週刊READING LIFE vol.275

あの時の自分の選択決断を褒めてあげたい《週刊READING LIFE Vol.275 人生のターニングポイント》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2024/8/26/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「もしかしたら、ここへ行ったら、私のこれまでのモヤモヤしていた原因がわかるかもしれない」
 
今から14年ほど前、私は最寄り駅前にある大型書店で、ある本と出会った。
 
「新片づけ術 断捨離」
 
その本が置かれていたのは、書店にある、いわゆる「趣味と実用コーナー」というところだった。
当時、私は整理収納の先生方が出された本を、書店でよく読んでいた。
そんな何気ない日常のある日、一冊の本に目をとめたのだ。
 
物心ついたころから、私は片づけが勝手に出来ていた。
小学生の頃、自分の部屋では、その勉強机の中も、タンスの中も、自分できれいに整頓、収納をしていた。
勉強机の引き出しは、お菓子の空き箱などを利用して、鉛筆、消しゴム、定規などの文房具をきれいに収納していた。
タンスの洋服に至っても、きれいにたたんで引き出しにしまっていた。
誰から教わるでもなく、几帳面な性格の私は、お片づけに困ったことがない人生を歩むこととなったのだ。
 
それとは逆に、実家の母は元々片づけが苦手だった。
かつてのわが家は、敷地が広く、間取りで言うと8Kほどの部屋数があった。
モノを置ける場所があるもので、母は自分の寝室や納戸に収まり切らないモノを他の部屋に侵出してまでもモノを抱え込むような人だった。
昭和一桁生まれ、戦前、戦中、戦後を生きて来た母にとっては、モノがないという恐怖を味わいながらの生活だった。
なので、私が生まれた昭和30年代後半でも、食べ物を残すと叱られ、使えるモノは全部とっておくものだと教え込まれたのだ。
片づけが上手な上に、モノを捨てずに持つことを言われ続けていたので、私の身の周りは、モノが溢れてはみ出すことはなかったものの、その量はどんどん増えて行ったのだ。
 
大人になって、結婚して子どもが生まれ、ママ友たちとのお付き合いが始まると、子育ての悩みの次くらいに、片づけの悩みをみんなが抱えていることを知った。
物心ついたころから、器用にモノを収納出来ていた私は、そんなママ友のお家の片づけを手伝うことが多かったのだが、とても感謝された。
そうか、片づけって、殆どの人は苦手なのか。
そんなことに気づいたのは、私が30代を迎えた頃だった。
 
子どもの頃から、母にも、学校の先生からも褒められていた片づけが上手な私。
ところが、家庭を持って自分で家じゅうのモノを仕切るようになった頃から、ある思いが湧いてきていた。
確かに、どれだけのモノが自分のところにやってきても、私は上手く収納は出来た。
でも、子どもも生まれ、自分のモノだけではなくなってくると、さすがにその量はとてつもなく多くなっていたのだ。
収納がきちんとされていて、床置きしているモノやテーブルに山積みにするモノもないけれど、なぜか私は家に居るとイライラすることが多くなっていった。
さらには、本を読むにも落ち着かず、とうとう駅前のカフェに行って本を読むような生活になっていったのだ。
 
母や、学校の先生、ママ友という外側からはいつも褒められる私。
ところが、自分の気持ちはいつもイライラしていて、落ち着かず、片づいているお家が好きでなかったのだ。
この外側と、自分の内側の気持ちとのギャップにモヤモヤするようになっていた。
それが、ある時、駅前の書店で出会った「新片づけ術 断捨離」の本と出会ったときに、私は直感で、「これだ」と思ったのだ。
 
私は、手に入れたその本を読んでみると、このようなことが書かれていた。
 
「モノをたくさん持っているのが幸せではない。
 
自分にとってお気に入りのモノを、側に置いて暮らすのがごきげんで幸せ」
 
私は、この文章を目にしたとき、最初は意味がわからなかったのだ。
まず、お気に入りがわからなかった。
子どもの頃から、お洋服は兄や従姉たちからのお下がり。
家族が乗らなくなった自転車を譲り受けて乗っていたし。
 
自分が気に入って何かモノを選んだ記憶がなかったのだ。
今の時代のように、しょっちゅうモノを買い与えてもらうこともなかったので、自分の好みというモノもあまりわからなかったのだ。
さらには、ごきげんではないということにも愕然とした。
そうだ、私は毎日、家にいてもイライラして落ち着かず、決してごきげんな状態ではなかった。
そんなことすら、気づくことなくただ日々をやり過ごして来たのだ。
私は、思い切って、直近の日程で、関西で開かれるセミナーを受けることにした。
 
セミナー当日、私は初めて、断捨離を提唱したやましたひでこ本人に会うこととなり、その本人の口から、「不要で、不適で、不快なモノを取り除いて、必要で、相応しく、心地よいモノへと入れ替えて、ごきげんな人生を送りましょう」
という言葉を耳にしたのだ。
その時、私の頭にすぐさま浮かんだのが、夫のことだった。
 
ずっと夫婦の関係に問題を抱え、悩んでいた。
それでも、娘がまだ幼いし、経済面にも不安があって、私はどうにも決断が出来ないでいたのだった。
それでも、この断捨離というのは、まずはモノからやってゆくということで、私はこれまでの整理収納の片づけから、断捨離をすることにした。
 
何でもかんでも取っておいて、それを上手に収納してきた私の周りには、とんでもないような量のモノがあったことにあらためて驚いたものだ。
それらを一つずつ取り出して、「これは、要る、要らない?」と、何度も自分に取りかけ、選択決断を繰り返していったのだ。
そこから、それほど時間がかかることもなく、私の周りのモノは減って行き、何よりも思考や気持ちといった見えない領域までも片づいていったのだ。
断捨離の片づけは、まさにカタチあるモノを片づけることで、カタチのない見えない領域までも片づいてゆくものだった。
私は、モノを断捨離するごとに、自分自身の本当の思いを確認してゆくこととなったのだ。
そうして、多分、トン単位で不要なモノが出て行ったときに、私は人生での大きな問題を解決することとなった。
結婚生活にピリオドが打てたのは、悩み始めてから12年の時間が経ち、干支がちょうど一回りしたころだった。
片づけに悩んだことがなかった私が、「新片づけ術 断捨離」の本に引き寄せられるように出会い、そこから行動を起こしたことが全ての始まりだった。
 
日々、何かしらの情報に触れ、新しい出会いが山のように起こっている。
ところが、それらに意識を向け、何を選びとるかということが、その後の人生に大きな影響を受けることがあるものだ。
ただ、あまりにも情報が多かったりすると、選び取ることも難しくなることもある。
 
さらには、直感で「いいな」と思ったことに対しても、「忙しいし」「費用がかかるな」などと頭で色々と考えてしまい、タイミングを逃すことも多々あるものだ。
 
でも、私が今から14年ほど前、何気なく手に取った一冊の本との出会い。
そこには、やっぱり何かしらの意味があったと思うのだ。
 
出会い、ご縁はたくさん身の周りにはあるものだ。
けれども、何を選び、行動を起こすかによって、これまでの状況をガラリと変えてくれるかもしれない。
そんな人生のターニングポイントとなるきっかけを、あの日選び取った私自身に対して、やはり褒めてあげたいと常々思う。
 
人生を変えることは大変なことかもしれない。
もちろん、今に満足しているのならば、その状況を楽しんでゆければ良いと思う。
 
ただ、現状に満足していなかったり、悩みを抱えていたりしているのだとしたら、その解決策となる何らかの情報、出会いはすでに身の周りに用意されているのかもしれない。
自分が何を選ぶのか。
そこからどう行動を起こすのか。
それによって、人生のターニングポイント、人生のステージを変えてゆくことに繋がると思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

 
 

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2024-08-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol.275

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