週刊READING LIFE vol.302

誰が何と言おうと私は美人だし、君はイケメンだ《週刊READING LIFE Vol.302 美しいひと》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2025/3/31/公開
記事:パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
とある月曜日の朝、まだ眠い目をこすりながら私は洗面所に向かった。景気づけに冷たい水でパシャパシャッと顔を洗う。今日からまた新しい一週間の始まりだ。
顔を上げて洗面台の鏡に映る自分を見て思わずハッとした。
 
(今日の私、なんか、可愛い……)
 
いやいや冷静に考えてみたまえ!
四十をとっくに超えてシミもシワもある女がびっくりするほど可愛いはずはない!
とも思ったのだが、明らかに発光していた。
目ん玉の白目の部分はいつも以上に澄んでいるし、心なしか肌がキュッと頭頂部に向かって上がっている。締まったことで目は通常の1.25倍という数値を叩き出していた(あくまで推測)。ぼんやりベールを被らされていたようなくすみが消え、顔全体がとてもスッキリしている。
 
心当たりしかなかった。
このところ、やけに健康的な生活をしていたからだ。
 
これまで怠惰を愛してやまなかった私が、どういう風の吹き回しか外で働くようになった。といっても週に3日ほどのゆるいパート勤務だが、定食屋で接客や調理補助といった業務をおこなう。
最初こそ、久しぶりの労働ということもあり、やけにアドレナリンが出過ぎて、疲れているはずなのに夜眠れない日があった。しかし、慣れてくると3~4時間の立ち仕事がよい運動になっているのか、夜は子供たちと寝落ちし、朝までぐっすり眠るようになった。
私は夜型から朝型への移行に期せずして成功したのだ。
 
働いて変わった事は他にもあった。とにかくお腹が空くようになったことだ。
次男が幼稚園に行っている間に食べる昼食といえば、朝の残りとか適当にパンをつまむみたいな事が多かったが、立ち仕事は体力を使うのでモリモリ食べないともたない。
幸い、定食屋のまかないを安く食べられるので、米・肉・みそ汁・少々の野菜といったバランスのとれた食事を取るようになった。
米の美味しさを再発見した私は、自宅でも米をよく食べるようになった。
 
そして、以前より体力がついた事で、今まで以上に子供たちと外遊びに行くようになった。土日に早くから公園に出向き、朝日を浴びながら体を動かすのはとても気持ちがよい。
仕事を始めたことにより、巻き込まれていた心身の健康のスパイラルは、いつのまにか綺麗のスパイラルに繋がっていたのかもしれないと思ったりする。
 
怠惰からイキイキとした生活になったことを肌で感じたのだろうか。6才の舌足らずの次男が夕飯どきにこんな事を言いだした。
「おかーつぁん かわいい。うちゅういち かわいい」
最近、健康的な美に関して自信を持ち始めていた私は、その突然の告白に胸を張って応えた。
「ありがとう。お母さんもそう思う」
素直に嬉しかった。と同時に、やっぱり母として心身ともに健康的な暮らしを追求するということは子供たちにとってもステキな事なのではないかとひとり感慨深くなった。
しかし、そうは問屋が卸さないのが9才の長男だった。
 
「いや……普通に考えて、アイドルの方が絶対可愛いやろ」
こらッ! 長男!! そんな当たり前のこと言うな!!
母だってわかっている。宇宙一可愛いってのは事実ではなく、次男から母へのプレゼントだ!
 
そしてこの後、冷静沈着な9才に負けじと返した6才の言葉に、思いがけず感動することになる。
「あいどるには あいどるのかわいさがあるし、おかーつぁんには おかーつぁんのかわいさがある」
 
……!!
私は叫びたくなるほどの衝動を抑えて言った。
「本当そう! そういうことなのよ!!」
 
美しさを比べるのに、絶対的な基準というものはない。そもそも比べるべきものではないのだ。
ステージでファンのためにスポットライトを浴びながら歌い踊る容姿端麗なアイドルも美しいし、子供たちのためにせっせとご飯を用意し明るく元気にケラケラ笑うお母さんもまた美しい。
 
美しさという基準が明確にない分、自身で「私の美しい所はここだ」と認めて気分を盛り上げ自己肯定感を爆上げするのも一つの手だし、周りにいる人の良さをあえて口に出していくことで自信を持ってもらうということは、個人的に非常に有効であると考えている。
 
自己肯定感といえば、私は気志團のボーカル綾小路翔のエピソードが大好きだ。
母に溺愛されていた綾小路翔は、幼少期から「可愛い可愛い。あんたは顔がかっこいい。整っている」と言われ続けて育った。すくすくと育った翔少年は、思春期を迎えていたある日、母に言う。
「俺、そろそろジャニーズ事務所に履歴書送ろうと思う」
それに対する母の返しは、翔少年の想像とは遥かに異なるものだった。
「いや、違う……そういう事じゃないんだよ」
 
翔少年は当時、自分の美が世界に通用するものではないという現実を突きつけられ大変なショックを受けたそうだが、のちにこのエピソードを音楽番組のトークコーナーで語る姿はとても楽しそうだったのを覚えている。
 
可愛い可愛いと言われて育って子供が自信満々になるなんて、もう子育ての半分は成功してるじゃん! 私はそう思った。
どのみち最終的には、子供は親元を離れ、巣立って行く。外の世界に行けば自信をなくし、傷つくこともあるだろう。そんな時に思い出す「お前は可愛い」という魔法の言葉は、どんな事があっても応援しているし、そのままのお前が大好きだよというメッセージになりうる。
実際、テレビ番組で見かける翔さんは、明るく周囲の人間への気遣いがありコミュニケーション能力が高いように見受けられた。やはり、親の愛情を存分に受け取った子供は自分のチャーミングな部分をちゃんと知っている気がする。
 
だからというわけではないが、私も気づけば特別なフィルターを通して子供を見るようになっていた。いわゆる親バカである。
例えば、長男が学校の宿題に取り組んでいる時。まつげを下に伏せながら時折パチパチと瞬きをする真剣な表情をみれば(か……かっこいい……)となるし、まだあどけなさの残る顔でミニカー遊びに集中している次男を見ればこれまた(か……かっこいい……)となるのである。
あくまで本人に気づかれないように、その真剣な瞬間を盗み見する母は、家庭内ストーカーとして本領を発揮している。
 
さらには、黙ってみているだけじゃ飽き足らず、ついには本人たちにも君たちがどれほどイケメンであるかを熱く語ってしまうのである。
「あんたたちはタイプの違うイケメンだからね。○○(6才)はソース顔で、〇〇(9才)は醤油顔だね!」
「お母さん、古いって」
そうなのだ。問題は母の美的感覚が昭和で思い切り止まっていることなのだ。
しかし、私は構わず続ける。
「確かにね! でもあんたは(9才)は少年隊でいうところのヒガシやからね!!」
「いや、わからんて」
なにぃ? わからない?? あの彫刻のように美しい顔のヒガシを知らない??
 
苦笑いの9才に危うく詰め寄るところだったが、無理もない。昭和のかっこいい代表、ヒガシはあと二年で還暦らしい。9才が知るはずもないのだ。私は時代の流れを感じるしかなかった。
 
美的感覚を磨くには、今の若者が「美しい」と感じる人を知っておかないといけない。
「ねえ、じゃあさ、『美しい』とか『きれい』とか『かっこいい』って感じる人って、誰?」
私は9才に聞いた。
 
「Mrs. GREEN APPLEの大森さんかな! かっこいいし、歌うまいし、ステージに立ってる時の大森さんはなんかキラキラしてて眩しい!」
ミセスの大ファンである9才は、もちろん! といった感じで即答した。
大森さんの人気は言及するまでもないと思うが、どちらかというと中性的なお顔立ちや、煌びやかで映えるメイクや衣装が、もしかしたら今の時代をとても反映しているのかもしれないと感じた。
 
男性でもメイクをする時代になったし、多様性が認められつつある世の中で「美しい」の定義はより難しくなった。その分、誰もが主役になれる時代にもなった。
 
だからこそ、やはり、自分もまた「美しい」と胸を張ることが大事なのだ。
私は鏡を見て言う。
「なんか、今日、可愛くない!?」
そして漏れなく子供たちにも言うのだ。
「あんたたち、今日も揃ってイケメンだねぇ!!!!!」
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
鬼瓦のような顔で男児二人を育て、てんやわんやの日々を送る主婦。ライティングゼミ生時代にメディアグランプリ総合優勝3回。テーマを与えられてもなお、筆力をあげられるよう精進していきます!押忍!

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2025-03-24 | Posted in 週刊READING LIFE vol.302

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