週刊READING LIFE vol.24

この本に出会い、私は池上彰さんを目指すことにした《週刊READING LIFE Vol.24「ビジネス書FANATIC!」》


記事:山田THX将治(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

天狼院の様な、本好きが集まる所に出ると、私は少々気後れしてしまう。何故なら、自信をもって本好きと言うほど本を読んではいないからだ。天狼院に絶えず出入りしているので、本が嫌いなわけではない。一般から見れば、十分に読んでいる方だとも思う。しかし、天狼院の仲間と比べると、特段、読書家だと自信が持てないのだ。
 
私は一応、大学へ行っていた経験が有るので、多少なりとも教養が有る方だとは思っている。しかも、若くは無い為、何かと物事を聞かれることが多い。始末が悪いことに、知らないと正直に告白出来ない。丁度、落語に出て来る町の長老や長屋の大家が、知ったかぶりをしてしまうのに似ている。そして私も、長老や大家と同じく、恥をかいてきている。
質問に答える教養の源泉は、本によるものが多い。しかし私は、その読書の傾向に偏りがあるのか、本からの教養で全部を網羅出来ていない。そこで頼りになるのが、テレビだ。テレビからの情報は、タイムリーなことや早くインプットが可能なので、本を読むより先に頼ってしまうことが多い。特に、私の世代は他に類を見ないテレビっ子世代だ。それは多分、現代よりも情報が少なくまた、テレビ自体も面白かった時代を経験しているからだろう。
ただし、テレビを見過ぎてよく叱られた世代でもあり、テレビが下世話でどちらかというと、情報ヒエラルキーの下位に位置すると考えがちなところもある。だから少々、読書家に対する劣等感が生じているのだ。
 
そんなテレビっ子の私だが、特に何でも見ている訳ではない。それに、テレビを見ている時間が限られるので、見たい番組のほとんどすべてをHDにレコーディングしている。一度録画した番組を、CMカットしてDVDに焼き、それを2倍速で見る様にしている。そうすると、約十時間のテレビ番組を、4時間でその情報のエキスをインプットすることが出来るのだ。
レコーディングせずリアルタイムで見るのは、ニュースとスポーツ中継ぐらいなものだ。
 
私が特に好んで見る番組に、元NHKのニュースキャスター池上彰さんの番組がある。池上さんというと最近は、どこか生真面目過ぎるとか面白みがないとか、果ては上から目線であるとか言われている。しかし私は、池上さんの番組を見るにつけ、彼がNHK時代に出ていた子供向けのニュース解説番組が、その基礎に有るのだなぁと感じ入っている。
それ程までに、池上さんの解説は丁寧で分かりやすく、普段はなかなか触れることのない難しい専門用語を、誰にでも理解出来るように噛み砕いてくれるのだ。
それは、専門知識の無い一般の人々が、何を欲し何を理解しようとしているのかを具現化しているように見えるからだ。
その上、専門的な用語や知識を、優しい上から目線で伝えてくれる池上彰さんは、誰からも受け入れやすい様にも見受けられるのだ。
 
自分自身を鑑みると、映画やスポーツ、そして専門的に学んできた経済関係のことになると、大概の質問に瞬時に答えることが出来る。しかし、熱を帯びて専門的になり過ぎ、周りの人に伝わらないばかりか、引かれてしまうこともまま有ったりする。当然の様に、言いたいことが伝わらないし、質問に対しても的確な答えを返せてはいない感じがもどかしい限りだ。
ここは一つ、池上彰さんを見習い、もう少し周りの人たちに近付きたいと思う次第だ。
 
昨年のことだが、天狼院のビジネス系イベントで、ある本に出会った。頂いたサインの日付から、天狼院STYLE for BIZが開店してすぐのイベントだったことが分かる。
その本とは、大江英樹さんが書かれた『お金の常識を知らないまま社会人になってしまった人へ』(PHP研究所)という少々長いタイトルの本である。
著者の大江さんは、38年間もの長きにわたり証券会社にお勤めになったエリートだ。勤務の大半を個人向け資産運用で過ごされたらしい。定年後独立され現在は、行動経済学・資産運用の専門家として、企業年金や定年後の生活の知識といったことに関し講演活動を行っている。マスメディアでは、BS12の投資専門番組等の深い所で、よくお見受けすることが有る。
大江さんは経歴からすると、かなり難しい文言でつづる難解な本を出されそうだが『お金の常識を知らないまま社会人になってしまった人へ』は、題名の通り経済に無頓着に暮らしている人々への啓蒙本のスタイルになっている。
 
世に、事業を始める時に読むべき本や、お金儲けの本、はたまたお金儲けの本や節約の指南書は数多く存在する。そのほとんどが、大学の経済系学部の講義内容と極似している。すなわち難解なのだ。中には、難解でないとどこかヒエラルキーの下位に沈むと思っているかのような本も多い。実際、誰も知らない様な専門用語が羅列していて、私の様な者には何とか理解出来ても、最後まで読み切るのに苦労する方が多そうなものだ。ところがこの『お金の常識を知らないまま社会人になってしまった人へ』は、他の書籍みたいな手っ取り早さは示していない。むしろ、そうした事を学びたい方は、別の書籍を読むように推している。そして、大抵の他の本は、ほとんど役に立たないと最初に言い切っている。
大した自信なのだが、実際に読み進めていくと他の指南書的書籍は、この本ほどスラスラ読み進むことが難しく、往々にして読み切れずその結果、役に立たないことが多そうだ。大江さんの言っていることは、なんだか信用出来そうだ。
 
私にとって『お金の常識を知らないまま社会人になってしまった人へ』の内容は、既にそのほとんどが知識として頭の中に入っている。インプットは完了していると言い切っていいだろう。しかし、この本の様に分かりやすくアウトプット出来はしない。
著者の大江さんは、この本の中で本来なら大学の専門課程を取っていない人でも、高校までの勉強での知識や、その後社会へ出てからの教養で、本来ならば備わっていなければならない事柄ばかりだ。しかし、記されている事柄のほとんどが、今までに聞いてはいたが覚えていない・気にせずに済んだことばかりだ。
例えば、税金(特に所得税や消費税)や年金等の社会保障は、自らが意識的に納めなくとも、サラリーパーソンなら勝手に自動的に天引きされる。そこに落とし穴が有り、会社という集団から離れ(定年退職)初めて、社会において自分のお金の知識や常識が、全く知らないままであることに気が付くということだ。要は、自分では自主的に何も出来ないことに気付くのだ。よく、公的年金の受給忘れということが話題となるが、年金は自分で申告しなければ受給出来ない。また毎年、確定申告も必要となってくる。
また、クレジットカード使用時の注意、そのメリットとデメリットを示していたり、住宅は賃貸と分譲のどちらを選ぶかといった、誰にでも起こる現象を具体的な礼を示してくれている。
この様に、この『お金の常識を知らないまま社会人になってしまった人へ』は、社会のどこにでも起こる問題を、実に分かりやすく解説してくれている。
 
この本を読んで私なりに感じたことだが、これからは、周りの人に尋ねられる経済やお金に関する事柄を、こういう風に教えて上げられれば皆さんの役に立ち喜ばれることが分かった。
そう、池上彰さんが、社会で起こる色々な事を、誰にでもわかるように解説してくれる様に。これからは、大江英樹さんを見習い、もっと物事を分かりやすく考え表現するように努めようと考えた。
 
大江英樹著『お金の常識を知らないまま社会人になってしまった人へ』。
実に読みやすく、為になる本です。誰もが毎日使っていて、一生離れることが出来ない『お金』に対する考え方が、一変する本です。
 
是非一度、手に取り人生のお役に立ててもらいたい本です。

 
 

❏ライタープロフィール
山田THX将治( 山田 将治 (Shoji Thx Yamada)

1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数15,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり

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2019-03-18 | Posted in 週刊READING LIFE vol.24

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