週刊READING LIFE vol.274

一人暮らしあるある? ゴミを出さない生活を実現しようとした「過激エコ生活」の失敗談。《週刊READING LIFE Vol.274 環境を守る》

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2024/8/19/公開
記事:Kana(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「こんなにビニールってたくさん出るの? 普通に生きているだけなのに……」
 
野菜の入っていた透明なケース、コンタクトレンズの容器、使い捨てマスクの包装、サランラップ……
手に持ったゴミ袋は昨日交換したばかりというのに、もう半分程度埋まっていた。
慎ましく生きている私の一日だけでこんなにゴミが出るとしたら、日本は、いや世界はどうなってしまうんだろう。
想像するだけで恐ろしい。
 
数週間前から一人暮らしを始めた私は、自分の出すゴミの量に驚き、そして絶望していた。
 
しかし、この時の私はまだ知らなかった。
「ゴミを減らさなきゃ」という思いに取り憑かれた自分が暴走することに……。
 
 
どうして私はゴミの量にこんなに絶望したのか。
まずは私とゴミの関係について、幼少期から振り返ってみようと思う。
 
 
環境問題に対する私の意識は、小さい頃から比較的高かった。
特に、動物が大好きだったこともあり、環境破壊によって生じる動物たちの苦しみや悲劇には、心が強く揺さぶられた記憶がある。
例えば、油に塗れて飛べなくなった海鳥の映像や、氷が溶けて子育てができなくなるシロクマの話は、小学生の私にとって非常に衝撃的だった。
動物にまつわる話を聞くたびに、どうして罪のない動物がこんな目に、と幼いながらも強い悲しみを感じて、胸を痛めたものだ。
 
しかし、当時の私にとって、それらの悲しい話と自分の生活との間に明確な繋がりを見出すことは難しかった。
 
油にまみれて弱っていく海鳥たちや、氷が溶けて餌を求めて彷徨うシロクマの姿は、たしかに映画のワンシーンのように悲しみを誘った。
けれど、それは「フランダースの犬」を観た時と同じ、ただ純粋な「可哀想」という感情に過ぎない。
遠くの海で苦しんでいる動物の話はおとぎ話のようで、自分の身の回りの問題とは感じられなかった。
毎日学校へ行って勉強して友達と遊ぶ自分の生活とシロクマの親子の間には、物理的にも心理的にも、あまりにも距離があり過ぎた。
環境問題は地球の果ての南極で起きていることであり、大人たちが解決しなければならない問題のように感じていたのだ。
 
  
そんな私が環境問題と自分自身の生活を結びつけるようになった最初のきっかけは、ゴミの問題だった。
中学生の頃、私は家に帰るとよくテレビをつけてクローズアップ現代を観る習慣があった。
学校から帰ってきて、リビングでリラックスしながら、その日放送される特集を観るのが、私の日課の一つだった。
ある日、そこで目にしたのは、増え続けるゴミ問題についての特集だった。
 
埋め立て地の映像が映し出されると、画面いっぱいに広がるゴミの山が目に飛び込んできた。
あまりに壮絶な光景で、私はしばらくその場に釘付けになった。
これが現実なのだと思うと、衝撃を受けざるを得なかった。
私たちの元から運ばれたゴミは、遠い異国の地で異様な山を作っていた。
お金になるものを探してその山を漁る子どもの中には、自分の弟と同じぐらいの子どももいた。
 
さらに、番組は私たちが日常的に出すゴミが、地球環境にどれだけの悪影響を及ぼしているのかを示すデータや事例を紹介していた。
ゴミの焼却による温室効果ガスの排出、海洋に流れ込むプラスチックゴミが生態系に与える深刻な影響……そして、自分とシロクマがついに結びついてしまった。
 
情に訴える動物たちの映像ではなく明確にデータを見てしまったことで、これは明らかに自分たちが出したゴミが原因であり、その結果として起こっている現象だとハッキリ認識した。
これまで環境問題というのは、いつかシロクマが絶滅してしまうかも、くらいのふんわりした話だと思っていた。
しかし、このゴミ問題は「いつか」ではなく「すでに」起こっている問題だった。
自分の身近な生活と直結していることは、考えるまでもなく明らかだった。
 
 
また番組の終盤では、このゴミ問題が私たちの無意識な消費行動や生活スタイルと密接に結びついていることも語られた。
スマートフォンの普及に伴って、SNSも広がり、消費行動もますます激しくなっている。
そんな時代背景の中、私たちは日常生活の中で多くの物を消費して、捨てることで環境に負担をかけている。
それが地球全体の問題として帰ってくるのだという現実を突きつけられた時、私は大きなショックを受けた。
 
 
この番組を観てから、私はゴミを出すことに対して強い罪悪感を覚えるようになった。
自分のゴミがどこかで積み重なり、最終的に地球全体の問題に繋がっているということは、大きな責任感を感じる事実だった。
 
「ゴミを出すのは、環境に悪い。だから、できれば出さないようにしよう」
こう決意した私は、極力ゴミを出さない生活をすることを心に決めた。
具体的には、とにかく物持ちをよくすることを心がけた。
ものは簡単に捨てず、穴の空いた靴下も修繕して履いたし、ボロボロのハンカチは母に台拭きに使ってもらった。
カバンでも靴でも壊れてしまうギリギリまで使った。
友達に「リュックのファスナー壊れてるよ?」と指摘されても、本体が痛むまでは使い続けていた。
 
こんなふうに、中学生の頃から10年ほど「捨てること」を意識して暮らしてきた。
その結果、物持ちがいいことは自負していたし、「慎ましく生活している私はかなり環境に配慮できている」という自信があった。
 
……しかし、悠々自適な実家暮らしの私はまだ気づいていなかった。
私がゴミを出していないと思っているのは、たまにしか捨てない「持ち物」に関してだけということに。
家族がまとめて処理してくれる「消耗品」のゴミについては、完全にノーマークだったのである。
 
  
冒頭で述べたように、一人暮らしを始めてから、私は日々の生活の中で排出されるプラスチックの量に驚かされた。
これまで家族と一緒に暮らしていた頃は、ゴミの量や種類に意識を向けることはほとんどなかった。
しかし、自分一人で家事をすべてこなすようになると、自分の消費行動を、よりリアルに実感するようになったのだ。
 
毎週ゴミをまとめて出すたびに、その量に圧倒される。
特にプラスチックゴミの多さに驚いた。
食品の包装や日用品のパッケージ、ペットボトルなど、生活のあらゆる場面でプラスチックが使われている。
家族五人で暮らしていたときは、「家族が多いからゴミの量が多いんだ」と思い、自分の出しているゴミの量には無頓着だった。
しかし、一人暮らしをしている今、すべてのゴミが自分の出したゴミであり、言い訳の余地がなかった。
 
 
ゴミを出すことに罪悪感のある私は、気づいたら「いかにしてゴミを減らすか」ということばかり考えるようになった。
とにかく使い捨てプラスチックを減らさなければ。
その一心で、シリコン製の使いまわせるサランラップや保存容器を楽天やAmazonで探して回った。
これなら一度購入すれば繰り返し使えるから、ゴミを減らすことができると考えたのだ。
 
ペットボトルの飲料も買わないようにした。
代わりに、自分で水筒を持ち歩くようにし、外出先でも飲み物を自分で準備するようになった。
さらに、スーパーやコンビニで買い物をする際も、過剰包装に見える商品は避けるようになり、できるだけ包装が簡素なものや、リサイクル可能な包装を使用している商品を選ぶようにした。
 
 
エコフレンドリーな生活を目指す中で、私は自然とインターネットで同じように環境に配慮した生活をしている人々のブログや記事を読む機会が増えた。
彼らの生活スタイルを見ていると、ゴミを出さないための努力が本当に徹底している。
ベランダにコンポストを作ったり、野菜クズも料理に使ったり、包装の多い調味料は買わずに手作りしたり……。
アイデアの詰まった暮らしの様子は面白く勉強になるものばかりだった。
 
しかし、そういう人々のストイックな生活を見るたびに、自分がまだまだ甘いのではないかという思いが強くなる。
どれだけ意識してゴミを減らそうとしても、完全にゼロにすることは難しい現実に直面すると、自分の努力が足りないように感じ、自己嫌悪に陥ることが多くなった。
 
 
その反動でより一層、便利グッズやエコ製品への執着が高まっていった。
検索履歴にはエコグッズの商品名が並び、Amazonのカートにはたくさんの便利グッズが控えていた。
 
ゴミを出さないために、次々と新しいエコグッズを探し、購入しては試してみる。
プラスチックの代わりに使えるアイテムや、再利用可能な日用品など、エコと名の付くものを手に入れることで、自分が環境に貢献できているという安心感を得ようとしていた。もちろん、それらのアイテムが実際にゴミを減らす効果があるのは確かだ。
しかし、いつの間にかその目的が「エコ」そのものではなく、「エコグッズを持つこと」にすり替わってしまっていたのかもしれない。
買ったけど使っていないエコグッズは、もはやゴミである。
 
それに、「水筒を持ち歩く」「過剰包装は買わない」「サランラップは使わない」などのマイルールが増えるにつれ、徐々に暮らしにくくなっていった。
買い物に時間がかかったり、料理の効率が悪くなったり、少しずつ生活のストレスが溜まる。
その結果、疲れてお惣菜を買う日が増え、お惣菜の容器のゴミが増えてゴミ袋のカサが増した。
本末転倒とはまさにこのことである。
 
 
そんな状況が続く中で、私はふと気付いた。
環境に優しい生活を目指すことは素晴らしいことだけど、それが無理をしてまで行うものではない。
エコ生活を意識しすぎて、かえって自分にプレッシャーをかけてしまうのは本末転倒であり、継続できなければなんの意味もないのだ。
 
今では、私は無理をせずに、必要なところでは普通にサランラップを使うようになった。もちろん、無駄遣いを避けるために必要な分だけ使うように気をつけてはいる。
無理にエコグッズにこだわることはやめて、エコバッグを持ち歩くことや、再利用できる容器を使うことなど、自分にとって無理のない範囲で続けられるエコ活動を心がけている。
 
他にも、ゴミの分別やリサイクルに出すといった基本的なことをきちんと確実にこなしている。
以前はゴミを出すこと自体に罪悪感を感じていたが、今ではそれを過剰に気にするのではなく、正しく分別してリサイクルできるものはきちんとリサイクルに出すことに意識を向けている。
ゴミを出さないことにこだわるのではなく、適切に処理する方がよっぽど重要で現実的であった。
 
 
とにかく、「こうしなければならない」という思い込みや完璧主義が強すぎると、偏った消費行動につながりやすい。
私が無理にエコ生活をしようとして、かえって無駄にエコ製品を購入したように、思い込みから発生する偏った消費行動は無駄なゴミを増やしやすいと思う。
 
例えば、「何かイベントがあるたびに新しい服を着なければ」と思っていた大学生の頃は無駄にたくさん服を持っていた。
でも、それば自分がやりたくてそうしていたわけではなく、「同じ服を着ていると思われたくない」といった何らかの恐れから来ていた。
エコ製品を買い漁っていた時も全く同じで、「ゴミを出してはいけない」という強迫観念が、消費を加速させていた。
 
このことに気づいてから、私は自分の買う動機をしっかり精査して、歪んだ消費行動をしていないか、よくチェックするようになった。
その結果、無駄な買い物を減らす仕組みが出来がったのである。
 
 
環境に配慮することは大切だが、自分にとって無理のない範囲で、それが生活の一部として自然に取り入れられるような方法を見つけることが、長続きする鍵だと思う。
環境問題に対する意識は今も変わらないが、それをどう自分の生活に取り入れるかについては、以前よりも柔軟になった。
無理なく続けられる行動を見つけてそれを習慣化することで、自分にも環境にも優しい生活を送っているという実感を持ち続けている。
 
無理をしないことこそが、結果的に地球環境への貢献につながる。
何事もバランスが大切なのだ。
一人暮らし始めたての過激エコ生活は不毛だったけれど、このバランス感覚を身につけるために必要だったんだな、と今では思っている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
Kana(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

愛知県生まれ。滋賀県在住。 2023年6月開講のライティングゼミ、同年10月開講のライターズ倶楽部に参加。お風呂で本を読むのが好き。 好きな作家は、江國香織、よしもとばなな、川上弘美、川上未映子。

 
 

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2024-08-14 | Posted in 週刊READING LIFE vol.274

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