週刊READING LIFE vol.275

わたし、中学一年生の時に生まれ変わりました。《週刊READING LIFE Vol.275 人生のターニングポイント》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2024/8/26/公開
記事:ひーまま(READINGLIFE編集部ライティングX)
 
 
本文
今年の夏、猛暑のさなか、私は30年ぶりに小学校、中学校の同窓会に参加した。前回参加したのが35歳だから……今年は参加者全員が年金をもらい始める年になるということだ。
 
さすがに65歳ともなるとかわいかった小学生の頃の面影はない。
自分自身もそうだからみんな顔と名前が一致しなくても当然だよね。
そんな風に思いながら会場の中華料理店に入っていった。
 
会場には25人の参加者。幹事を務めているのは小学校2年生の時の同級生だ。クラスでは一番背が小さく、可愛かったその男子は見事なお腹に、はにかんだような微笑みで受付をしていた。
 
その隣にいた男子は?会費を出す私に「お~ひろみちゃん! ようきたねえ!」と満面の笑顔で挨拶してくれた。(名前で呼ばれるなんてなんと久しぶりか!! )いっきに私は小学生の子供になっていた。
ドキドキして席に座って、内心きっと誰も私を覚えてなんかいないよね。そんな風に思っていた。
 
小学校2年生からのわたしは、夜のお店を初めた両親の不在や、家事をやりくりするので精いっぱいで、ゆっくり友達と遊んだことがないし、夜遅くまで幼い妹や弟の世話で疲れ果てていて、学校ではいつも居眠りをしていた、同級生には嫌われていた自信があったのだ。
 
何となくおどおどしながら座っていると、隣に座った席の子が(子ではなくて立派な大人だけどね)私の旧姓を呼んで「あのころお母さんが夜の飲み屋さんやっとったよね。わたし覚えとるよ」と話しかけてきた。
 
母が夜のお店のママさん。 ということを誰にも知られてはならない。と私がどれほど苦労して隠していて、誰にも話せなくて苦しんでいたのに! いきなりなカウンターパンチを食らったような展開に驚いた。一瞬返答に困ったが、(この話は30年ぶりにここへ来たことへの回答なんじゃないかな? )と思えて、私は「そうそう、母が夜のお店で苦労していた時に、あなたのおばあちゃんにかわいがってもらったことがあるんよ」と素直に話ができた。
 
私はタイムスリップしたみたいに瞬間あの頃の自分にかえっていた。
 
今でいう「ヤングケアラー」だった私は、父と母が夜のお店に行っている間、二歳年下の妹を守りながら長い夜を過ごしていたのだ。
 
10歳からは生まれて2か月の弟の世話をしながら、またまた長い夜を過ごしていた。妹と二人も怖かったが、赤ん坊の弟を世話するのは本当に大変だった。
 
学校へは夜眠れない分、寝に行っていたような気もする。友達に説明する言葉もなくて、私はクラスの嫌われ者になっていき、休憩時間はずっと図書館にいたのだった。
 
「本」だけが私の味方だった。そのころの記憶がよみがえる彼女の一言だった。
 
小学校6年生の時、そんな生活にほとほと疲れた私は「もう死ぬしかないな」と本気で死ぬことを考える毎日だった。
いろいろ試してみたが、死ぬことは本当に大変なことだった。
こんな苦しい思いをして死ぬくらいなら、死ぬ気で自分の性格を変えてやる! クラス一の暗い人間から明るい人間になるんだ!
 
そう決意したのが小学校の卒業式だった。
 
私は中学校入学と同時に自分の性格を死ぬ気で変えることにしたのだった。これが私の人生を明るい道に向かわせたターニングポイントだったのだと思う。
 
そんなことまで思い出してくると、向かいに座っていた子が「あなたあの頃から全然変わってない! すぐに誰かわかったわ」というではないか。その子は小学校から利発な賢い子でクラスをリードしていたような記憶がある。その隣の男子も(おじさんだが)どうも私を覚えているらしい。「中学一年生の時一緒の組だったよね」というではないか。
 
その子の中の私は性格改造中の私なので、私は少しドキドキして「もしかして私、あなたに迷惑かけたり、いじめたり? しませんでしたか?」と聞いてみた。
 
もうおじさんのその男子は「いやいやそんなことはないよ」と言いながら目が泳いでいたので、きっとわたしは彼をいじめたことがあるのだろう。 お互い大人になったのでにこにことその場を濁した。
 
中学一年生になった私は、本気で性格を変えたのだ。
「人に好かれるには」という題名の一冊の本を頼りに取り組んだ性格改造は次のような順番があった。
 
第一に「笑顔」
 
第二に「挨拶」
 
第三に「会話」
 
なんで、そのような本が私の手元にあったのか? というと、生活に疲れて笑顔もなく、学校でも家庭でも無口に徹していた私に、困り果てた父親がその「人に好かれるには」の本を買ってきてくれたのだ。今ならそんな私に誰がした? と父に思いっきり突っ込みたいような気もするが、当時の父親は話をするもの恐ろしい存在だったので、その本をありがたく受け取ったのである。
 
第一の「笑顔」だが、その本によると一にも二にも笑顔は練習です。と書かれており、様々な笑顔の作り方が紹介されていた。
鏡に向かって毎朝(ニッコリ)と作り笑顔を作ることから始める。
ほほの筋肉を柔らかくして、口角をあげるのだ。
 
なかなか笑顔の顔にならない。生活苦のためか口はへの字になって、歯を食いしばっているので、まずは筋肉が固くなっているのだ。
お風呂でほっぺたを引っ張ってみたり、大きな口で、あいうえおを叫んでみたり。最後の手段でお箸をくわえて「い~」と発音する。
笑顔の練習はとても効果を表した。
 
第二の「挨拶」も練習を重ねて少しづつできるようになってきた。
「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」「今日は天気がいいね」「今日はあいにくの雨だね」「今日は暑いね」「今日は寒いね」
「元気?」などなど具体的に書かれた文言は子供らしくないものもあったが、試してみると、クラスメイトにも先生にも良い感じの反応だった。
 
第三の「会話」は本の趣旨からきっと大人向けの内容だった。
「会話の大切さは、まず相手の興味を知ることです」に始まっていてどんな会話をすれば話が弾むのか? 詳しく解説されてた。
 
そこで私は、まだ当時一般的ではなかったが、星座占い、というのに着目した。クラス全員に「あなたの誕生日を教えてくれたら、なんの星座か調べてあげる」と声をかけて一人ずつの星座を調べてあげたのである。これは結構受けて、男子も女子もワイワイと話がもりあがった。相性占いをしてあげると、こっそり好きな人の星座を教えてほしいという子まででてきた。
 
「笑顔」と「挨拶」と「会話」で、私はクラス一暗かった子から。中学1年生が終わるころには、「あなたのように明るい人間になりたい」と言われるようにまでなっていたのである。
 
私にとってのターニングポイントは確かにこの「性格改造」にあると思う。どれだけ自分が頑張ったのか、どれだけその時友達ができたことが私の自信になったのか。人間って捨てたもんではないって思えたのか。同窓会で再開したその時のクラスメイトのはにかんだ笑顔がその時の私を思い出させてくれた。
 
65歳になった私は、12歳の私の頑張りにどれほど支えられてきたのかはっきりとわかった。その後の半世紀、山あり谷あり断崖絶壁ありの人生を歩いてきたけれど、暗くて人が大嫌い。の自分を明るくて人が好き。の私に生まれ変わらせてくれて本当にありがとうって感謝の気持ちでいっぱいになった。
 
同窓会の最後には、みんなと「また来年逢おうね。元気で長生きしようね」と笑顔で記念写真を撮った。
 
私のターニングポイントが今の私を作ってくれている。人生の不思議にしみじみ感じいっている。人生100年。あたらしいターニングポイントがこの同窓会のような気がする。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール

大阪生まれ。2歳半から広島育ちの現在広島在住の65歳。2023年6月開講のライティングゼミを受講。10月開講のライターズ倶楽部に参加。様々な活動を通して世界平和の実現を願っている。趣味は読書。書道では篆書、盆石は細川流を研鑽している。

 
 

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2024-08-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol.275

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