週刊READING LIFE vol.270

埋蔵量を増やす技術《週刊READING LIFE Vol.270 未来の技術》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2024/7/22/公開
記事:山田THX将治(天狼院・ライティングX READING LIFE公認ライター)
 
 
高齢の者にとって、現代こそが未来だ。
何故なら、1970年の『大阪万博(EXPO’70)』で、リニアモーターカーの模型や、‘元祖’携帯電話の展示を見せられたからだ。この、大阪万博のテーマこそが、“人類の進歩と調和”だった。
 
当時、小学生に過ぎなかった私は、自分が大人に為る未来は、科学が凄く進み、もっと住みよく便利な社会に為っているものだと信じたものだった。
 
そんな視点からすると現代は、余り進歩しておらず、どこか遅れた社会に見えて仕舞うのも事実だ。
何せ、新幹線は55年前より速くは為っているものの、未だにリニアモーターカーには為ってないからだ。携帯電話だって、便利な通信手段には為っているものの、まさか、詐欺の手段として使われるなんて、考えもしなかったからだ。
 
そう。
当時の未来は、もっと先の世界を指し示していたのだ。
 
こうでも考えないと、1970年の大人達は、無責任な事ばかり私達に伝えて来たことに為って仕舞うのだ。
 
 
同じ様な事柄で、思い当たる節が有る。
 
 
『ジャイアンツ(原題・GIANT)』という映画を御存じだろうか。
ジョージ・スティーブンス監督の手により1956年に製作された、叙事詩的スペクタル映画だ。
古い映画ファンには、たった3本の出演作を残し、24歳の若さで天に召されたジャームス・ディーン最後の映画として記憶されていると思う。
 
『ジャイアンツ』の中で、最も印象に残るシーン。
低い身分にめげず努力し、遂に石油を掘り当てた若者(ディーン)が、噴き出る原油にまみれ真っ黒に為りながら、歓喜の雄叫びを上げるシーンが印象に残る。
 
大阪万博開催の2年後、無事中学生に為っていた私は『ジャイアンツ』のリバイバル上映で観ながら、
 
『アメリカにとって、石油は特別な資源なのかも』
 
と、感じていた。
 
 
私が丁度、中学受験の為、社会科の参考書で覚えていた統計がある。
それは、石油産出量の世界ランキングだ。
当時の国別石油産出量は、‘一位・アメリカ合衆国’‘二位・ソビエト連邦’‘三位・ベネズエラ’だった。
しかしその一方で、当時の石油埋蔵量(当時)ランキングは、‘一位・サウジアラビア’‘二位・イラク’‘三位・アラブ首長国連合’だった。
 
それよりもっと記憶に残っているのは、地球上の石油埋蔵量が、後30年程と予想されていたことだ。
この数値は、私にとって驚きというよりショックだった。何故なら、私は幼い時から自動車が大好きだったからだ。
 
『早く、大人に為りたい』
 
何故なら、
 
『大人に為らないと、ジェームス・ディーンみたいに恰好良く自動車を運転出来ない』
 
と、思っていたからだ。
 
それより何より、後30年しか石油が掘れないということは、私は20年程しか自動車の運転が出来ないということに為って仕舞うからだった。
 
『もし、自動車を運転することが出来なかったら、大人に為っても面白くないジャン』
 
とも、考えていた。
“後30年”という切迫感が、重く圧し掛かっていた。
 
その後の歴史を辿ってみれば、石油ショック前のことだったし、アメリカで自動車の排気ガス規制法(マスキー法)が可決されたばかりの時期だった。
要するに、‘省エネ’や‘エコロジー’の観点が存在しない時代だったのだ。石油を始めとする化石燃料を、使い放題の時代だった。
 
勿論当時から、“石油の埋蔵量は後30年”の前には、
 
『このまま、人類が石油を使い続けると』
 
の、注意書きが付いて居た。
 
ところが、50年以上も前のことだ。
現代より、地球上の全GDPは全然低かった筈だ。
だいたい、当時の総人口は約35億人(現在は70億人超)と言われていた時代だ。
それに、中国が未だ閉鎖状態で、市中の人々(中国の)は皆、自転車を移動手段としていた時代だった。
どう多く見積もっても、当時の石油使用量は、現代の半分以下だったと思われる。
 
それを踏まえての“後30年”だ。中学生の私でなくとも、心配はした筈だ。
 
 
当時の大人達も、別に手をこまねいているばかりでは無かった。
特に、石油ショック(1973年)以降は、石油、特にガソリンを使わないことが奨励された。何と、ガソリンスタンドが、国の指導に依り日曜日に閉められたのだ。要するに、遊び(レジャー)では、ガソリンと使ってくれるな、ということだった。
年中無休・24時間営業のセルフ方式スタンドが一般的となった現代からすれば、別次元の世界に為っていたのだ。
 
その後、マスキー法対応の自動車も開発され、自動車の燃費も格段に良く為った。
自動車だけでなく、日本中に省エネが徹底され、日本のエネルギー、特に石油の消費は、経済成長に対して然程増加しなかった。
 
これは、世界規模の視点でも同じことが言える。
半世紀前より人口が二倍に為っても、化石燃料の消費が倍増したとは言い切れないのだ。
 
中学生だった私の切迫感は、少し和らいでいた。
その上、英国沖合の‘北海油田’を始めとする新しい油田が発見されたこともあったし。
 
 
余り自動車を使用されない方は、もしかして、
 
『ガソリンが枯渇したら、電気自動車(EV)に乗ればいいのに』
 
と、御考えに為るかも知れない。
しかし、車好きからすると、通常のガソリン車とEVは、同じ自動車でも全く異質なものと言わざるを得ない。
例えて言えばその差は、紙の本とデジタル書籍の差の10倍、フイルムカメラとデジタルカメラの差の100倍と言ったところだろう。
手間暇の掛かり具合の差と、背徳感の差が出て仕舞うのだ。
 
要するに、面白さが格段に違うのだ。
車好きにとっては、迷惑この上ないエンジン音や、異臭でしかない排気ガスの臭いが、極上の快感なのだ。
 
 
1970年代、“後30年”と言われていた石油は、今日でも潤沢に産出されている。
自動車が運転出来なくなるのではと恐れていた私は、今でも毎日自動車を動かすことが出来ている。
 
気が付くと、石油の埋蔵量はずっと、“後30年”と言われ続けている。
この半世紀の間。
ずっと。
 
21世紀も20年以上経った現在の統計で石油生産量は、‘一位アメリカ’‘二位ロシア’‘三位サウジアラビア’と為っている。
埋蔵量だって今では、世界一がアメリカなのだ。
 
これはどういうことだろう。
先ず、石油自体の生産量が増えたことが有る。
既存の各油田が、枯渇せずに原油を産出し続けている。極少量だが、日本でも新潟や秋田の油田が、生産量を倍増させているのだ。勿論、微々たる量では有るが。
 
それにもう一つ、アメリカを中心に“シェール・オイル”の生産が爆増して居るのだ。
“シェール・オイル”とは、地中の奥深いシェール層に埋蔵されている石油を掘り出し技術が開発されたのだ。
しかもこの、“シェール・オイル”の埋蔵量は、アメリカが世界で一番多いと言われているのだ。
 
なので現代では、石油の生産量も埋蔵量も、アメリカが他国を抑えて一位に君臨して居るのだ。
もしかしたら今でも、『ジャイアンツ』のジェームス・ディーンが、全米各地で生まれているかもしれないのだ。
 
その結果、石油の埋蔵量は、以前から言われていた“後30年”を上回りだしているのだ。
一説には、“後80年以上”とも言われているのだ。
 
これなら、既に老人の仲間入りをした私は、自動車を運転出来なくなる日が来ることを、恐れなくとも済みそうだ。
石油が枯渇を恐れるよりも、自動車免許証の返納を迫られる方を恐れた方が良さそうなのだ。
 
 
石油埋蔵量を劇的に増やす結果と為った、“シェール・オイル”の掘削技術。
 
石油の枯渇を恐れていた半世紀以上前に中学生だった私にとって、これこそが‘進歩’して‘調和’した未来の技術だったのだ。
 
 
多分一生、大好きな自動車の運転が出来ると安心した私は、ほんの少しだけアクセルを強く踏み込むのだった。
 
ほんの少し、安心して。
 
勿論、未来の技術に感謝して。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田THX将治(天狼院・ライティングX所属 READING LIFE公認ライター)

1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数17,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックの想い出を伝えて好評を頂いた『2020に伝えたい1964』を連載
続けて、1970年の大阪万国博覧会の想い出を綴る『2025〈関西万博〉に伝えたい1970〈大阪万博〉』を連載
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する
更に、“天狼院・解放区”制度の下、『天狼院・落語部』の発展形である『書店落語』席亭を務めている
天狼院メディアグランプリ38th~41stSeason四連覇達成 46stSeason Champion

 
 

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院カフェSHIBUYA

〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00


■天狼院書店「湘南天狼院」

〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸二丁目18-17
ENOTOKI 2F
TEL:04-6652-7387
営業時間:平日10:00~18:00(LO17:30)/土日祝10:00~19:00(LO18:30)


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「名古屋天狼院」

〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
 Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00



2024-07-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.270

関連記事