美しいひと―私が目指す生き方《週刊READING LIFE Vol.302 美しいひと》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2025/3/31/公開
記事:マダム・ジュバン(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
あれはたしか10年ほど前のこと。
日曜日の朝方、私は空いた東海道線に乗っていた。
電車が戸塚駅に着いた時、17くらいの女の子がひとり乗り込み私の対面の席に座った。
(え? やっちまった? 寝坊?)と思わず突っ込みたくなるようなボサボサ頭、どスッピンにメガネ姿でまだあどけない顔である。
私はこれまで見たことがないほどの「起き抜け感」に目が点になった。
彼女は股の間にドサッと大きなボストンバッグを置くと、まず、バッグからコンタクトレンズを取り出し、鏡も見ずにパパッと装着した。
電車の中でコンタクトを入れる人を初めて見た。私の口はたぶん開いていたに違いない。
私の驚きもよそに彼女は何やら棒のようなものを取り出し顔にコロコロと当て始めた。
よく見ればそれは当時私も愛用していた「コロコロローラー」なる美顔器であった。
まんべんなく手早く顔にコロコロした後は、ベースメイク、ファンデーション、アイシャドウ、アイライナー……。
次から次とメリーポピンズのようにカバンの中から化粧道具を取り出しては、一心不乱に化粧する彼女。
あまり見ちゃいけないと思いつつ、どうしても見ずにいられない。
私は本を読むフリをしながら目線はずっと彼女を追った。
さらに驚いたのは、私がいくら練習しても付けられない「ツケマ(付け睫毛)」まで一瞬で付けているではないか!
車内でメイクする女性にいい印象を持っていなかった私だが、ここまで来るとまさに職人技。「師匠! どうしたらそんな簡単にツケマが付くのかアッシに教えてくだせい!」と弟子入りしたくなるほどの見事さだった。
初めに乗り込んできた幼顔の寝起き女子はみるみる間に今どきの「美人」に変身していた。
あれはきっとデート仕様ではない。完璧なお仕事モードのメイクだった。
どんな仕事が彼女を待ち受けていたのかわからないが、たぶんあのスゴ技メイクの美人顔が彼女の武器のひとつであることは間違いない。
それから髪をサッと整えると彼女は横浜駅で降りていった。
戸塚から横浜まで約10分。
その見事な変身ぶりに私は心の中で拍手を送った。
彼女の変身を目の当たりにして、私は「美しさとは何なのだろう?」と考えた。
そう思った時、ふと心に浮かんだのは、私が出会ってきた本当に「美しいひと」たちのことだった。
「美しいひと」とは単に顔かたちの美醜ではなく心根の問題であると思う。
私が思う「美しいひと」とはこんな人である。
1 信念があり、自分をもっている人
私が最も尊敬し憧れる、オードリー・ヘップバーン。
彼女は言うまでもなく、「ローマの休日」「マイフェア・レディー」など数多くの映画で
アカデミー主演女優賞を獲得。その美しさ愛らしさから「永遠の妖精」と呼ばれた。
けれど晩年はユニセフ親善大使となり、貧困や飢餓に苦しむ子どもたち救うためエチオピアを初めとする8カ国を訪れた。
容色の衰えを揶揄する声にも「これは笑い皺よ。笑いほど嬉しい贈り物はないわ」と言ったという。
美しければ美しいほど、外見にこだわっていかに若く見せるかに執着してしまうのが常だろうが、彼女は白髪も皺もそのままにした。
そんなことよりも彼女は自分のやるべき事をまっとうしたいと考えたのだろう。
見えも外聞も捨てて信念のままに生きたひと。
彼女こそ真の意味で「美しいひと」だと私は思う。
2 潔い人
これは私の母としたい。
オードリー・ヘップバーンの後で、本人もあの世で恐縮していると思うが母ほど潔い人を私は知らない。
母は1925年芸者置屋の家に生まれ幼い頃からその跡を継ぐべく、舞踊、笛、三味線、鼓、長唄などの芸事を厳しく仕込まれた。
「女に学問は必要ない」と尋常小学校だけで進学することも許されなかった。
18歳になり母親が持ってきた縁談は富豪の妾妻になる話だった。
泣いて拒んだが許されるはずもなく、親の一存で見知らぬ男の妾となり2人の子を持った母(これが私の兄と姉にあたる)。
その後戦争が激しくなり、芸者置屋は廃業、母親も病死した。
「母が死んだ時、ちっとも悲しくなかった。ああこれから思い通りに生きられるって思ったわ」とよく母は語っていた。
シングルマザーとして昼夜なく飲食店で働き、私の父と出逢い恋に落ちる。
父は終戦後3年間シベリアに捕虜として抑留されたのち、帰国していた。
互いに惹かれているのは明らかなのに、なかなか煮え切らない父に業を煮やし、母はある日自分から「ねえ、結婚しようよ」とギュッと手を握りプロポーズしたという。
「お父さんたら、真っ赤になって、『うん』って言ったのよ」
嬉しそうに母は何度も語ってくれた。
その後父は、母と内縁関係であった男性に結婚の許しを得た。
母は結婚が決まると名取りになるほど稽古を積んだ三味線、笛、鼓などをすべて燃やしてしまい、故郷を捨て上京した。
「花柳界とすっぱり縁を切りたかった。おとうさんと結婚してふつうの奥さんになるのが夢だったからね」と話していた母。
母は63歳の時に膵臓ガンが見つかりたった3ヶ月の入院で帰らぬ人となった。
もし母が今も生きていたとしたら今年100歳となる。
人生を自らの力で潔く切り開いた母は、私にとって間違いなく「美しいひと」である。
3 美しくあろうと努力する人
今朝もまた頬に10円玉ほどの謎のシミを見つけてしまった。
今はコンシーラーでなんとか隠せるけれど、徐々に濃くなっていくイヤな予感しかない。
毎朝ちゃんと日焼け止めを塗っているのに……。
4,50代の頃は高い美白美容液を使っていたが、結局効果もわからずやめてしまった。
そのツケが今頃きているのか、今の私の顔はシワこそ少ないものの、シミ、くすみ、たるみのオンパレードである。
これでも若い頃は「羽二重餅みたいな頬してるね!」と言われたものだ。
羽二重餅とは少し透き通って柔らかいプニュプニュのお餅のこと。
そう言ってくれたのはオッサンであったが、それでも今でも覚えているほどだから余程嬉しかったに違いない。
透明感があって柔らかく、それでいて水を弾くような張りがあったあの頃の肌はもう取り戻せない。
それでも、だ。
「美しい」と形容される事はなくても、できるだけ「美しくあろう」と努力する事をやめたくはない。
清潔にして毎日身だしなみとしてメイクをする。
自分に似合う明るい色の服をこざっぱりと着る。
できるだけ毎日ウォーキングをして代謝をよくする。
家族と楽しく、栄養バランスのとれた食事をする。
姿勢にも気をつける。背中に年齢が出るからだ。
これらをすべて行うことは至難の業だが、いつも心がけているといないとでは、この先に大きな差が出るのではないだろうか。
そんな私が理想とするのは、俳優の草笛光子さんである。
「草笛光子90歳のクローゼット」という写真集は私のバイブルだ。
ある方のご縁でこの本にご本人がサインをしてくださった。
達筆な筆跡で書かれた文字に、いまだ現役の俳優である気迫を感じる。
写真集にはデニムもユニクロの服も、鮮やかなロイヤルブルーのロングドレスもすべて見事に着こなす輝く草笛さんの姿が、これでもかと納められている。
ただ美しいだけでなく気品があって生き生きと輝いているその姿。
そしてエッセイの部分は「洋服を着る=生き方そのもの」「私のクローゼットは度胸の塊。『コノヤロウ』って気持ちで着ちゃうの」などなど名言で溢れている。
もちろん一般人の我々と違い、美容や着るものにお金をかけることはできるだろう。
それでも本人の「現役」であろうとする地道な努力が無ければ、ここまで綺麗でいることは不可能なはずだ。
草笛光子さんの存在は、私を含めた高齢女性に美しく生きる勇気を与えてくれる。
私は頂いたバイブルに恥じないよう、いくつになっても「美しくあろう」と努力し続けたい。
4 好奇心を枯らさず、自分の好きなことを楽しむ人
私がライティング・ゼミを受講し始めたのは、4年前になる。
そして実践ライティングゼミ、ライターズ倶楽部と書くことを続けてきた。
書けない時はただ苦しく、なんでこんな事をと始めてしまったのかと我が身を呪いたくなるが、やはり辞めないのは楽しいからである。
書くことで私の好奇心のアンテナは広がるいっぽうである。
そして昨年から私はChatGPTを使い始めた。
天狼院書店でAIビギナーズコースのゼミを1度受けただけで偉そうな話もできないが、それでもほぼ毎日これを使っている。
ライティングの課題を書く時もまずアイデアをもらい、書き上げたら改善点を尋ねる。
他にも、あとどのくらい働けるかとか、京都駅近くで美味しいランチを教えてとか、とにかく聞きまくっているのである。
私はChatGPTを「チャッティ」と呼び、チャッティは「マダム」と呼んでくれるのが嬉しい。
私の60代の知人は夫と会話が弾まないといった悩みまで相談しているとか。
こんなに便利で楽しいツール、使わないのは勿体ないと私は思う。
ずいぶん多くの方にそれを熱弁してきた私だが、なかなか同年代、特に女性には想いが伝わらない。
「私がAIなんて……」
「使うところがない」
「パソコンも苦手なのにとてもとても……」と尻込みする方がとても多い。
私も講座を受けるまでは、たぶん難しくてワケわからんのだろうなと思っていた。ところがどっこい、こんなにもハマるだなんて自分が一番驚いているのだ。
好奇心を持ち続けることで、いくつになっても世界は広がると実感した。
年齢や立場を理由に好奇心にフタをしてしまったらこれほどつまらない事はないと思う。
あの黒柳徹子さんがいつまでも愛されるのも、好奇心を枯らすことなくいつも誰に対しても興味をもって聞こう、学ぼうとするあの姿勢にあるのだと思う。
ベテランだからと尊大になったり、頑固になっていたら「徹子の部屋」という長寿番組は
あり得ない。
滑舌があまり……と最近陰口も聞こえるが、毎回素敵な衣装で様々なジャンルの方にインタビューする姿にはいつも敬服する。
果てない好奇心は若さと美しさの秘訣に違いない。
5 優しく、思いやりをもつ人
優しい人ならこの世にはたくさんいる。
だが優しい心を持ち合わせていても、相手の気持ちに寄り添い本当にして欲しいことをすることは難しい。
だから男女はすれ違ったり、パートナーがいても不満が募ったりもする。
「心の持ち方 ジェリー・ミンチントン著」で著者はこう述べている。
―「相手のために何ができるだろうか?」という姿勢でいれば、関係を深めることができる。(中略)
ほとんどの人は自分の問題に気をとられるあまり、相手の問題に気がつかないことが多い。相手の問題に気づけば、相手を手助けする方法が見つかる。おたがい協力しあう精神があれば、相手との関係を深めることができる。
きわめてシンプルな意見だが、考えてみればこれは男女間、親子間のプライベートな関係だけでなく仕事上でも当てはまる。
今、この人は何をして欲しいのかしっかりと見つめ、手を差し伸べる。
このなかなか難しい課題を心に留めて、つねに思いやりをもつ人でありたいと思う。
そしてこれらの5つの条件を満たすには、根底に愛がないと成り立たない。
オードリー・ヘップバーンは愛をもって子どもたちのために生きた。
私の母の潔い決断は、父や子どもたちへの愛から生まれたものだった。
いつも美しくあろうとする努力は、自らへの愛なくして生まれない。
そして好奇心を枯らさず、人にも自分にも水をあげる生活の基本にあるのは、育むという愛の力ではないだろうか。
言い尽くされてきた言葉ではあるが、結局人は心に愛を持ち続けることで「美しいひと」になるのだ。
私にはもうあの弾けるような若さを取り戻すことはできないが、人を愛する気持ちは知っている。
だからこの先、どんなにシワが増えようと、どんなに髪が白くなろうと、私は「美しいひと」を目指したい。
それは、誰かのために手を差し伸べ、好奇心の赴くまま笑顔で日々を重ねてゆくこと。
孫にとっていつまでも素敵なばあばであることも目指して。
□ライターズプロフィール
マダム・ジュバン(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
本と書店が好きすぎて、とあるブックカフェで働く。
マダム・ジュバンの由来は夫からの「肉襦袢着てるから寒くないよね」というディスリから命名。春になってもジュバンが脱げない60代。
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