なりたい未来を想えばいいのに《週刊READING LIFE Vol.277 想像力の翼》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライティングX」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2024/9/9/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライティングX)
「えっ、それって本当なんですか?」
私は、参加者のある女性が、あたかもそれが現実のことのように、あまりにも詳細に、具体的に話をし始めたことに少し戸惑った。
と、いうか怖かった。
あれは、私が断捨離トレーナーとして活動を始めた頃のこと。
今から10年ほど前になる。
ある日、お茶会を開催した時のことだった。
最初は、断捨離の実践についてのあれこれを皆さんで話していた。
瀟洒なカフェで、とても気分の良い午後のひと時だった。
そのお茶会で、ある方がふとこんな話をし始めたのだ。
「私ももういい歳になってきましたからね、親のことが心配で。だって今はこうしてお仕事も自由に出来ていますが、親が認知にでもなったら介護が始まってしまいます。そうなるとお仕事も辞めなきゃいけないし、今みたいな自由な時間も無くなってしまうかと思うと、好きなことが出来るのもあと少しだけなんです」
私は、流暢にそんな話をされるのを聴いていて、ちょっと戸惑った。
それまでは、ずっと断捨離の実践のご経験を楽しそうに話してくれていたのに、何をきっかけにそんなことになったのか。
目の前にいるその参加者の方は、確か、フルタイムでお仕事をされていて、とてもお元気な様子。
この先も、お仕事やプライベートのお時間を自由に愉しく過ごしてゆけると思うのだが、彼女の口からは真逆のことが話されたのでとにかく驚いた。
そこで、あらためてその方に質問をしてみたのだ。
「ご両親は、今はどんなご様子なんですか?」
「実家で二人で暮らしています」
「ご健康状態は、いかがなんですか?」
「今は二人とも元気です」
なんだ、なんだ。
それならば、先ほどの話は一体何なんだ?
例えば、少しずつ調子が悪くなってきているとか、ご両親のどちらかが、具合が悪いとかならばわかるのだが。
今、全くお元気なご両親のことを、この先は病気をしてゆく、しかも近い未来にそれが起こるように語られたことに私は驚いた。
この経験は、忘れられないくらいの衝撃ではあったが、その後、やっぱり多くの人が同じようなことを口にするのだった。
子育てを頑張っていて、毎日とても充実しているママ友は、
「もうしばらくしたら、男の子は大学進学から遠くへ行ってしまうもんね。子育ての楽しみも今だけよ。男の子を育てるのは切ないもんよ」
地元から大学へ通うお子さんも多いし、まだ地方の大学を希望されている訳でもないのに、そんなことを話していたのだ。
「もう、50歳も過ぎたから、この先好きなことはそうたくさんできないでしょ。だから出来るだけ今、好きなことをしておかないとね。いつ身体が動かなくなるかわからないし」
体調が悪いところもなくて、いつもエネルギッシュに動いている人なのに、口をついて出てくる言葉がそんな話だった時にも、私はとても驚いた。
みんな、未来に対してそんな想像しかしないんだろうか。
未来って、当たり前だけれど、まだやってきていないのだ。
だから、何がどうなるかなんて、誰にもわからないのに。
そう、1秒先のことだってわからないものだ。
でも、こんなにも多くの人が、その未来に対してなぜかネガティブな想像しかしていないのだ。
今、ここにいて、元気で幸せに過ごしているのに、なぜ、未来になるといきなり不幸オンパレードみたいな想像力を発揮してしまうのだろうか。
確かに、そうなるかもしれない、でもそうでない確率だって今の時点では半分あるのだ。
まだ起こっていない未来に何が起こるかは、良い事も、悪い事も、確率は同じはず。
けれども、なぜか悪い事が起こる方の確率を大きく想像してしまうクセがあるようだ。
想像の世界、未知のことについては、誰にもわからない。
それは、誰にも操作出来ない領域だと思う。
ただ、今、何を想うかでその先がどの方向に行くかが変わるような気がするのだ。
それは、私が小学生の頃に体験したことがある。
私は、どちらかというと運動オンチだった。
走ることも、ボールを投げることも苦手だった。
特に、器械体操は何一つ上手く出来なかった。
当時、体育の時間には、その授業で取り組んだことは最後にはテストをしていた。
鉄棒では、逆上がりが出来るか。
水泳では、25メートルをクロールで泳げるか。
そんなある日、跳び箱のテストがあった。
私は、だんだん高くなってゆく跳び箱が怖くて、勢いよく走り出しても、ロイター板(踏切板)を跳んだあと、跳び箱の真ん中くらいでお尻をついてしまっていた。
何度、練習しても跳び箱を跳び越えて、向こう側のマットに着地が出来ないのだ。
そして、体育の時間も終わる頃、いよいよ跳び箱のテストが始まったのだ。
私は、怖くて、大嫌いな跳び箱の授業。
テストも自信なんて全くなかった。
でも、テストに合格しなかったら、どうなるかもわかっていた。
当時は、不合格になったら、放課後に残って練習をさせられたのだ。
そして、また次の授業の時に、再テストを受けるのだった。
それは、合格できるまで容赦なく続くのだった。
そう、大嫌いな跳び箱を、ずっと長くやらなくてはいけないことがわかっていたのだ。
ああ、それだけは絶対にイヤだ。
もう、跳び箱は今日限りで終わりたい!
その想いだけは強かったのだ。
そうなると、火事場のバカ力ではないが、私の中でグルグルと色んな想いやエネルギーが回り始めるのだ。
「私は跳べる、絶対に跳べるからね」
そんな強い思いを胸に、その言葉を自分に言い聞かせ、助走を始める。
そして、いつもよりも跳び箱の遠くに手をつくことが出来た。
説明はつかないが、何かが私に力を貸してくれたかのように。
すると、自分の身体は、助走の勢いと、手をついた位置もあって、いつもより傾斜がついて、そのままお尻も前方へと持っていけて、ストンと跳び箱の向こう側へと落とせたのだ。
両足もしっかりとマットを踏みしめていた。
「出来た! 跳べた!」
あんなにも授業中の練習では跳べなかったのに。
絶対に跳ぶんだと自分に言い聞かせると、よくわからない力が湧いてきたのだ。
あの日の経験は、私の記憶にしっかりと刻まれている。
そう、普段の授業の練習では、
「怖いなあ。跳べないよ」
と、私は思いながら跳んでいたので跳べなかった。
でも、跳び箱のテストの時だけは、
「大丈夫、絶対に跳べるから」
と、自分に言い聞かせて跳んだのだ。
これは単純な例になるかもしれないけれど、あながち間違ってはいないと思うのだ。
自分にとって、これから先の未来に起こることは、つまり自分の想いが大きく作用していると思うのだ。
「跳べない、跳べない」と、想っていたら、きっと、ずっと跳べないままだったと思うのだ。
だって、私が跳べないと未来を宣言しているのだから。
そう思うと、私はなりたい未来を言葉にすればいいんじゃないかな、と思うのだ。
世間ではどうだとか、この年齢だとこうなるとか、そんなのは一例であって自分に当てはまるかどうかなんてわからないこと。
しかも、それは自分が想像するなりたい未来でないのであれば、何も採用しなくてもいいのではないだろうか。
想像力には、翼があるんだと思う。
翼というのは、自分が思う通りの方向へ軽やかに行ってくれるように私は思い、信じている。
私は、今の断捨離トレーナーという仕事は、定年がない。
なので、ずっと、愉しく、続けてゆくことしか考えていない。
その過程で、どれだけの人に出会い、どれだけの人を幸せに出来るだろうかと思うと、想像するだけでワクワクするのだ。
今、クラシックバレエも続けているし、体力には自信もある。
この先も、元気に動き回り、断捨離を全国、全世界に届けることしか想像していない。
自分の未来、人生は、どうなるかわからないとも思う。
でも、今の時点で何をどう想像するかは、自分次第だ。
その時には、是非、なりたい自分、未来を想像してみたらいいのではないだろうか。
きっと、その想像力は翼を持って、その想いの方向へと自分を送り届けて行ってくれると私は信じているのだが。
そう思っている今が、何より幸せなのだけど。
□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。
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