文章の書き方で悩んだときにポケットから取り出す、一冊の文庫本サイズのビジネス書《週刊READING LIFE Vol.24「ビジネス書FANATIC!」》
記事:加藤智康(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「あー、うまく書けない」
いつも文章を書き始めるときに、ついぼやいてしまう。
みんなどうやって文章を書いているのだろうか。文章の構成を練ってから書いているのだろうか。それとも、思うままに情熱で書いているのだろうか。そこが知りたい。
わたしは、最初にストーリーをきちんと作ってから書こうと思って、エクセルに話の骨格を書いてから書き始めることがある。しかし、書き始めると違うことを書いてしまう。いや、書きたくなってしまうのだ。結局骨格は意味のないものになってしまう。
これがいいことなのか、悪いことなのかわからない。漫画家も小説家も、勝手に主人公が話を作っていってしまうというようなことを言う事を聞いたことがある。
わたしの場合は、3000文字ぐらいしか書いていないのに、勝手に話が変わっていってしまったり、書き直しているうちに迷宮に迷ったりすることがある。どうしてだろうか?
書き始めてからも悩みは尽きない。長い修飾語を避けようとしたり、短い文章を作ろうとして書いたりしているうちに、書きたいことがうまく書けずに唸りたくなる。
「あー、うまく書けない。書きたいことがうまく書けないんだよ」
思わず中学生の子供に愚痴ることも多々ある。そんなわたしを、またかという感じの目で見て逃げていく。自分で言うのも気が引けるが、かなり八つ当たりをするからだ。
極めつけは、使っているワードというマイクロソフトのソフトが、ご丁寧に文章を簡易的に校正して、間違いを指摘してくる。それを直しているうちに、やっぱり頭の中にあることと、文章にしていることがずれてくる。読み返せば読み返すほどおかしい感じがしてくる。
ワードのご指摘は正しいのだが、腹が立つぐらいだ。機能をオフにすればいいのかもしれない。しかし、間違いは間違いで受け入れるべきだという自分もいるので、自問自答しながら文章を書いている。そして、ブツブツつぶやいてしまう。
「日本語は難しい。雑誌と小説とか、なんであんなにうまく表現できるんだよ」
読むのと書くのとでは大変な違いである。小説を読んで書ける気になってから書く時もあるのだが、余計にうまく書けない自分がわかるようでストレスを感じる。自分の中に正しい日本語と、書く技術がないから、いつも文章が変な感じに思えてくるのだろうか。
そんな時、中学生の国語の宿題を子供と一緒に考える機会があった。「それ」とか、「あれ」という指示語が何を指すのを答えたり、主人公の気持ちを数文字で答えたりする問題だ。思ったより難しかった。それに、基礎的レベルの問題を考えると、自分自身の国語に不安が出てきた。きっと日本語の作文能力がないから、うまく書けないのだと思った。
そんな深い悩みを解決するため、いろいろインターネットを駆使して探したビジネス書が「日本語の作文技術」(本多勝一著)という本だ。
この本に行きつくまでは、「論理トレーニング」(野矢 茂樹著)や「考える技術・書く技術」(山崎 康司著)など複数の本を読んでみた。それぞれの本はためにはなったと思うが、ゴールにはならなかったのだろう。
他の本より「日本語の作文技術」を気に入っている点はいくつかある。本が小さいということも大きい。持ち運びにも便利だ。なにより、お堅いタイトルでシンプルなところが素敵である。ノウハウ本のようにも感じられず、まじめな雰囲気がにじみ出ている。通勤列車、カフェで本を開いても恥ずかしくない。むしろ自慢げにカバンから取り出してもいい。ブックカバーもない方がいいし、使い古した感じを出すために、つくえの上を滑らせて擦り傷をつけるのもいいだろう。わたしは、カバンの中に常に入れるようにしている。勝手に使い古した感じがでてくるからだ。
それに、1982年に初版が発行されている歴史も素敵だ。昔の日本語の方が正しいという先入観もあり、信頼性も高い本だと感じることができる。さらに今も増刷され続けているし、2015年には新版となっているところも売れ続けている実績を感じる。わたしの持っている本は43刷である。まさに、伝説のビジネス書ではないだろうか。紙質も若干黄色みを帯びていて、時代を表すかのように古めかしさを感じる。紙が歴史を語るかのようで、触るだけでうっとりする。本好きにはたまらない感覚ではないだろうか。
さらに、目次を見るのも楽しい。「助詞の使い方」から「漢字と仮名の心理」、「無神経な文書」と面白そうな文言が並ぶ。これだけで読みたくなる。心憎い演出である。第10章には、「書き出しをどうするか」、「現行の長さと密度」という書き方の課題解決方法もある。まさに、最初考えていた疑問を解決してくれそうな目次が並んでいるのである。
一番重要な内容については、とても実践的なものだ。豊富な例文と、読みにくい文章を分析している内容がわかりやすい。実際に世の中にある文章を尊重しながらも、わかりにくいと明言するところに凄さを感じる。そこまで自信を持ちたいものだ。
ビジネス書でも永く読み続けられる本には、理由があると思う。わたしだけではなく、多くの人にとっても読む理由付けをしてくれている本なのだろう。日本語で作文をするのであれば、一度は目を通しておきたい本であることは間違いない。
わたしは、この本を定期的に見返すことにしている。内容が濃すぎて1度読んだだけでは理解できないところもあるし、忘れてしまうところもある。何度も同じ内容を見返すことで、本当に使える知識になると思う。何度読んでも新しい発見があり、味が出てくる。「日本語の作文技術」はスルメのようなものかもしれない。
文庫本サイズで価格も高くない「日本語の作文技術」は読んで損するより、読まない方の損が大きいと思う。歴史がありスルメのように味がでてくるこの本をわたしは常に持ち歩き、時間があるたびに読み返していきたい。そして、自信をもって文章を書いていきたい。
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