これからのオタクの話をしよう

最終回 これからももっと、オタクの話をしよう〜オタクコンテンツの未来〜《これからのオタクの話をしよう》


2021/08/30/公開
記事:黒崎良英(READING LIFE公認ライター)
 
 
2020年、2021年は混沌の年として、人々の記憶に残されるであろう。
言わずとしれた新型コロナウイルスの感染拡大により、人類は生命の危険にまでさらされ、行動を大きく制限させられた。
 
もちろん我々オタクも同様である。
声優やアニソン歌手のライブは中止、劇場版アニメの上映は延期、そしてなにより、大型イベントであるコミックマーケットの史上初めての中止となったのだ。
多くの制限を強いられ、精神的にも参ってしまった人も多いことだろう。
 
一方で、そんな閉塞した事態を切り裂くように、テレビ・劇場版ともに絶大な人気を誇ったアニメが出てきた。
 
そう、吾峠呼世晴原作の『鬼滅の刃』である。
 
もともと漫画で人気をじわりじわりと勝ち取ってきた本作。アニメ化するとその人気はさらに広まり、極めつけの劇場版は大成功を収めた。
 
2020年12月末までの73日間で、動員数は2404万人、興行収入はついに324億円を超え、日本の歴代映画でトップに君臨していた『千と千尋の神隠し』の316億円を超えた。実に、19年ぶりに国内映画最高興行収入を塗り替えたわけである。さらに2021年、動員数・興行収入ともに天井知らずに増えていき、“300億の男”と呼ばれた登場キャラクター、煉獄杏寿郎も、最終的には“400億の男”となった。
 
この快挙には1オタクとして大いに喜びたいところだが、これで単純にオタク層が増えるか、となるとまた別の話である。
これを機に他のアニメを見てみようという人が増えるか、となるのも別の話である。
無論可能性という点ではゼロではない。しかし、私たちは、この大人気コンテンツが、もはやオタクのコンテンツではないことを身にしみて理解している。
 
この連載の第1回目で強調したことだが、このオタクコンテンツは多くの人々に享受されたことにより、“オタクのコンテンツ”ではなくなった。
“万人のコンテンツ”、“普通のエンタメコンテンツ”になったのである。
 
したがって、これがオタクへの寛容化にプラスとして働くわけではなく、また、オタクへの見方が変わることを意味するわけでもない。
 
だが一方で、このコロナ禍でも相変わらず、街中にはオタクコンテンツがあふれている。
 
ラッピング(=アニメイラストで彩られた)された交通機関は走っているし、むしろ乗車客が集中しないように、運行期間を延長したところもあった。
 
客の集中化を防ぐ目的で、期間を延長するキャンペーンが多くあったのも、コロナ禍の特徴であったかと思う。
 
コンビニエンスストアでも、菓子やカップ麺を買えばアニメイラストファイルをもらえるキャンペーンも、相変わらず健在だ。
アニメなどとコラボレーションした商品そのものも売っていて、パッケージがオリジナルイラストになったりしている。
 
オタクのそこら辺の界隈は、いわゆる“通常運転”(=他の要因に関係なくオタクコンテンツを展開・享受すること)である。
 
この状況にあって、いや、こんな状況だからこそ、我々オタクはそのコンテンツに救われている。
そして、それがオタクという垣根を越えて、人々に喜びと希望を与えていることを知る。
 
最終回である今回は、2021年8月現在、注目すべきオタクコンテンツを見ながら、オタクと非オタクの将来について考えてみたい。
 
テレビ版・劇場版と大人気になった『鬼滅の刃』だが、この配信元は「アニプレックス」という会社である。
そのコンテンツ展開の巧みさが注目され、度々名前を聞くことがあると思う。
 
映画配信だけでなく、ゲーム配信やグッズ、フィギュアの作成など、アニメなどのコンテンツを次々と形にしていく企業である。
 
『鬼滅の刃』をはじめ、ゲームアプリ業界では常にトップを走るコンテンツ、『Fate/Grand Order』(通称FGO:本掲載第4回参照)を展開していることでも有名である。
 
このFGOを筆頭に、Fateシリーズの様々なコンテンツにも携わり、2020年8月に上映(本来は3月頃の予定だったが、感染症拡大のためこの時期になった)された『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」Ⅲ.spring song』は、110万人以上を動員し、三部作にふさわしい大盛況の幕引きとなった。
 
同じく2020年12月より上映された『Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット』にも注目が集まっている。FGOのストーリーの第6章を映画化したもので、前後編からなる。
2021年5月には後編も上映。そして同時に、FGOの最終章、『終局特異点 冠位時間神殿ソロモン』の映画化が告知され、同年7月に公開された。
ゲーム本編ではまだまだストーリーは続いており、映像化に期待が高まる。
 
これだけでなく、ディズニーキャラクターのヴィラン(=悪役)をイケメンキャラクター化した『ディズニー ツイステッドワンダーランド』や、中国産の劇場版アニメとして異例の人気を博している『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』など、今の“旬”のオタクコンテンツを次々と展開している。
 
今後も「アニプレックス」が展開するコンテンツに注目したい。
 
コロナ禍で行動が制限された人々は、その行動範囲をネットの世界へと広げることになった。
 
そんな中で人気を博したのは、『あつまれ どうぶつの森』通称「あつ森」である。いわゆる「巣ごもり消費」と相まって、発売3週目で300万本の売り上げを誇った。
プレイヤーが無人島を自分好みに開拓するというゲームだが、その自由度とともに、ネットを通して他者の島に遊びに行ける、というシステムが好評となった。そして、これには企業などの大手機関も参加し、外出がままならない日々の世界を、大いに広げてくれた。
 
特に興味深いのは、これに地方自治体が目をつけたことだ。
筆者の故郷山梨県では、例年春に県を上げての一大イベント「信玄公祭り」を行なっている。郷土の英雄、武田信玄を偲んで、毎年豪壮な武者行列が、城下である甲府市中に繰り出すのが祭りのメインイベントとなる。
 
だが、このコロナ禍では開催するわけにもいかず、2020年の祭りは中止となり、次年度に持ち越された。
 
そんな中、「あつ森」の世界に現れたのが、「かいのくにしんげん島」である。
地元の山梨大学の学生と観光課のスタッフで作られたらしい。
甲府駅前の信玄公像や、果樹大国を表す桃畑・葡萄畑など、細部に至るまでこだわり抜いた、山梨の島が完成した。
同県民としても、多くの来島を期待したいところである。
 
2月末からネットを一色に染め上げたのは、Cygamesが送る新星『うま娘プリティダービー』である。こちらはなんと、競走馬の擬人化だ。
スペシャルウィーク、サイレンススズカ、オグリキャップなどの歴戦の名馬が可憐な少女となり、レースのトップを目指して、文字通りひた走る。
しかし、この開発には一筋縄とはいかず、実に5年の苦節を乗り越えてのゲーム化となった。
最初は、ゲーム勝利後のライブが主体であったようだが、アニメや漫画などの手応えを感じて、純粋に彼女たちがレースに挑む、いわゆる「スポ根」ものとして再誕。プレイヤーはトレーナーとなって、彼女を頂点へと導く、というストーリーだ。
実際の名勝負を元にしてあるだけに、競馬の歴史を知る人にも刺さる内容で、某動画投稿サイトには、アニメのシーンに実際のレースの実況を当てはめてみたものも上がった。
著作権的に厳しい面があるものの、このヒットを受けて、馬主たちの協力も増えていき、登場するキャラクター、「うま娘」のバラエティも徐々に増えていくことだろう。
 
重ね重ねになるが、これらオタクコンテンツの隆盛は、しかし、それがそのままオタク人口の増加や増加を後押しするものとはならない。
 
なぜか。
そこには、先入観とかステレオタイプとか、オタクにまつわる固定概念が影響していると思われる。
 
オタクはキモい、オタクはおかしい、オタクは変(態)だ、などなど……そして何かしら事件が起こると、
 
「ほら、だから“オタク”は……」
 
などど、前掲載でも言及した不毛な争いへと発展していく。
 
私たちはこの、先入観だとか、固定概念だとか、形のないそんなものに振り回され続けてきた。
 
例えば“普通”という言葉。みな、個別の人間である以上“普通”などはあり得ない。しかし、みながこぞってこの概念上の理想像に憧れる。概念上の存在であるにも関わらず、我々は“普通”が何かを知っている。もちろん説明はできない。しかし、確かに“普通”を我々は知っているのである。
 
そしてその概念上の尺に合わせて、“普通”ではないものを、我々は排除してきた。
 
差別、偏見、ときには紛争を以て、人類は“普通”ではないものを忌避してきた。
 
だが実際はどうだろう?
現代にあって、我々は他者との違いを認められるようになってきた。
無論すべてだとは言わない。
今なお差別や偏見、そして紛争は健在だ。
 
しかし、これを読んでいる賢明な読者ならお分かりのはずだ。
 
人種の別、性差の別、身体の別、思想の別……そんなものは手を取り合う際の障壁でも何でもないということを。
 
なるほど、オタクに関する想いやイメージは様々である。実際“変わり者”と言えそうな人々も多いだろう。
現実の人との対話が苦手な人もいるかもしれない。
賑やかなことが苦手な人もいるかもしれない。
 
だが、何のことはない。同じ人間である。いや、「おもしろいものを多く知っている」人間である。「おもしろいものを愛する」人間である。
 
私はこの点こそを強調したい。
オタク云々、一般人云々、人間が云々などは、あくまで語ることが可能な事象にすぎない。
 
この連載を通して言いたいことは、「オタクコンテンツはおもしろい」ということなのである。
みなが夢中になる有名アニメ映画や漫画だけではない。さらに多くの、おもしろいコンテンツがこの世にはあるのである。
 
確かにアニメ映画やそれに伴うアニソン歌手の存在、そして原作漫画などは、オタクとは言われない人々にも受容され、楽しまれるようになった。だが、いわゆる深夜アニメや、他のアニソン歌手、そして原作漫画など、まだまだ多くの人に知られていない、それこそ「オタクっぽい」エンタメコンテンツが山のように存在するのだ。
 
これを知らないのは実にもったいない。
 
見る人のイメージがどうのこうのではなく、おもしろいコンテンツはおもしろいのである。
イメージや先入観にとらわれ、これらを見逃すことは、実にもったいないと思うのだ。
 
改めて言おう。私は、オタクの未来の話をしたい。これから来たるべき、オタクと非オタクが手を取り合う、建設的な未来の話だ。
 
そこには、「オタク」などという言葉のない、平等な世界が広がっているだろう。なぜなら、すべての人々がアニメや漫画やゲームを、何の先入観もない、「おもしろいコンテンツ」とみなしているからだ。
 
そう、オタクコンテンツ自体が、万人のコンテンツになる未来を、私は夢想してやまない。
 
そのために私たちができることは何か。
 
何のことはない。全力でそれらのコンテンツを楽しむことである。
その楽しむ姿を万人に示し、これらのコンテンツがおもしろいものである、と一人でも多くの人に見せつけることである。
 
いや、私は楽しんでいるけれど、「オタク」ではない?
結構。もはやそんな呼称は意味を持たない。
好きだけれどそこまで多くは知らない?
大いに結構。これから出会う楽しみが増えましたね。
 
私たち、今は「オタク」と呼ばれる熱心な愛好者は、その姿勢を歓迎しよう。
時ににわかファンを嫌う傾向にもあるが、そこはオタク側の改善点でもあると思う。
伸ばした手に、我々は同じく手を差し伸べたい。
 
まだまだ語り尽くせぬ多くの魅力が、オタクコンテンツにはある、そして日々あらたなコンテンツが、次々と生まれてくるのだ。ともに楽しもうではないか。
 
さあ、これからももっと、オタクの話をしよう。
 
 
 
 

今回のコンテンツ一覧
・『鬼滅の刃』(漫画・アニメ・映画等/原作:吾峠呼世晴)
・『千と千尋の神隠し』(映画/監督:宮崎駿)
・『Fate/Ground Order』
(ゲーム・アニメ・映画等/原作:TYPE-MOON 配給:アニプレックス)
・『Fate/stay night [Heaven’s Feel]』(映画・ゲーム・漫画等/原作:TYPE-MOON)
・『ツイステッドワンダーランド』
(ゲーム/製作:ウォルト・ディズニー・ジャパン アニプレックス)
・『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』
(映画:/監督:MTJJ 日本配給:チームジョイ アニプレックス)
・『あつまれ どうぶつの森』(ゲーム/開発・販売:任天堂)
・『ウマ娘 プリティダービー』(ゲーム・アニメ・漫画/開発・販売:Cygames)

 

❏ライタープロフィール
黒崎良英(READING LIFE編集部公認ライター)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨の高校に勤務している。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。デジタルとアナログの融合を図るデジタル好きなアナログ人間。趣味は広く浅くで多岐にわたる。

□ライターズプロフィール [名前](READING LIFE編集部ライターズ倶楽部) [プロフィール]

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