いくら読んでも太らない! お腹と心をほっこり満たす、美味しい小説・エッセイ7選《週刊READING LIFE vol.3「とにかくこの本を読んでくれ」》
記事:大國 沙織
日に日に寒さが増し、暖かい食卓が恋しくなる季節ですね。
本を読んでも、なんだか記憶に残るのは美味しそうな描写ばかり……。
それはやっぱり、私が食いしん坊だからでしょうか?
食べ過ぎると、どうしても増えゆく体重が気になるところですが、美味しい本はいくら読んでも大丈夫!
魅力的な食事シーンが登場する小説や、「食べる」ことを見つめ直したくなるエッセイなど、世にも美味しい7冊を集めました。
あたたかい部屋でぬくぬく読書をしながら、身も心もほっこりしませんか?
美味しそうな食事風景の描写がたまらない作家といえば、柚木麻子の右に出る人はそういないかもしれません。
特におすすめなのが、『ランチのアッコちゃん』から始まる三作シリーズ。
登場する料理の一品一品が、なんとも食欲をそそる表現で描かれており、思わず涎が出そうになります。
失恋して元気のない主人公・美智子の上司“アッコさん”は、ひとことで言うなら「愛ある毒舌キャラ」。
彼女は周りの人を元気にするべく、誰もがあっと驚くようなぶっとんだ行動を、次々と起こしていきます。
その中で効果的に用いられているのが、「ごはん」のチカラ!
寒い夜にキッチンカーで颯爽と登場したアッコさんの振る舞う熱々のポトフは、ふわっとした湯気まで目に浮かぶようで本当に美味しそう……。
食べる人のことを想い、「消化がよくなるから」とポトフに大根おろしを入れるシーンがあるのですが、どんな味がするのか気になって仕方がありません。
とにかくパワフルなアッコさんから、生きていくエネルギーをもらえます。
彼女のまっすぐな信念から、仕事に遊び心を利かせることの大切さや、「こんなかっこいい働き方もあるんだ……!」ということを教えてくれる、読了後はやる気がみなぎる本です。
同じく柚木麻子作品では、花火大会でたまたま隣り合わせた男性に一目惚れし、彼からもらった稲荷寿司を手がかりに再会を図ろうとする表題作の入った、『あまからカルテット』もおすすめ。
じゅわっと甘い煮汁の染みた稲荷寿司は、果たして恋のキューピッドになってくれるのでしょうか?
ほかにも食べるラー油や甘食などが登場し、美味しそうなシーンが目白押し。
どんなときも協力し合うことを忘れない、女友達四人の友情模様も見逃せません。
大切な人と囲む食卓が、きっとより愛おしく思えてくるはず。
有川浩『植物図鑑』は、めくるめく野草の世界の楽しみ方を教えてくれる一冊。
主人公のOL・さやかの家に一文無しで転がり込んできた青年イツキは、いわゆる「植物オタク」で、道端に生えている野草を摘んできては、どんどん料理に変身させていきます。
「フキの混ぜごはん」や「ノビルのパスタ」など、登場する野草料理のどれもが、滋味豊かで実に美味しそう……。
それにしても、自生している草を摘んで食卓を彩るとは、なんて粋で素敵な遊びなのでしょうか。
※一緒に野草摘みデートをしてくれる彼氏が欲しくなるので、ご注意を!
日本の豊かな食文化を堪能したいなら、平野恵理子『歳時記おしながき』をぜひ。
昔から伝わる四季折々の料理の数々が、美しい絵と文章で綴られています。
春は、お花見しながら食べたいちらし寿司。
初夏には、一年分の梅仕事を。暑い時節は、涼をさそう素麺やところてん。
秋は果物や木の実、お芋など、実り豊かな季節。
寒くなると、冬至に食べたいかぼちゃ料理や、暖かい鍋もの。
新年のお祝いに、華やかなおせち料理……。
今は一年中好きなものが食べられる時代だけれど、季節ならではの料理は、やっぱり特別感があって格別ですよね。
日本には「二十四節気七十二候」という自然のサイクルに基づいて作られた暦があり、それぞれの時節に合わせて、旬の食材を理にかなった形で食べていました。
行事や習慣にもすべて意味があるそうで、昔の日本人ってすごいなぁとしみじみ思えます。
「ああ、なんて豊かな国に生まれたんだろう……」と嬉しくなる一冊です。
日本の食文化といえば、やっぱり外せないのがお弁当!
海外では“Bento box”の名で親しまれており、「あんな小さな箱にさまざまな具材が美しく敷き詰められ、まるでアート作品のようだ!」と人気を集めているとか。
十三湊『ちどり亭にようこそ』は、そんなお弁当の魅力をたっぷりと味わえる、シリーズ作品のライトノベルです。
舞台は、昔ながらの風情が色濃く残る京都。
町家が連なる姉小路通沿いに、こぢんまりと店を構える仕出し弁当屋「ちどり亭」の物語です。
20代半ばの店主・花柚は、毎週のようにお見合いをしては残念な結果に終わり、「お見合いがライフワークなの」と笑うお茶目なキャラクターの持ち主。
恋愛には不器用でも料理の腕は確かで、彼女の作る日替わりのお弁当は、毎日食べたくなるほど美味しそう。
家で出すごはんとは違う、時間が経ってから食べるお弁当ならではの工夫も随所に登場し、料理の勉強にもなります!
「忙しくてお弁当なんて作る暇ないよ〜」という人こそ、ぜひ読んでみて。
暮らしと仕事の両方を大事にしたい人に読んでほしいのが、塚本久美『月を見てパンを焼く』。
兵庫は丹波の山奥で一人パンを焼く、女性店主のエッセイです。
旅するパン屋「ヒヨリブロート」は実店舗を持たず、通信販売専門という前代未聞の形をとるも、予約はなんと5年待ちという人気ぶり!
ドイツで現地のパン職人から、月の暦に合わせたパン作りを学び、「20日間はパンを焼き、10日間は生産者を巡る」という独自のスタイルを確立したそうです。
旅先で出会った地元ならではの食材を、生産者さんと直接触れ合いながら、次々と美味しそうなパンに変身させていく塚本さん。
「酒粕と黒さや大納言のパン」や「味噌とみりんのパン」などユニークなそのラインナップは、味が想像できないだけに、余計気になるところ。
彼女のパンを手に入れるのはなかなかの難関ですが、ぜひ一度食べてみたいものです。
「パンを一つも無駄にしたくない」「旅をしながらパンを焼きたい」など、並々ならぬこだわりを無理なく貫く彼女の姿勢から、「理想の働き方」ってどういうことかを考えさせられます。
最後にご紹介するのは、「奇跡のリンゴ」で知られる木村秋則さんの著書、『リンゴが教えてくれたこと』。
絶対に不可能と思われていた、農薬を使わない自然栽培に挑戦したリンゴ農家のドキュメンタリーです。
その道のりは果てしなく、想像以上に壮絶でした。
「自然が全て教えてくれる、私はそのお世話をするだけ」という姿勢で、リンゴの木と向き合い続けた日々。
まさに本のタイトルから、木村さんの謙虚な人柄がにじみ出ているようです。
普通なら除去対象になる虫や雑草にも役割があり、自然界には無駄なものは何もない。
これはもしかすると、人生にも通ずる真実かもしれません。
「食べること」とどう向き合うか。
プロフェショナルな仕事とは。
人間と自然が共存するには……。
生きる本質を見つめ直すためのヒントをくれる一冊です。
食べるという行為は、毎日ずっと続いていくこと。
私たちの日常から、切っても切り離せないテーマです。
いつどんな場所で、誰と、何を食べるのか。そこから、物語は無限に広がります。
いくら読んでも太らない、美味しい本たち。
どうぞお腹いっぱい召し上がれ!
〈紹介した本〉
柚木麻子『ランチのアッコちゃん』
柚木麻子『あまからカルテット』
有川浩『植物図鑑』
平野恵理子『歳時記おしながき』
十三湊『ちどり亭にようこそ』
塚本久美『月を見てパンを焼く』
木村秋則『リンゴが教えてくれたこと』
❏ライタープロフィール
大國 沙織(Saori Ohkuni)
1989年東京都生まれ、千葉県鴨川市在住。
4〜7歳までアメリカで過ごすも英語が話せない、なんちゃって帰国子女。高校時代に自律神経失調を患ったことをきっかけに、ベジタリアンと裸族になり、健康を取り戻す。
同志社大学文学部国文学科卒業。同大学院総合政策科学研究科ソーシャル・イノベーションコース修士課程修了。
正食クッキングスクール師範科修了。インナービューティープランナー®。
出版社で雑誌編集を経て、フリーライター、料理家として活動。毎日何冊も読まないと満足できない本の虫で、好きな作家はミヒャエル・エンデ。
【メディア掲載】マクロビオティック月刊誌『むすび』に一年間連載。イタリアのヴィーガンマガジン『Vegan Italy』にインタビュー掲載。webマガジン『Vegewel Style』に執筆中。
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