生後間もない娘が、コミュニケーションの取り方を教えてくれた《週刊READING LIFE Vol.265 コミュニケーションの鍵》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2024/6/10/公開
記事:青山 一樹(READING LIFE編集部ライティングX)
コミュニケーションの取り方に悩んでいる人は多いであろう。私も、その一人であった。営業職で、話すのが仕事であるにもかかわらず、得意先・上司・同僚との人付き合いで悩み、そして疲れ果てていた時があった。しかし、そんな私にコミュニケーションの取り方を教えてくれる人ができた。それは、生後間もない娘である。
今年1月、待望の第一子が産まれた。それに伴い、私は3カ月間の育児休業を取得し、家事・育児に専念した。いや、妻の仕事を分け与えてもらった、という表現の方が正しいだろう。実際、我が家の家事・育児の主担当は妻であり、私は副担当だった。
赤ちゃんのようなコミュニケーションを取りづらい人に、今まで私は出会ったことがなかった。なぜ、泣いているのか分からない。ミルクも与えて、オムツも交換しているのに、泣き止まない。困った私は、ある時、AIの助けを借りた。
赤ちゃんの泣き声から、その理由を解析するAIアプリをiPhoneにインストールした。そして、娘の泣き声を録音し、泣く理由をAIに判断してもらった。しかし、AIですら、娘が泣く理由を探し当てることができない。ミルクを充分に飲んだ後、泣き止まない娘の声を分析してもらった。そして「お腹が空いて泣いている可能性が70%です」という結果を、AIが出した時もあった。人間のみならずAIですら、何故赤ちゃんが泣いているのか、という問いに正解を導き出せないのである。
『赤ちゃんは、泣くことが仕事』という名言がある。これは、赤ちゃんが泣くこと以外のコミュニケーション手段を知らない、ことを指している。育児を続けていくうちに、泣き声に少しずつ違いのあることが分かった時もあった。例えば、ミルクを欲しいときの泣き声が甲高く、オムツが不快のときの泣き声は低音、眠たいけど眠れないときの泣き声は弱々しい、といった具合に。
しかし、娘の成長速度は予想以上に早く、泣き声の声色が変わり、直ぐに違いが分からなくなった。毎日のように、娘の泣き声から予測して、ミルク・オムツ・抱っこのいずれかを行っていた。一日何時間、それらを毎日続けていると、心身ともに疲れてしまい、育児から逃げ出したい日も出てきた。そのような時は、育児を妻に任せて、私は家事に注力した。もちろん、その逆の日もあった。
そして、嵐のような3ヶ月間の育児休業が終わり、私は職場へ復帰した。4月2日のことだ。私が勤務する会社は、1月から新年度がスタートする。3ヶ月ほど遅れて、私の今年度の仕事がスタートした。しかも、私は、今年1月1日付で異動したため、新しい職場で仕事を再開した。
「慣れない同僚たちとのコミュニケーションって、疲れないだろうか……」という心配事が、私の脳裏に浮かんできた。しかし、その心配は杞憂に終わった。職場復帰して2ヶ月経過した今でも、コミュニケーション疲れが出ていない。
昨年までの慣れ親しんだ職場でのコミュニケーションは、悩むことが多かった。誰ともコミュニケーションを取りたくないほど、疲れていた日もあった。一方、慣れていない職場でのコミュニケーションは、悩みや疲れを全く感じなかった。私は、育児という経験を経て、精神的に逞しくなったのだろうか? いや、そうではない。
今の職場では、コミュニケーションの取り方で悩むほど、上司や同僚のことを知らない。だから、「周りとコミュニケーションが、上手くいっていないのでは……」と悩むことは無い。そもそも、まともにコミュニケーションを取っていないのだから、悩みや疲れを感じることもない。
しかし、前の職場では1年、2年と同じ釜の飯を食う上司・同僚いた。お互いのことをよく分かっていたため、コミュニケーションに少しでも齟齬が発生すると、「さっきは言い過ぎたかな」、「最近、会話が少ないけど嫌われていないかな」と心配になり、精神的に疲れてしまった。
そこで、私は一つの結論に達した。「相手と距離を置けば、コミュニケーションで悩まない・疲れない」である。つまり、私たちは相手との距離を縮めることが上手すぎる。そのため、必要以上に相手との距離が近くなり、コミュニケーションの取り方で悩み、疲れるのだ。
私の育児を例に挙げると。待望の第一子が産まれたため、必要以上に娘との距離を縮めてしまった。そして、娘の唯一のコミュニケーションツールである泣き声に、私は過敏に反応し、一日中、自分が娘の相手をしなければならない、と思い込んだ。しかし、育児は上手くいかず、娘は泣き止まなかった。その結果、育児疲れを来してしまったのだ。
二人、三人の子どもを育てたことのある先輩パパ・ママたちの話を聞くと「二人目、三人目なんかは、少しくらい泣いていても放っておいたよ。一人目も、そうすればよかった」と平気で言う。自分の子どもであっても、距離を縮めすぎると、疲れてしまうのだ。
そう考えれば、会社の上司・同僚という、いわば赤の他人との距離を縮めすぎてしまうと、育児疲れ以上の職場疲れを起こしてしまうことも納得できる。ただでさえ、会社の研修で『傾聴のスキル』、『腹落ち感のある説明スキル』、『建設的なフィードバックスキル』といったコミュニケーションに関する研修が溢れており、ただでされコミュニケーション疲れを来している身に、「職場で実践せよ!」と更なる圧力をかけられる。
そのようなコミュニケーションスキルを磨く研修が、全く意味の無いものとは思わない。むしろ、「この人との距離感は自分にとっては最高に居心地が良い」と思える相手なら抜群の効果を発揮する内容である。逆に、距離を縮めすぎて、息苦しいく思える関係性の相手であれば、研修効果は発揮されない。
では、どうすれば、相手と距離を置き、自分にとって居心地の良い距離感を、改めて作り出すことができるだろうか? それは、礼儀正しくなることである。例えば、呼び捨てで読んでいた相手を、○○さんと、さん付けで呼ぶ。ため口で話していた相手に、敬語を使って話す。などである。
礼儀は、相手と距離を縮めるツールとしても利用できるが、距離を縮め過ぎた相手を突き放すツールとしても使うことができる。礼儀は「これ以上、自分のテリトリーに入って来ないで!」というバリア機能も持っているのである。
相手との距離が遠くなれば、コミュニケーションが上手くいかなくても、悩むことは無い。さらにコミュニケーションを取っていて疲れることがない。私が今の職場で、よく知らない同僚たちとのコミュニケーションの取り方で、悩んだり、疲れたりすることが無いのと同様に。
そう考えると、コミュニケーションの取り方で、どのような視点が重要なのだろうか? 私は、自分ファーストに考えることが大切だと思う。コミュニケーションの取り方と言われると、どうしても相手を主役に考えて話さなければならない、相手ファーストと思ってしまう。よって、ついつい必要以上に相手との距離を縮めてしまい、その結果、自分を苦しめてしまう。
そうならないように、まずは自分のこと第一に考えてコミュニケーションを、取ればいいのではないか。この人と、これ以上距離を縮めてしまうと、自分が悩み・疲れてしまう。そのように考えてしまう相手には、礼儀正しくし、適切な距離感を保ってもらう。自分のテリトリーに入ってくるのを丁重にお断りする。そして、自分にとって居心地のより距離に居てもらう。相手を喜ばせるより、自分を守る道具として、コミュニケーションを利用すればいい。
職場の上司や同僚との関係は、長くて3年くらいだ。一生続くものでは無い。実際、7月から私以外の9名のメンバーのうち、3名が入れ替わることが分かった。その3名とは、わずか3ヶ月間の関係だ。働き方にも多様性が求められている昨今、一つの会社、一つの職場で、何年間も一緒に働き続けることなど、不可能に近いのではないだろうか。
しかし、娘との関係性は一生続くことになる。コミュニケーションの取り方で、悩むことや疲れることも出てくるであろう。しかし、育児や子育てを放棄しないよう、悩み過ぎと疲れ過ぎだけは避けようと思う。そのために、娘と距離を置くことを怖がらないようにする。
娘の教育に、礼儀正しい言葉の使い方を取り入れれば、娘との距離が近くなり過ぎてしまった際、距離を置くことができる。さらに、娘も綺麗な言葉を使えるようになるではないか。
□ライターズプロフィール
青山 一樹(READING LIFE編集部ライティングX)
三重県生まれ東京都在住
大学を卒業して20年以上、医療業界に従事する
2023年4月人生を変えるライティングゼミ受講
2023年10月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に加入。
タロット占いで「最も向いている職業は作家」と鑑定され、その気になる
47歳で第一子の父親になり、男性育児記を広めるべく、ライティングスキルを磨き中
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