「言葉にすると願いは叶う」というけれど、それって本当? 結果、本当でした。《週刊READING LIFE Vol.293》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「新・ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2025/1/20/公開
記事:松本萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
2025年1月16日、43歳になった。
「誕生日は休む」と決めていて今年も目標通り有休を取った私は、趣味の弓道をするために自宅から電車とバスを乗り継いで2時間かかる弓道場に向かっていた。そんなにも時間をかけて弓道場に行く理由は、去年の12月に引っ越したからだ。以前は30分で行けたのだが、今はそうはいかない。そろそろ新しい道場を開拓しなければいけない。
電車に揺られてウトウトしながら、一年前の今日、自分への誕生日プレゼントとして花束を購入するために、経堂の花屋まで行ったことを思い出した。
その花屋の存在を知ったのは数年前のことだ。インスタでオススメとして出てきた、黒を基調にしたシックな店内をバックに、躍動感のある花達を写した写真に釘付けになった。私の中で花といえば、おだやかで優しい存在だったのだが、携帯の画面に映し出された花達は勢いがあり生命力に満ちあふれていた。バックに写る黒壁とモルタルの床の無骨さが、より鮮明に花を浮かび上がらせていて、そう感じたのかもしれない。一瞬にして世界観に引き込まれるとともに、いつかこの花屋で花束を注文してみたいと思った。
一昨年の秋にあったとある出来事をきっかけに「今のままではだめだ。もっと自分を大切にしよう」「自分の思いを叶えよう」と心に決めた私は、あの花屋の花束を自分への誕生日プレゼントにすることを思いついた。自分へのプレゼントとして花束を頼むなんて人生初の試みだ。
電話口で「どのようなご用途ですか?」と聞かれ、「自分へのプレゼントなんですけど……」と恐る恐る告げたところ「素敵ですね」と言われた。どんな店か興味のあった私は「配送しましょうか」という提案を丁重に断り、誕生日当日電車を乗り継いで2時間かけて花束を受け取りに行った。私のことを待っていた花束は、事前にオーダーしていた白に加え、緑も加わった生き生きとした花達だった。
「あれから一年、自分の人生はガラッと変わった」と感慨深く思いながら、インスタのストーリーズに花束の写真を載せたことを思い出し、アプリを開いてみた。アーカイブを確認すると「過去のこの日」として一年前のストーリーズが出てきた。自分のために作ってもらった花束を抱えて笑顔で写る写メの下に、42歳の決意表明が書かれていた。
「いつか○○したい」
「今度は○○したい」
後回しにする癖やめます
「いつ○○する」と言い切る
42歳の目標です
「一年前の私、ずいぶんかっこいいこと言ってるな」と思うと同時に、当時ドキドキしながらこのストーリーズを作ったことを思い出した。
子供の頃から言い切ることが苦手だった。ましてや人前でなんてもっての外だ。「実現できなかったら恥ずかしい」という思いを持っていたからだ。
その思いを完全に払拭できていたわけではない。それでも去年の私は自分を信じるため、自分を鼓舞するため、自分で自分の人生をメイクするんだという強い意思を持って、ストーリーズに載せた。
結果去年の一月、ある新年会で一年の抱負として語った目標を実現することができた。
2024年の年明けに参加した新年会で、幹事が「予祝をしよう」と言い出した。
予祝とは夢が叶っていることを前提に、先にお祝いをして実現する未来を引き寄せるというものだ。新年会の参加者5名ともそれぞれの2024年の年末はこうなっていると語り、聞いているメンバーは「おめでとう!」と言い合った。
そろそろ自分の番だ、何を言おうと考えていたとき、だれにも言ったことのないある考えが浮かんだ。
数年前から結婚したいと思い行動し付き合うことはあっても、結婚まで至らずにいた。「本当に自分は結婚したいと思っているんだろうか」「そもそも自分に結婚生活ができるんだろうか」と考え込んでしまうこともあった。自分の行動を変えようと決意するきっかけとなった一昨年の秋の出来事は、まさに結婚やパートナーに関係することだった。
秋から冬に掛け、一人悶々としながら出した答えは「私は人生を共に歩むパートナーがいる生活をしたい」だった。
追い込まれないとやる気が出ない私は、毎年大晦日ギリギリまで年賀状を書いているのだが、2023年の年末も変わらず大晦日に年賀状を書きながら、いつか「住所と名前が変わりました」と書いてみたいと妄想していた。
そうだ、これを言おう。
「今、年賀状を準備しているんですが、結婚して住所と姓が変わりましたって書いてます!」
羞恥心を押し殺し、宣言した。「えー! 素敵!」「入籍はいつしたの?」「その人とはいつ出会ったの?」
今はフリーでそんな相手もいないので、しどろもどろになりながら「えっとー…… 2月に出会って11月に入籍かな」と答えたところ、「2月ってもうすぐじゃん! 早く行動しないと」と突っ込まれた。
今思えば付き合っている人も、ましてや付き合いそうな人もいない中、よく宣言したと自分でも思う。でもそれくらい腹をくくらないと、自分は行動できないという自覚はあった。
「いつかはいつまでも来ない」という言葉があるが、本当にそうだ。夢や目標と行動はセットということは、今までの人生でよく分かっている。どんな生活をしたいのかは年末に悶々とする中で明確になっていたので、あとは行動するのみだ。「私なんて……」「そんな魅力的じゃないし……」という自分を卑下する思いとはサヨナラし、出会いの場に赴いた。
程なく出会った男性と3月から付き合うことになった。
付き合う前に決めていることがあった。それは「今度付き合う人の前では、いつも素直な私でいる」ということだ。
今までの私は恋愛に限らず友人との付き合いでも、自分の思いをはっきりと伝えることはなかった。相手がどうしたいかを探り、それをあたかも自分もしたいと思っているかのように「しよう」と提案することが多かった。それは自分を無視していることになる。自分を大切にすると決めたのだから、自分の考えや思いを大切にしないと約束反故になる。
今までやってこなかったので最初はドキドキしたが、自分がどうしたいか、どう思っているかを伝えるようにした。恥ずかしくて直接言えないときは、別れた後にLINEで伝えることもあった。
付き合い始めて数ヶ月後、夏の暑い盛りに新年会のメンバーと会う機会があり「予祝のときに宣言したことは実現しそう?」と聞かれた。付き合いは順調に続いているが、予祝の内容を彼に伝えていないことを打ち明けたら「本人に伝えてみたら」とアドバイスをもらった。
あからさまな内容で引かれるんじゃないかと不安になりつつ、しどろもどろに「1月に予祝っていうのをやってね」と彼に伝えた。反応は「そうなんだ」というアッサリとしたもので肩透かしを食らった気分になったが、言いにくいことを伝えられるようになった自分を自画自賛して紛らわした。
でもこれがよかった。
私が今年中に結婚したいと思っていることを知った彼が、9月に旅先でプロポーズをしてくれた。「今年中にプロポーズしてくれたら嬉しいな」と考えていたので、まさか9月に言われるとは思っておらず「今!?」と叫んでしまった。
旅行後の週末は入籍に向けての準備や新居探し、加えて仕事の忙しいピークが重なって忙しない日々だったが、無事11月に入籍をし、12月から一緒に暮らし始めている。そして2025年の年賀状では、入籍し姓が変わったことと引っ越したことを報告した。
自分でもにわかに信じ難いが、予祝実現だ。
本当に言葉にすると願いは叶うのだ。事実私はその通りになった。
ただし気をつけなければいけないことがある。それは言葉にするだけでは叶わないということだ。とんでもなく素敵な妄想をして周囲に熱く語ってももちろんいいのだが、今がその状態になっていないのであれば、変化を恐れず行動しなければいけない。
何をするのか、どんな自分(マインド)でいるのか、どんな環境に身を置くのか、叶うまで時間が掛かるときにどう振る舞うか、今まで大切にしてきたことを捨てないとたどり着けないときに大切なものを捨てられるか…… 大きな決断を伴うことがあるかもしれない。そのたびに自分と会話し、ときに人に助けてもらいながら行動し続けられるかが問われる。
私流の解釈だが「言葉にすると願いは叶う」は、まず自分の思いを言葉にすることでハッキリさせて自分の中に落とし込み、そうすることで「自分はどうしたい?」「何をしたらいい?」と自分への問いかけが始まり、「こうしてみよう!」と行動に現れるのだと思っている。言葉にすることは、願いに向けての小さいながらもかけがえのない、大切な一歩だ。言葉にするという、ほんの少しの勇気を持てるかで、世界はガラリと変わる。
43歳の誕生日は自分への贈り物を準備しなかった。
夫が「夕食を作るよ」と言ってくれ、帰り際にケーキを買ってくると言ってくれたからだ。寒空の中帰ってきた夫を出迎えたら、ケーキと共に「お誕生日おめでとう」と、花束も準備してくれていた。「去年は自分で花束を買ったと言っていたから、花束を贈ろうと決めていたんだよね」とのこと。
夫がくれた花は白色が基調で、合間にピンクや紫の花が添えられていた。「どういう花束にして欲しいとお願いしたの?」と聞いたら、「白色が好きかなと思って、白色をメインにとお願いしたよ」と返ってきた。私が昨年オーダーしたのと一緒だ。出会ってまだ一年経っていないが、夫は私のことをよく分かっている。いや、知ろうとしてくれている。とても有り難いことだ。
「言葉にすると願いは叶う」は本当だった。
□ライターズプロフィール
松本萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
兵庫県生まれ。東京都在住。
2023年6月より天狼院書店のライティング講座を受講中。
「行きたいところに行く・会いたい人に会いに行く・食べたいものを食べる」がモットー。平日は会社勤めをし、休日は高校の頃から続けている弓道で息抜きをする日々。
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