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ミニシアターのある街、東京

敷居は低く、門戸は広くあれ。既存の枠組みを独自の仕掛けで打ち破る革新的名画座《ミニシアターのある街、東京》


記事:遠藤淳史(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
名画座と呼ばれる映画館を訪れたことはあるだろうか?
1本分の料金で2本の作品を観賞できる映画館。もちろん1本だけ観て帰るのもOK。どっぷり映画の世界に浸れる名画座は、シネマコンプレックス(※)の台頭の影響で、今では全国的に目にする機会が少ない。これから館数も減っていくのではないかと予想される。だがそんな心配など余所に、独自のスタイルと上映プログラムで観客を魅了してやまない名画座がある。
 
※ シネマコンプレックス:同一の施設に複数のスクリーンがある映画館。シネコンとも呼ばれる。(Wikipediaより)
 
JR山手線 目黒駅から徒歩3分の好立地にある「目黒シネマ」だ。
 

 
「来年で誕生から65年経ちますけど、とりあえず100年は続けたいよねってスタッフにも言ってます(笑)」
 
そう語るのは支配人である宮久保伸夫さん。(以下、宮久保)
およそ20年前に前任から支配人を受け継いだ。数ある映画館の中でも、特に強い個性を放つ目黒シネマの魅力を探るべくお話を伺った。
 
 
——今日はよろしくお願いします。まず、この20年を振り返っていかがですか?
 
宮久保:とにかく早かったですね……! 目黒シネマは1〜2週間で作品が切り替わるので、常に先のことで頭がいっぱいです。作品に適した演出方法で、且つ手作りでプロデュースしているので毎日てんやわんやです(笑)
 
——上映作品はどのくらい前に決めていらっしゃるんですか?
 
宮久保:基本的には2ヶ月前くらいには決めておきたいんですけど作品によってムラがあります。ギリギリで上映が決まったり、また決まっても情報解禁がまだできなかったりもするので。作品ごとに定められたルールから逆算してお客さんが楽しめる演出を考えています。
 
——演出と言えば、目黒シネマはスタッフでコスプレを行なったり手作りの展示物を製作していらっしゃいますよね。Instagramで過去の写真も拝見しました。こういった取り組みはいつ頃から行なっているんでしょうか?
 
宮久保:コスプレを初めて行なったのは2011年5月の『キック・アス』の時です。東日本大震災の直後で日本全体に自粛ムードが広がっていたんですけど、映画館に映画を観に来てくださるお客様は映画を楽しみにしている、元気を求めて映画館に来ている、そう信じて思いっきりコスプレをしようと決めました。
 

『キック・アス』のヒットガールに扮するスタッフ

 
——その時のお客さんの反応って覚えてますか?
 
宮久保:反応はとても良く、みなさま想像以上に喜んでくださいました。その時、お客様だけでなくスタッフもみんな楽しそうだったんですよ。映画館は非現実的空間を味わう場所だと思うので面白いことを小さな映画館いっぱいに散りばめたいと思いました。
 

『マッドマックス 怒りのデスロード』

 

『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

 

『オペラ座の怪人』

 
 
——どれもクオリティが高いですよね……。ずっと続けているのは特別な思いがあるのでしょうか?
 
宮久保楽しいことを続けていきたい、シンプルにそう思っているだけです。コスプレもこれらの写真のように徹底的に突き詰めて追求しています。
展示物も作り続けていくうちに技術が向上し、個人的最高峰が『シェイプ・オブ・ウォーター』の魚人を等身大でリアルに再現したことです。
 

紙粘土で作られた魚人。公式Instagramでは製作過程もアップされている

 
 
——細かいところまで精巧に作られていてすごい……
 
宮久保:これは新聞でも取り上げられ、お客様もたくさん写真を撮って喜んでくださいました。そういった一つひとつの思い出が、私にひらめきや力を与え、次のヒントをくれます。そして私と目黒シネマの思い出が同時にお客様の思い出にも繋がっていくのだと思っています。
 
 

組み合わせは無限。2本立ての面白さ


取材日の上映作品は『グリーンブック』と『女王陛下のお気に入り』のアカデミー賞受賞作2本立て

 
宮久保:前任は単館系の作品をベースにプログラムを組んでいたんですけど、僕のスタンスとしてはバラエティ豊かな作品を上映したいんですよね。映画通の方が喜ぶ作品をやりたいけど、ご近所の方が楽しく見てもらえるような娯楽作もやりたい。敷居をそんなに高くしたくないんです。そういう気持ちがあるのでジャンル問わず色んなものを幅広くやろうとは昔から思ってますね。というのも僕が若い頃、2本立てですごく感動したんですよ。
 
——感動したというのは?
 
宮久保:映画好きの友人に誘われて新宿の名画座に行ったんです。そこで上映していた2本立てがブルース・ウィルス主演の『ダイ・ハード』とトム・ハンクス主演の『ビッグ』というファンタジー映画だったんですね。当時確かにこの2作品はヒットしていたんですが「組み合わせるには合わないんじゃないか?」と思ったんですよ。
 
——ジャンルも全然違いますもんね。アクションとファンタジーで。
 
宮久保:けれど、『ダイハード』は本当に面白くてあっというまに終わって、その後10分ほどの休憩の後に始まった『ビッグ』はしっとりと笑って泣けるファンタジー。大興奮した後にすごく感動したんです。僕はその振り幅にやられちゃったんですよね (笑) その時の記憶がいつもどこかに引っ掛かっていて、一見相反するような2本立ても魅力的だなって思うようになりました。主演が同じ2本、監督が同じ2本も上映しますけど、記憶がどこかで混ざってしまう可能性もあると思うんです。
 
——確かにそうかもしれないですね……。
 
宮久保:『ダイハード』と『ビッグ』だと混ざることなく、それぞれの作品が面白かったという記憶があります。だからジャンルを寄せても寄せなくても、それぞれの面白さがあるという意味も含めてバラエティ豊かに上映することは心掛けていますね。
 
—–-2本立てって2本に絞る分、無限の可能性があると思いました。
 
宮久保:でもお客様って目がすごく肥えていらっしゃいます (笑) だから中途半端な組み合わせは中々できないのでいつも「どんな2本立てで来るんだい?」と聞かれているような気がしながら、他の名画座さんとなるべく被らないように、それぞれが個性的な映画館として見られるようにしたいなとはずっと思ってます。
 

 後日には『ボヘミアン・ラプソディ』と『グレイテスト・ショーマン』という超豪華2本立てが控えていた

 
 

個性を生み出す、仕事との向き合い方


——宮久保さんは過去にインタビューで「映画館ではなく、映画を商品としたお店を作る感覚でやっている」と語っていたのがすごく印象に残っています。どれだけ小さくても世界観が確立されていればやっぱりお客さんは魅力を感じて集まってくると、今もお話を聞いていて思いました。映画館に限らず、独自のカラーや個性を打ち出すのに欠かせないことって何だと思いますか?
 
宮久保創造力を忘れないことですね。僕たちってとにかく固定概念に囚われて、映画館だからとか、そう言うものさしで働いている気がしてならないんですよ。もっと自由な発想で、突拍子もないことかもしれないけれど、この目黒の地下にある100席の空間を面白くする何かを見つければいいと思います。頭で考える想像力というよりも、創りうる創造です。
 

 
——その創造力が宮久保さんだけでなくスタッフにもしっかり受け継がれているからこそ、愛される映画館になっていると感じます。スタッフの方と一緒に働く中で意識していることはあったりしますか?
 
宮久保:一つだけベースにあることは、例え半年でも5年でも、目黒シネマで貴重な人生の時間を使って働いたことを大切にしてもらいたいんですよね。せっかく大勢の中から選ばれて一緒に働くことになったので、精一杯ここで働くことを楽しんで、自分は目黒シネマで働いたんだということを歳を重ねてからも胸を張っていられるような環境作りと教育はしていけたらいいなと思っています。
 
——楽しむことって何より大切なことですよね。スタッフの皆さんからも何より自分たちが楽しんでやろうという気概を感じます。
 
宮久保:でもこれはよく言ってるんですけど、楽しい仕事、楽しい職場にはしないで欲しいんですよね。
 
——というと?
 
宮久保:考え方としては”仕事が”楽しい、”職場”が楽しい、みたいになって欲しいんです。楽しさが先に立っちゃうと、例えばおしゃべりに花が咲いたり、仕事がおざなりになってしまうかもしれないですよね。”仕事が”楽しいと、それは働くのが楽しいってことにつながっていきます。なので掃除とか作り物や接客、僕たちがここにきて目黒シネマを盛り上げる仕事を本質的に楽しめる人になって欲しいと思っています。
 

 
 

人生を狂わすような映画と出会って欲しい


——目黒シネマでこれから仕掛けていきたいことなどはありますか?
 
宮久保:抽象的にしか言えないんですけど、映画をベースに芸術性の高い空間にしたいと思っています。例えば、奥に本棚がありますよね?
 
—-ありましたね!
 

ロビー奥に設置されている本棚。

映画に関する書籍がズラリと並び、待ち時間に自由に読むことができる

 
宮久保:ああいう映画の本を置くことで図書館の要素であったり、展示物をこだわることで美術館の要素を持ったりして、映画をきっかけにして創造を刺激するような空間を作りたいんです。
 

『AKIRA』上映の際には館内の壁一面をAKIRA一色に。

奥には手作りの金田バイクも

 
——宮久保さんは芸術ってどういうものだと考えていますか?
 
宮久保”出会っちゃった”と思えるものだと思います。ふと気になり始めるんですよね。その作家の過去や他の作品が知りたいとか。その一発をきっかけに世界が広がっていく。そういうものですね。
 
——すごくしっくりきました。気がついたらのめり込んでいた、みたいなものですね。
 
宮久保:だから入り口は不純でいいんですよ。あまり興味ないけどデートだから行こうかなとか、暇だからとか行こうかなとか。“とにかく観る”ということです。音楽もコンサートで聞くとCDとは違った衝撃があるように、映画も映画館で観ると心や魂に入ってくるものが違うんです。嘘だとは分かっているけど、本当に生きている、起こっているみたいに感じさせてくれるんですよね。
 
——分かります。嘘を本当だといい意味で勘違いできるのが映画の一つの魅力だと思います。
 
宮久保:嫌なことがあって映画館に来たら、少しだけ忘れて、映画を終わって街を歩くと清々しい気持ちになれたり、前向きに人生を捉えることができたりする。そういうことを提供できたりする場を作りたいですね。
 
——最後に、読者に向けて何かメッセージをいただけますか?
 
宮久保:映画館で映画を観続けていれば、必ず、人生がいい意味で狂うような衝撃的な一本に必ず出会います。だから映画を映画館で見続けて欲しいです。そのお手伝いとして目黒シネマは存在します。2本立てということは1枚のチケットで2回チャンスがあるということです(笑) お客様が楽しめる仕掛けをたくさん用意してますので、ぜひ目黒までお越しください!
 

 
 

目黒シネマ
住所:東京都品川区上大崎2-24-1 目黒西口ビルB1
TEL:03-3491-2557
席数:100席
公式HP
公式Instagram
公式Twitter

◽︎遠藤淳史(READING LIFE編集部公認ライター)
1994年兵庫県出身。関西学院大学社会学部卒。
都内でエンジニアとして働く傍ら、天狼院書店でライティングを学ぶ。週末に映画館に入り浸る内に、単なる趣味だった映画が人生において欠かせない存在に。生涯の一本を常に探している。Netflix大好き人間。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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