週刊READING LIFE vol.270

松竹梅では、いつも竹を選ぶ私が、後悔した選択《週刊READING LIFE Vol.270 未来の技術》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2024/7/22/公開
記事:青山 一樹(READING LIFE編集部ライターズX)
 
 
うな重で、松・竹・梅の選択肢がある時、あなたは、どれを選ぶだろうか?私は、いつも「竹」を選ぶことにしている。自分でお金を払う時、松は値段が高すぎるし、梅は誰かにケチ臭いと思われないだろうか、と考える。誰かにご馳走してもらう時は、松は厚かましいと思わるのではないか、梅は遠慮していると思われるのではないか、と勘繰ってしまう。よって、可もなく不可もなく、という理由で竹を選択する。
 
しかも、竹は、売る側にとっても一番利益が出る商品である。自分の財布と世間体を守ることができ、お店にも好影響を与える。そのような理由で、うなぎ屋さんに限らず、松・竹・梅の価格設定があるお店では、迷わず竹を選んでいた。
 
しかし、その選び方で後悔したことが、一回だけある。それは、虫歯治療だ。私が通っている歯医者さんは、虫歯ですら積極的に治療の選択肢を提案してくる。歯を削った後、例えば、保険診療ではパラジウムという銀の被せ物で、削った個所を覆う。一方、自費診療ではセラミックという陶器で、削った個所を覆う。さて、貴方は、どちらを選ぶか? という質問をされる。
 
しかも、「保険診療は、安いですが古い治療方針です。自費診療は、将来的には保険診療に組み込まれますが、今の段階では保険が効かないため、お値段がかかります。いわば、今の保険診療で認められている技術を取り込むか、未来の技術を取り込むかの違いです。さて、どうされますか?」という自費診療に誘導する言い回しを使ってくる。
 
それぞれの値段を聞くと、保険診療のパラジウムという銀の被せ物は3,000円である。自由診療のセラミックは2種類あり1つ目が24,000円、2つ目が60,000円だった。私は、松竹梅のうち、どれを選ぶかを迫られた。
 
まず、パラジウムとセラミックの大きな違いは表面の滑らかさである。パラジウムは表面が比較的粗く、セラミックの方は比較的滑らかである。滑らかさだけが違うのであれば、保険診療を選択すれば良いのでは、と思うかもしれない。
 
しかし、長期的な観点に立つと、この滑らかさの違いが、非常に大きな差を生む、と説明を受けた。なぜなら、大人の口の中には、300〜700種類の細菌が生息しており、よく歯を磨く人で1,000〜2,000億個、あまり磨かない人で4,000〜6,000億個、ほとんど磨かない人で1兆個の細菌が住みついている。
 
実は、この細菌の数は、お尻の細菌の数と大差が無いらしい。よって、どんなに歯を磨いて、清潔に保とうとしても、口の中の湿度は約100%、温度は約36℃と、細菌にとっては繁殖しやすい環境であり、お尻と同じくらい汚れているのである。
 
このような状況下で、表面にデコボコが多いパラジウムを使うと、どうしても細菌が繁殖してしまい、結果として虫歯の再発リスクが高まる。一方で、デコボコが少ないセラミックであれば、磨き残しが少なくなり、虫歯の再発リスクを軽減できる。
 
この説明の途中で、私は梅である保険診療を選択肢から外した。銀の被せ物は、見た目が悪いだけでなく、虫歯になるリスクも高い。わざわざ、そのような材質を使って、自分の歯を治療するメリットが見当たらない。
 
次の課題は、2種類のセラミックから、どちらを選択するかである。竹に該当する24,000円のセラミックは、自分の歯の色に合わせることができる。さらに、パラジウムと比べると、虫歯の再発リスクが低いのが特徴であった。
 
松に該当する60,000円のセラミックは、自分の歯の色に合わせることができるのみならず、虫歯の再発リスクが限りなくゼロに近い、というのが特徴である。竹に比べると一世代若く、最新技術が用いられている。
 
松を選ぶべきか、竹を選ぶべきか。私の出した答えは、やはり「竹」であった。今回は竹のセラミックで虫歯治療をし、数年後に虫歯になれば、松を導入すればいい。その頃には、この未来の技術が、保険診療の仲間入りをしており、数千円程度の治療費で済むのではないか。いつものように、可もなく不可もなく、自分の財布も世間体も守ることができる選択だ。
 
そう考えた私は、24,000円のセラミックを、虫歯治療の選択肢とした。そして、削った歯を埋め合わせるために、竹に該当するセラミックを、口の中で留まらせることにした。
 
無事に虫歯治療が終わった後、私は様々な歯医者さんのWebページを閲覧した。今回の治療で、他の歯医者さんは、どのような自由診療を行っているのだろうか、と興味が湧いたからだ。
 
その中で、ある歯科医の書いた記事が、目に留まった。「1本の歯の治療回数には限度があります」と。しかも、「およそ5回までです」とも書いてある。
 
その理由は、虫歯の治療では、虫歯になった歯を削り取る。 しかも、削った歯は元に戻らない。そのため、同じ歯で虫歯治療を繰り返すと、歯が小さくなる一方である。歯を削りすぎると抜けたり、割れたりするリスクが高くなるので、治療が難しくなってしまう。だから、治療回数に限度が出来てしまう。
 
竹に該当するセラミックを入れた私の歯は、今回3回目の虫歯治療となってしまった。1度目は小学生の時、2回目は20代の時である。次回、虫歯になると4回目の治療となってしまう。3回も削られたこの歯は、どれくらいの大きさになっているのだろうか。もしかして、過去の治療で大きく削られており、元々の大きさの半分程度になっているかもしれない。
 
そう考えると、今回の治療では、松に該当する60,000円のセラミックを選択し、虫歯のリスクを、ほぼゼロにする必要があったのではないか。追加で36,000円払っておけば、この歯は一生虫歯にならなかったかもしれない。歯科治療で「竹」を選ぶのと、うな重で「竹」を選ぶのを同列に考えてしまった。もっと慎重に選択すれば良かった、と私は後悔した。
 
しかし、後悔してばかりでは先に進めない。この歯を、もう一度治療して、60,000円のセラミックを被せてもらうわけにはいかない。そこで、私は歯磨きの方法を、徹底的に学ぶことにした。
 
私が通っている歯医者さんは、虫歯の治療よりも虫歯の予防に、力を入れている先だった。私は、3ヶ月に1回のペースで、そちらに通い、磨き残しがあるか、歯や歯茎を傷つけるほどの力を入れた磨き方していないか、などチェックしてもらうことにした。
 
最初のころは磨き残しが多かった。次は、歯茎を痛めつけるような磨き方になっていた。その次は、今まで磨き残しのあった部分が綺麗になり、逆に今まで綺麗に磨いていた部分に磨き残しが出るようになっていた。
 
このように前進と後退を繰り返しながら、歯磨きの指導を受けて3年ほど経過した。次第に磨き残しが少なくなり、しかも歯と歯茎に優しい磨き方になってきた。この調子でいけば、4回目の虫歯治療を、かなり先まで延ばすことが、できるかもしれない。竹を選んだ自分は、正しい選択をしたのでは、と思うようになった。
 
未来の歯科治療は、歯を削らず薬を塗るだけで済む、という話を聞いたことがある。また、再生医療の一環として、将来的には、削られた歯そのものを再生できるようになる、という話も聞いたことがある。
 
それらの技術が保険診療に適応されるのは、半世紀以上も先の話かもしれない。しかし、自費診療に組み込まれるのは、そう遠くないであろう。その時は、迷わず「松」の治療を受けようと考えている。
 
そうであれば、今ある歯が、虫歯になり削られ過ぎて割れてしまう、歯周病になって抜けてしまう、ということが起こらないように日々のケアが大切になってくる。自分の歯があるからこそ、未来の歯科治療を受けることができるのだ。
 
将来の技術の恩恵を享受するために、1日3回の正しい歯磨き、という毎日の習慣を確実に積み重ねていこうと思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
青山 一樹(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

三重県生まれ東京都在住
大学を卒業して20年以上、医療業界に従事する
2023年4月人生を変えるライティングゼミ受講
2023年10月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に加入。
タロット占いで「最も向いている職業は作家」と鑑定され、その気になる
47歳で第一子の父親になり、男性育児記を広めるべく、ライティングスキルを磨き中

 
 

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2024-07-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.270

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