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