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週間READING LIFE vol.3

30手前で彼氏と別れたわけ《週刊READING LIFE vol.3「とにかくこの本を読んでくれ」》


 

記事:あかり(ライターズ倶楽部)

 

最初の出会いは映画だった。

お休みの土曜日、「暇だねー、映画でもみようか」となり、当時付き合っていた彼氏とDVDを借りに行った。
なんとなく選んだのがそれだった。
パッケージが可愛かったし、出ている俳優さんも好きだったので。
観始めたのが遅くて夜中までになってしまい、彼氏は途中で寝ていた。
私は最後までくいいるように観ていた。
ラスト、「あれ? 私泣いてる……!」ということに気付いて驚いた。その横で彼氏はすやすやと寝ていた。

観た日からなんとなく心の何処かに残っていて、なにかがもやもやとしていた。

なんだろう。
何がこんなに心をざわつかせているのだろう。
気になって調べてみると漫画原作だということが分かって、出張の合間を縫って3日後には原作を買っていた。
家で一人で読むのがなんとなく嫌で、カウンター席だったというのにマスターに多少気を遣いながら喫茶店に持ち込んで読んだ。
一気に読んだ。
読み終わったその日の内に、彼氏と別れた。
つまり「彼氏と別れよう」という気持ちの、背中を押してくれた漫画だった。
29歳になってしばらくの出来事だった。

それまで、なんとなく上手くいかないことが続いていた。
仕事も忙しくて、彼氏との関係もなんとなく上手く行かなくなっていた。
服のボタンをかけ違えたときのように、「何かが違う」「このままでいいんだっけ?」と事あるごとに思っていた。
付き合いたての頃からは想像も出来ないくらい、一人で泣くことが多くなっていた。
まあ、彼氏と別れるときなんてだいたいそうなのかもしれないけれど。

でも、周りの反応は全く違うものだった。
彼氏のお母さんは優しい人で、私を彼(つまり息子)と一緒に家に招いてくれたり、一緒に野球観戦に行ったりしていた。
野球に行くときは、たいていその後居酒屋コースが定番で、家族で居酒屋に行くという習慣が無かった私にとっては、とても新鮮だった。
私のことを娘のようにかわいがってくれた。
私も、お母さんの事が好きだった。
彼にはお兄さんがいて、お兄さんのお嫁さんも、いわゆる家族ぐるみの付き合いみたいな感じになっていた。
「いつ結婚するの?」とよく聞かれ、新婚のお二人から結婚生活の色々を聞いて「楽しそうだな、私もこの家族に混ぜてもらう日が来るのかな?」と思っていた。

彼も、私の家族に会っていた。
初めて会う時はそれはそれは緊張していたけれど、そんなものなんだろう。
私の家族も「いい子だね」と彼のことを褒めていた。

共通の友人も、一緒に飲みに行くたびに「いつ結婚するの?」と聞いていた。
友人も新婚で、「結婚、いいよ!」とものすごく勧めてきたし、実際話を聞いていても、大変なこともあるけれどおおむね楽しそうだった。

私はというと、みんなからそう言われる度に、「これでいいんだろうか……? 本当にいいのかな?」といつも思っていた。
外から見ると、私たちは仲が良くて順調に行っていて、もうすぐ結婚するカップルだった。

でも、実情は違った。
いや、実際仲は良かったと思う。
私から見て、彼はいい人だったと思うし、優しかった。
でも、私は彼についてどうしても理解できない点があり、そこがいつも揉め事のタネになっていた。
そのタネに火がついて、他の違うことにいくつもいくつも飛び火していた。
今考えると、とっくに破綻していたのだと思う。
それが表に出ないように、一生懸命つぎはぎで取り繕っていた。
けれど、もう限界だった。

そんな時に出会ってしまったのだ、この漫画に。
主人公は私と年も近く、うっかり、しかしどっぷりと感情移入してしまった。
起きる出来事ひとつひとつに心を動かされ、乱され、「どうしよう……」と毎回考えて考えて、ひとりで抱えきれなくなって友達に相談してみたりして、でも基本は自分のこころに聞いて考えてみる。
そんな主人公の様子に自分を重ねずにはいられなかった。
別に境遇がすごく似ていたというわけでは無い。
彼氏のタイプが似ていたというわけでも無い。
でも、主人公が悩みながら行動して、時折分からなくなって考えるのを止めたりして、そんなひとつひとつが、「あぁ、私と一緒だ」と思えた。

誰でも、恋をするとこんな風に悩むのだ。

相手の気持ちが分からなくて、自分の気持ちもわからなくなって、最終的に何が良いのか悪いのか、わからなくなってしまう瞬間って、きっと、ある。
「そういうことってあなただけじゃなくて、他の人もなんだよ、みんなそうなんだよ」と教えてくれる漫画だった。

最終的に、私が彼と別れることを選んだのは、自分の気持ちに正直になった結果だった。
人との関わり方に正解なんてものは無い。
でも、間違いなくあの時にこの漫画に背中を押されて彼と別れる決断をしたのは、私にとって正解だった。
彼に関連して知り合ったすべての人達には、とても感謝している。
みんな、いい人たちばかりだった。
そんな人達に囲まれて生きている彼も、もちろんいい人だった。
私は、彼と付き合うことでそれまで知らなかったいろいろな「楽しい」を知ることが出来たし、付き合う前の過去に戻ったとしても、たぶんまた、彼と付き合うと思う。
そして、たぶんまたつらい思いをして、別れるんだと思う。
今の自分を作り上げているのは、あの経験があったからこそだと思うから。
苦しんで苦しんで、他でもない自分の気持ちはどこにあるのか探して探して、ああでもないこうでもないと考えて考えて、たどり着いた結果だったから。
そしてまた悩んだ時には、映画の予告編でも流れたあのセリフを思い出すんだろう。

「大事なのは誰を好きかじゃない、誰と一緒にいる自分を好きかということだ」

 

紹介した本:『脳内ポイズンベリー』①~⑤
水城せとな
集英社、① 2011年 ~ ⑤ 2015年

❏ライタープロフィール
あかり(Akari)
九州在住、30代。
書き仕事に憧れを持ちつつ、勉強が足りないと悩んでいたところ天狼院書店、ライティング・ゼミを知り、受講。
現在は会社員をしながら文章を書く日々。

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2018-10-22 | Posted in 週間READING LIFE vol.3

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